第122話 ファフニール討伐配信4

『すげー勝てそうじゃん』

『てか俺の知ってるファフニール戦じゃないな、ほかの討伐配信の時ってもっと攻撃激しくなかったか?』

『いやいや、少数精鋭で戦ってるからこそだよ。多分』


 リスナーたちがいろいろとコメントで議論しているが、俺たちが少人数で戦えているのは、当然ながら真正面から戦わないようにしているからだ。


 具体的には、攻撃の予兆をつぶすという立ち回りだ。


 炎のブレスは至近距離でちくわが受け、熱量が大きくなる前に攻撃を終えさせる。


 突進や噛みつきも踏み出す足を東条君が攻撃したり、ねこまの雷属性魔法で出鼻をくじくことによって行動させない立ち回りをしているのだ。


「ガアアァァッ!!」


 だが、当然ながらそれだけでどうにかできるというのなら、ファフニールがここまで強力なボスモンスターとして認識されるはずがない。


 東条君に傷つけられた翼を力なく垂らしながらも、怒気を孕んだ咆哮を上げる。この後に続く攻撃は、潰すことができない。だから、俺たちは全員攻撃を中断して距離をとる。


 両足で力強く飛び上がり、周囲に火炎弾をばらまきつつ、ちくわへと迫っていく。ヘイトの一番向いている相手に行う攻撃で、全員が別方向へ避けていたので、ちくわ一人を助ければいい状況だった。


「モビッ!」

「キュイッ!」


 そういう状況であれば、モビの支援スキルが有効に作用する。マンダの方はクールタイムが終わっていないため使えない。モビの支援スキルは攻撃と回避どちらにも使えて使い勝手がいいのだが、その分使いどころが難しかった。


 支援スキルを発動させると同時に、ちくわが視界から消失し、ファフニールの上空からの突進は空振りに終わる。翼が健在であれば、ここからファフニールが体勢を立て直して大暴れするのだが、その行動は真っ先に潰しているため、俺達の優位は変わらず、むしろ突進の勢いを殺しきれないファフニールは、大きくバランスを崩して大きな隙を見せてしまう。


「おおおっ!!」


 そこへ向けて、東条君が両手剣を振りかぶり、頭部へ必殺の一撃を与えようとする。俺はそれに続いてASAブラストを発動させる。


「——」


 モビは速度特化、マンダは威力特化のASAブラストだったが、テンのそれは速度も威力もどちらにも特化していなかったが、特殊な効果があった。


 俺は青白く半透明な氷の刃をまとった槍を手に、東条君の後を追う。そして彼の攻撃とタイミングを合わせ、頭に並ぶ生物の急所、心臓へ向けてその刃を突き出した。


「ガッ——」


 交通事故でも起きたのかと思うような音が響いて頭部に大きなひびが入ると同時に、氷の刃は深々とファフニールの胸部に刺さっていた。


 そこからは徐々に冷気が広がり、鱗に覆われたファフニールの体が凍結していく。肺が凍てついてしまっては声を上げることもできない。ファフニールは再度振り上げられる東条君の両手剣を、ただ見ていることしかできなかった。

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