10話 PVP大会・一回戦 アカリ

 控室で先ほどの戦いを回想していると、扉がノックされる。


「はーい、どうぞ!」


「お疲れー」「お疲れ様でーす!」


 部屋に入ってきたのはノエルとアオイだ。


「お、二人はどうだった!?」


「もちろん!」「勝ちました!」


「おお! 全員進出なんて凄いな」


「先輩の試合見ましたよ! 良く勝てましたね!」


「二人はどうだったんだ? 苦戦しなかったのか?」


「僕は楽勝だったかな」「私は少し苦戦しましたが、何とか!」


「あ、そうそう。がおちゃんさん達『犬猫の集い』も進出してました!」


 思いがけずみんな進出しているようで何よりだ。


 これは楽しいトーナメントになるだろう。


――――――――


 翌日。

 

 大闘技場の中央には緊張が漂っていた。


「お待たせしました。これより、第九試合を開始いたします!」


 マイクマンが宣言すると、一気に会場の雰囲気が変わった。


「まずはこの選手! 予選決勝でゴウガ選手と白熱した戦いを見せた戦士! 再び熱い試合を見せてくれ! ユキ選手!」


「対するは、PVP経験無しでここまで勝ち上がってきたスーパールーキー! 推しへの愛を力に変えるか!? アカリ選手!」


 熱狂的な歓声が響き渡る。


 アカリ。彼女はりりぃの熱狂的なファンである。PVPの経験は全くなく、大会以外では戦ったことがないそうだ。……という話は全て昨日ノエルやアオイ、エリカから聞いた。


 両者、自信に満ちた表情を浮かべながら闘技場に姿を現す。


 正対した少女。彼女の装備しているライトアーマーは防御力と素早さどちらも取ることのできる装備だ。


「それでは、カウントダウンを開始します! 10……9……」


 マイクマンと観客のカウントダウンが始まる。みんな予選よりも熱狂的だ。


「……やってやる!」


 紫電の剣と風凪の盾を構える。


 彼女の武器はプラチナソード。盾は持たず、片手剣一本で戦うようだ。


「試合開始です!」

 

 ゴングの音が鳴り響き、戦いが始まった。


 俺は一直線で近づく。


 それを切り伏せるような素早い斬撃。

 

 俺は盾でそれを防ぎ――、


「甘い! 隙だらけだ!」


 ――瞬時に攻撃に移り鋭い斬撃を放つ!


 横一閃。彼女の腹を的確に狙い斬り裂く。


 彼女は俺の嵐のような速攻にもめげず、攻撃を繰り返す。


 俺はそれらを再び防ぎカウンターを狙う。


 しかし、今度は機敏な身のこなしで避けられた。


「あまり甘く見ないでください」


 風が歓声を運ぶ中、彼女は俺を睨んだ。


「もちろん。全力でいく!」


――――――――


 試合開始から一分が経過した。


 彼女の攻撃は段々と激しさを増していき俺は防戦一方になる。


 斬撃、斬撃、時折突き。斬撃、斬撃、蹴り。


 すると次第に戦いの中で疲労が蓄積されていったからか、彼女の攻撃は散漫になる。


 俺は攻勢に転じていき、的確な一撃を重ねる。


「……ここだ! スキル、紫電一閃!」


 彼女の防御が緩んだ瞬間。輝きを増した紫電の剣が彼女を仕留めにかかる。


「スキル、フレイムスラッシュ!」


 二つの剣が交錯し、橙色の火花が散る。

 

 そこに、紫電の剣の特殊効果が放つ斬撃が彼女の剣を吹き飛ばす。


 彼女が剣を拾い上げる瞬間――、


「ごめん!」


 ――蹴りを一発おみまいする。


 ゲームの中、真剣勝負といえど女の子を蹴るのは不快だ。


 吹き飛んだ彼女は苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がった。


「まだ、まだ戦える!」


 彼女は再び剣を手にし、最後の勇気を振り絞る決意を固める。


――――――――

 五分経過。


 俺は彼女の執念を認め、一瞬たりとも油断することなく戦い続けた。


 再び剣が交差し、闘技場には激しい剣術の音が響き渡る。


 彼女は気力と技術を結集し、持ち前の俊敏さで俺に対抗する。


 彼女の攻撃は疲労に反して段々と鋭くなり、俺を圧倒するような展開が見えてきた。


 しかし、俺には自信と読みがあった。


 ゴウガとの一戦。たった一度の格上との戦いで得た自信と感覚を頼りに、彼女の動きを読み、巧みに反撃した。


 彼女の攻撃は再び予測可能になり、俺は的確にそれをかわして反撃を加える。


 彼女は限界に近づいていた。彼女の力は次第に衰え、俺の優位がますます顕著になっていった。


「これが、最後の一撃です。受けてくれますか!」


「ああ! 全力で応える!」


「「スキル発動!」」


 炎を纏うプラチナソードと雷を纏う紫電の剣が中心でぶつかり合う。


 二本の剣が軋る。


「「うおおおおお!!!」」


 辺りは爆炎に包まれる。


「ど、どうなったんだ!?」「どっちが勝ったんだ!?」


「勝者は……俺だ!」


 倒れた彼女の横で、剣を天高く掲げる。


「おおおおおおお!」


 それに応えるように鬨の声が響く。

 

「だ、第九試合。勝者、ユキ選手!」


「あーあ、負けちゃいました」

 

 立ち上がったアカリは微笑む。けれど、どこかその表情は悔しそうだ。


「対戦ありがとう、強かった」


「あーあ、優勝して真のナンバーワンリスナーになるはずでしたが、その野望は潰えてしまいました。でも、その思いは貴方に託します」


「ああ! って、そんなの託されても困るっていうか……」


「ええ!? じゃあなんで参加してるんですか!?」


「そりゃあ、腕試し的な?」


「ええ、珍しい。そんな人、貴方くらいですよ」


 そんなことないと思うけどなぁ


「でも! 絶対にリベンジしますからね。約束ですよ」


「ああ、いつでも受けて立つ」


 先ほどまで熱い戦いを見せていた二人は、再戦の約束を胸に固い握手を結んだ。


――――――――

 数時間後。


 第十六試合も終わり、二回戦進出者が決定した。


 俺以外にはノエルとがおちゃんさんが勝ち上がり、アオイは敗退した。


「アオイ、残念だったな。どんな相手だったんだ?」


「槍使いの人でした。私の魔法もことごとく避けられて、避ける隙もない連続攻撃であっという間の決着でした」


 アオイはしょんぼりとしている。


「安心しろ。俺たちが勝ってくる」


「うん。任せて! 商品もアオイちゃんにあげるから!」


「はい、ありがとうございます。よーし、こうなったら全力で応援しますね!」


 あっという間にいつも通りの彼女に戻る。


「えー、皆さん! 白熱した試合ありがとうございました!」


 特等席にりりぃが登場する。


「それでは早速、明日の二回戦の組み合わせを発表します! 組み合わせは~、こちらです! ででん!」


 覆っていた布が落ち、選手と観客が一斉に巨大ボードに注目する。


「「「……ああ!」」」


 俺とノエル、アオイの声が重なる。


「なんか薄々こうなりそうな気はしてたが、ここでか」


「あはは、だよね。フラグ回収って感じ?」


「わ、私は一体どうすれば……」


 俺たち苦笑いを浮かべる中、りりぃがマイクで高らかに宣言する。


「それでは明日、二回戦・第一試合【ユキ選手VSノエル選手】からスタートです!」








 

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