無気力な魔女

無気力な魔女

 今日もまた、無気力な魔女のいる家のドアを開ける

「おや、また来たのかい?」

 魔女はいつものように、気だるげな声色でそう言って

 怪しげに光る薬品が入った試験管を片手にこちらを覗く

「そうだ、今日は自分で食べるようにクッキーを作っていたんだった」

 そう言って向けた目線を追うと

 少し散らかった机の上に、お皿に綺麗に盛り付けられたクッキーが置かれていた

 言われてみれば、様々な薬草の匂いに混じってほのかに甘い香りを感じる

「どうしてもというのなら食べてもいいよ、まぁ、

 作ってからそこそこ経っているから…」

 言い終える前に迷わず一つ手に取り口に運ぶ

「遠慮というものを知らないのかい?君は」

 口の中で柔らかく砕けほのかに甘い味が口の中に広がる

 気がつくと三つ目を頬張っていた

「そんなに美味しかったかい?」

 その問いに対し思ったままを答えた

「そうかい…私はまだ食べてないのだから少しは残しておいておくれよ?」

 いつの間にか紅茶の入ったティーポットとカップをテーブルに置き

 対面の椅子座っていた魔女が、頬杖をついて無気力な目でこちらを見ている

「そうだ、君は私が作ったクッキーを食べた」

 何かいい事を思いついたような顔で魔女は言う

「ならば君は私に対価を払うべきだ」

 …何かとても嫌な予感がする

「ちょうど新薬が完成したところだ、試しに飲んでみてくれ」

 ・・・


 ・・・

 気がつくと朝日が昇っている

 どうやらあの後気絶してしまったらしい

 記憶が曖昧だ

 ふと実験机の方を見ると魔女がこちらを見ている

「ふむ…思っていたよりも早く起きたな…」

 そう呟きながらメモをとっている

「ああ起きたならもう帰っていいぞ〜」

 魔女はペンを持っていた方の手をヒラヒラさせながらそう言う

 ベットから起き身支度を済ませドアを開ける

 明るい朝日が池を照らし出す中帰路についた

 鳥のなき声か響き頬を掠める風が冷たい

 ふと違和感に気づき

 上着のポケットを確認すると

 クッキーが三つ入った小包が入っていた

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無気力な魔女 @rinne_adashino

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