黄河国は今日も平和です。

肥前ロンズ

自分の手で葬りたい人と殺されたい人

「私、ハオを葬りたい」

 妻の言葉に、僕の息がとまった。




「よって玩家プレイヤーであるハオ直接攻撃ダイレクトアタック!! 私の勝利!!」

「うわー! 負けたー!!」


 紙牌決闘カードデュエルの最中だった。


「くっ……新紙牌カード強すぎだろ。なんだよ必殺技放つための魔力を全範囲の味方に自分の番が来る度五十つけられるって。今までの遊戯均衡ゲームバランスが崩れるっ……!」

「こりゃ、ちょっと調整するように言わないといけないわねー」


 販売元から試作品としてどんなものか教えて欲しいと言われてやってみたが、あまりに強すぎて勝負にならなかった。


「対してこっちの紙牌カードは、条件こそ癖は強いけど、上手いこと使ったら中々おもしろいわね」

「上級者向けの山札デッキになりそうだけどね。好きだよね、美雨メイユーは」

「だって、使い方次第で無双できるなんて、夢があるじゃない。どんなに弱い紙牌カードでも、玩家プレイヤー次第で活躍出来るって」


 紙牌をきれいに揃えながら、美雨メイユーは言う。

 それは奴隷時代や庶民時代に何も出来なかった、自分への励ましなのかもしれない。

 僕は目の前にいる、この国で一番尊いとされる存在を見る。


 皇帝。

 言葉ひとつで、誰の命も握れてしまう人。

 誰よりも神に近い天子。


 対して僕は、権力を糧に生きる魑魅魍魎に、まるで害虫のように潰される。

 少しでも気を抜けば、毒を盛られて殺される。僕はそんな人間だ。

 こうして遊べるのは、最近はとんと少なくなった。権力者にとって僕の存在は、とても邪魔なんだろう。



「……さっきの話なんだけどさ」

「なに? さっきって」


 遊戯中の軽口として片付けていた美雨メイユーは、首を傾げる。

 僕は気にせず続けた。


「どんなに時間が経ってもいいから、僕を殺して」


 僕の言葉に、ハシバミ色の瞳が一瞬光る。

 まるで遠くで光る星のようだった。


「うん」


 僕が言いたいことがわかったのか、震えた声で、美雨メイユーが言った。


ハオは私がちゃんと殺すから、それまでに誰にも殺されないでね」

「いつ殺すの?」

「……最低、百年は生きて欲しいな」


 それは中々難しいな、と僕は思った。

 美雨が皇帝になってから、二年目も終わる頃の話だった。


ーーーー

時系列はこのお話の前

https://kakuyomu.jp/works/16817330655216271982/episodes/16817330655876799880

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