悪魔に売ったもの

夕日ゆうや

悪魔に売ったもの

 俺には彼女がいた。

 亜鈴ありという彼女。

 だが、俺は彼女を悪魔に売った。

 その方が幸せだと思ったからだ。

 永遠の命を得られると知ったから。

 無限に続く拷問も、いつかは気持ちよさに変わる。

 そう願ったからだ。

 亜鈴はずっと拷問を受けながらも生きていける。

 こんなに幸せなことなんてない。

 俺が彼女だったら一生幸せだ。

 俺のしたことは間違いなんかではない。

 正しいのだ。

 俺のしたことは。

 なのに、そのことをネットの掲示板に書き込むと、みな寄ってたかって攻撃してくる。

 俺がルールなのに。

 俺が正しいのに。

 それにも関わらず、みな攻撃してくる。そればかりか、嘘とあざけ笑う。

 そんな彼らが可哀想に思えるほどに。


 俺は間違っていない。

 寿命の縮んだ父も、母も、悪魔に売った。

 最近聞こえる。

 怨嗟の声。

 俺を恨む声。

 なぜ?

 俺は悪いことなんてしていないのに。

 それなのに、否定される。

 おかしい。

 この世界はどこか可笑しい。

 歪で狂っている。

 歪曲した言葉がもてはやされ、偽善という名の言葉が世界を埋め尽くす。

 誰も本気で他人を救おうとしていないのに。

 こんな狂った世界なんて壊れてしまえ。


 俺は死んだ。

 悪魔の売りものにされたらしい。

 痛い。痛い。痛い!

 どこまでも終わらない残虐な行為の数々。

 痛みが快感に変わる……などという幻想はすぐに打ち砕かれた。

 俺のしてきたことは間違いだった。

 全て間違いだった。

 でももう今更変えることもできない。

 俺は一生牢獄の中で生きる。

 拷問を受けながら、少しずつ狂っていく――。

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