最終話 爆弾投下
二回同じ個所に東条君の両手剣を食らったファフニールは、硬い鱗をそのままに、頭蓋を真っ二つに割られてその場で動かなくなった。
「ふぅ、討伐完了だな」
「やった! ねこまちゃんお疲れ!」
「ありがと! みんな無事でよかったよね!」
三人が思い思いに勝鬨を上げると、コメントの方も盛り上がる。
『すげえ! 本当に四人でファフニールって倒せるんだ!』
『実際方法はあるって聞いてたけどマジでできるところを見るとなんか感動するな』
『この四人なら上級ダンジョンも何とかなりそうじゃね?』
リスナーのコメントを見ながら、俺は配信前に柴口さんと話していたことを思い出す。
「顔出しをする?」
「はい、今後のことも考えると、今公開しなかったらずっと公開する機会がないように思えたんで」
深河プロの本社ビル、そこのミーティングルームで俺と柴口さんは話していた。
「モブ君……別に配信切り忘れの件はそこまで気にすることじゃないのよ?」
「いえ、責任を取ろうっていうわけじゃないんです」
もし、この先不測の事態で顔バレをしてしまった場合、それはスキャンダルになるし、必要以上の追及が来るだろう。だが、自分から公開すればそれは少なくとも醜聞にはならない。それにこちらからラインを引くことで、不躾な追及などもかわしやすくなるだろう。俺はそう考えていた。
「……なるほどね、変に気負って判断したわけじゃないなら、私から言うことはないわ」
「ありがとうございます」
これで、俺は自分の顔という急所をガードできるようになり、安心して配信を続けることができるだろう。
「それじゃあ、これからは取材とかインタビューの仕事も受けていいのね?」
「あ……うーん」
そうか、ある程度自分の素性を明かすということは、それもあり得るということだ。俺はしばらく悩んだ後、おずおずと答える。
「さ、最初のうちはあんまり突っ込んだこと聞かれないような、手心加えてくれるメディアでお願いします」
『東条も見た目だけじゃなくて普通に強いとか完璧すぎてやべえな』
『嫉妬すらできないってこういうことなんだろうな』
『てかモブどこ? 画に華がありすぎてあいつ目立たなすぎw』
「はーい! じゃあ今日の配信はここまで! スパコメは後でSNSの方にお礼のお手紙を書くね!」
「……ふぅ」
コメントが流れているのを見ながら、ちくわが配信を終えようとする。そこで俺はおもむろに仮面デバイスを脱いだ。
『えっ』
『!?』
『モブ君!?』
「じゃあ、また次回の配信でな」
俺がそう言ったと同時に、ちくわが配信をオフラインにする。ロスタイム的に続いているチャットではすさまじい数の「!?」というリアクションが流れていて、ある意味してやったりという気分でもあった。
「……あーあ、これから大変だよ、優斗さん」
すっきりした気持ちで仮面型デバイスについたほこりを払っていると、つむぎちゃんがそんなことを言った。
「ま、まあ、覚悟はしてるよ」
俺は苦笑いを返して、三人を見る。その三人ともが、温かく俺を迎えてくれているような気がして、ようやくみんなと肩を並べることができたんだな、と俺は思った。
——
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。これにて完結とさせていただきます。
まあもともとねこまのごたごたが終わったら完結する予定だったのですが、幸いなことに書籍化し、販促も含め手続きを書かねばならなくなり……と騙し騙し続けていたわけでして、まあ大体二〇万字弱も書けば出版社の方にも面目は立つかな、という感じです。
次回作、というか次は結構期間を開けるつもりですが、もしかするとコンプラ的に一時非公開にした作品を加筆修正して再公開するかもしれません。その時はよろしくお願いします。
最後となりますが、改めてここまでお読みいただき、ありがとうございました。感想やレビューなど、返信はできませんがすべて目を通させていただきます。では、またお会いするときまでしばしのお別れです。またどこかで。
奥州寛
俺の物欲センサーがぶっ壊れているらしいので、トップ配信者の幼馴染と一緒にダンジョンにもぐってみる 奥州寛 @itsuki1003
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