26 夢の意味を理解したとき、僕は…… <完>

「な、な、何で……僕が二人に怒られているんだ? まさか僕が戻って来るのが遅いから……?」


「どうしたんだ? クリフ」


背後から不思議そうにヒューゴが尋ねてくる。けれど彼の質問に答えている余裕なんか僕にはなかった。


「た、大変だ!」


急いでワゴンにお茶のセットを乗せると、大急ぎで厨房を飛び出した。

早く! 早く行かなければ!


僕は一目散に二人の元へ駆け出した――




****



 噴水前のガゼボでは何故か睨み合っているジュリオとクレアがいる。


「すみません、お待たせしました!」


ワゴンを押しながら駆けつけると二人は同時に振り向いた。


「遅い!」

「遅いです!」


「はい! すみません!」


何故かふたりから同時に怒られてしまう。


「はい、申し訳ございません。それではお茶の準備を……」


「お茶の準備なんかいらない、ここに座れ」

「ええ、座って下さい」


「は、はい……」


有無を言わさず座らされてしまう。半ばビクビクしながら座ると、早速ジュリオが僕に尋ねてきた。


「クリフ、お前クレア嬢と交際していたのか!? 俺に内緒で!」


「ええ! 何を言ってるんですか? クレア嬢はジュリオ様のお見合相手ですよ!」


するとクレアがジュリオに食ってかかる。


「そうです! いえ、これからそうなる予定です!」


「え! クレア様!?」


「私は先程のクリフ様の行動にすっかり魅せられてしまいました。お慕いしております」


そして熱のこもる目で僕を見つめる。


「ちょっと待って下さい! で、ですが僕は……」


「ああ、そうだ! 認めないぞ!」


そこへジュリオが割って入る。うん、当然だ。クレアはジュリオの婚約者になる予定なのだから。

しかし、次の瞬間ジュリオからとんでもないセリフが飛び出す。


「クリフは誰にも渡さん! 俺のものだ!」


「な、なんてこと言うんですか!」


驚いて叫ぶもすぐに冷静になる。

い、いや。きっと今のセリフに深い意味は無いはずだ……多分。


するとジュリオがぐるりと僕の方を見る。


「クリフ、お前……今まで俺の気持ちに気づいていなかったのか?」


「へ……? き、気持ち……?」


「ああ、そうだ。何故俺が色々な女生徒たちを侍らせていたか分かるか? しかも一人に絞れなかった理由を」


「さ、さあ……何故でしょうか?」


「ばっかやろう! 本当に気づいていなかったのかよ! お前に嫉妬してもらいたかったからだろう!」


「えええええ!!」


何てことだろう。驚きと同時にと全身に鳥肌が立つ。


「駄目です! クリフ様は同性に興味なんかありません! そうですよね!?」


クレアが僕の右腕を掴んできた。


「おい! 勝手に俺のクリフに触るな!」


左腕をジュリオに掴まれる。


「絶対にクリフは渡さないからな!」

「それはこっちのセリフです!」



そしてふたりは左右から僕の腕を引っ張り合う。その瞬間、僕は夢の意味を理解した。



僕とジュリオがクレアを自殺未遂へ追い込んだ罪で裁かれてしまうのは、このことが原因だったのでは無いだろうかと。



じょ、冗談じゃない!


「誰か……嘘だと言ってくれ〜!!」



青空に、僕の叫びが虚しく響き渡る。


もうこうなったら誰も知らない遠い国へ逃げなければ。

そうすれば最悪の夢を回避出来るに違いない。


そう、僕は心に強く誓うのだった――



<終わり?>

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