雨の日を嗜める『大人』
CHOPI
雨の日を嗜める『大人』
太陽が顔を出さなくとも、寒いと感じる日は無くなった。日中の最高気温が20度を超える日がザラになって、いよいよ夏へと向かっていることを感じる。同時にここ最近の天気の崩れ方を見ていて、『あぁ、先に梅雨が来るんだった』なんて思ったりもして。
毎年この時期は、気分が天候に左右されやすい。天気一つで気分が振り回される。あくまで自分自身の話だけど。
だからって雨が嫌いとか、そういうわけじゃない。……いや、待って、少し訂正。仕事の日の雨は、めっちゃ嫌だ。特に月曜の憂鬱な朝に雨なんか降っていたら、もうそれだけで休みたさが120%を軽く超える。(……そんな日でも社会人としては仕事を休むわけにもいかないので、会社へ向かう際に仕事カバンに静かにお気に入りのぬいぐるみ入れている。)
だけど、例えば週末。晴れていると予定が無いことに焦ってしまう
そんな日はお気に入りのぬいぐるみを抱っこして、自分のためだけに淹れたお気に入りのコーヒーを口に運びながら、買い置きしてあったクッキーを数枚、
そんな自分だって、学生の頃は、雨はあまり好きでは無かった。学校に行くのも億劫になるだけだし、週末だって部活があるから、雨が降っても学校には向かわなきゃいけなかったし。
もっと前は、雨が降ると友達と外で遊べなくなるから、さらに雨なんて嫌だった。鬼ごっこもドッジボールも、自転車で爆走する自転車リレーも全部ダメ。『室内で大人しく遊びなさい』の言葉を聞かず、雨に打たれて遊んだ結果、風邪をひいて怒られたなんてこともあった気がする。
だから、自分が『雨の日も楽しめる』タイプに成長したんだ、と思うことが多くなったのは、つい最近の事なのかもしれない。もっと言うと、社会人になってから。もちろん、今でも嫌な時は嫌だけど、でも、雨の日があってこそできることもあったりするし。
******
「何言ってんの!あんた、小さい頃『雨の日大好きー!』って言ってたわよ」
「は?」
『地元の紫陽花がキレイに咲き始めた』と母から連絡があったのが今週頭だった。浮いた話のひとつもない自分は、今週も特段予定はなかったから、『たまには母と一緒に散歩ついでに出かけようかな』と思い立って『週末、顔出すね。一緒に紫陽花見に行こうよ』と母に声をかけた。
週末の天気予報は雨だった。当日、その予報は見事に当たったけれど、地元に紫陽花を眺めながらお茶のできるカフェがあるから問題は無かった。『最近雨が多くて嫌になっちゃうわねぇ……、おかげで洗濯物が乾かないのよ』なんて、冷たいカフェオレを飲みながら愚痴る母に、そんな話をしてみたらまさかの回答が返ってきて驚く。え、『雨好き!』なんて言ってたっけ?
「忘れた? 小さい頃持ってた長靴と合羽、あんたのお気に入りだったのよ。いっつも水色の長靴履いて、それと一緒の水色の合羽着てさ。『あめふってー!』って。」
……なんだろう。それを聞いてうっすらだけど、なんか、なんとなーく……。
「『雨の日だけの、トクベツのお洋服なんだよ』なんて教えちゃったからかしら。ずーっとその合羽と長靴着れる雨の日、あんた楽しみに待ってたのよ」
あー……、なんか、そうだ。そういえば、そんな時期もあった気がする……。
「……なんだ。雨を
「ふふっ、そんなことに大人を感じているうちは、大人なんてまだまだ先の話よ」
肩を落とした自分を見て、母は楽しそうに笑っていた。
雨の日を嗜める『大人』 CHOPI @CHOPI
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