人類滅亡狂騒曲

高黄森哉

人類最後の日


 世界中が大騒ぎだ。かの有名な予言者の、かの有名な暗号濡れの著書が、遂に解読された。その内容とは、世界が今日終わってしまう、というものであった。大変だ大変だ。


 さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。これが人類最後のお祭り。親の因果が子に報い、生まれたのが、この子でござい。ろくろ首のように首を長くして待ちわびた、今日こそ人類史の末端。開幕。


 わあ。なんだって、今日が最後なんだって。そうだ、町へ出てみよう。そうしよう。わああ。そこら中、レイプだらけだ。それだけじゃない。死体まみれだ。アスファルトが黒いのは、酸化した血で洗濯されているからだった。


 こちら高速機動隊。只今、湾岸線を時速三百キロで走行中。パンダで赤灯のスポーツカーと、首都高速族が、一丸となって一般車の群れを縫っていく。あっ、ぶつかった。全部、ぺしゃんこだ。


 オーバー。こちら、警視庁本部、被害者への発砲を許可する。カーピー。カーピーザット。町に銃声が鳴り響く。町はバリゲードが張り巡らされ、銃砲店から自警団が銃を持ち出し、国家と戦っている。


 学校にて。学校では様々な淫行、いじめが行われている。いじめられっこは、性器を切断され、口から泡を吹き出しながら、犯されている。むさい教室のなか、教師が指揮を執り、性講義が開催されている。


 美術館で、様々な美術品が壊されていく。人類史の崩壊を描くように、新しい、芸術が床に花開く。壺と石像の破片、落書きされた絵画類は、それらの作者さえ創出不可能だった、人の本来の姿をありありと映し出している。


 都市の上空で巨大なポップコーンがはじけ飛んだ。いつ押すの、いまでしょと、幾千の核爆弾が、世界中の都市に降り注いだ。世界がまるで熱されたフライパンの上にあり、熱狂に踊り狂っていた。


 破壊のラッパが最後の一説を読み上げ、様々に演奏された人類狂騒曲の、その指揮者は遂に宙で手を結んだ。深々と頭を下げるそのころには、劇場の観客席に人っ子一人いない。もう人類は滅んだのだ。


 こうして予言通り、人類はめでたく滅亡した。本当に良く晴れた、本当になんの変哲もない、災害も起きなければ、病気も流行らない、ある一日に。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人類滅亡狂騒曲 高黄森哉 @kamikawa2001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る