25 ごゆっくり

 僕はクレアを抱き上げたまま、今度は噴水が見えるガゼボへやってきた。


「クレア様、失礼致します」


石のベンチにクレアを下ろした。


「あ、ありがとうございます……」


何故か真っ赤な顔で僕にお礼を述べるクレア。


「いいえ、礼には及びません」


そして次にワゴンを押してついてきたジュリオに視線を移す。


「ジュリオ様、ありがとうございます。後は僕がやりますので」


「ああ、頼む」


ジュリオからワゴンを受け取ると、僕はすぐにお茶の用意を始め……ポットのお湯がすっかりぬるくなっていることに気づいた。


「あ……これはいけない。お湯がすっかりぬるくなってしまったので、新しい物をもらってきますね」


「「え?」」


すると、ジュリオとクレアが驚いた様子で僕を見る。


「お、おい。お湯なんかぬるくてもいいじゃないか」


「ええ、そうですわ。私も熱いお湯は好きではありませんから」


その言葉を聞いて、僕は安心した。


「な〜んだ、二人共気が合うじゃありませんか。でもやはり熱いお湯じゃないと紅茶を淹れられませんからね。厨房に行って貰ってきますよ。その間、お二人でゆっくり話し合って下さい」


「お、おい! 待てよ!」

「クリフ様!」


ジュリオとクレアが必死で止めるも、僕は強引にその場を後にした。


なにしろ、従者の僕がいればふたりとも遠慮して言いたいことが言えないだろうからね。



****


「フンフフ〜ン」


厨房で鼻歌を歌いながらお湯が湧くのを待っていると、同僚のヒューゴがやってきた。


「どうしたんだ? クリフ。制服なんか着て。お前今日は休暇日じゃなかったのか?」


「それが今日はジュリオ様のお見合いで、同席させられているんだよ」


「あ、言われてみればそうだったな。今日の見合いのことで話題になってたよ。だけど、見合いか……うまくまとまるかねぇ? 何しろジュリオ様は女癖が悪いから。そのくせ、個人的に女性と付き合おうとしないし」


「うん、確かにそうだね」


ジュリオは女癖が悪いけれども、かといって女性とふたりきりで出かけたりすることがない。いつも五〜六人程の女性たちと一緒だ。一体何を考えているのだろう?


「あ、お湯が湧いたようだ」


ケトルの湯がグツグツしているのを確認すると、僕は早速ポットに湯を移し替えた。


「それじゃ、ジュリオ様のところへ行ってくるよ」


「そうだな、ゆっくり戻ってやったらどうだ? ふたりきりの方が話も盛り上がるだろうし」


「うん、それもいいかもね」


「そうだクリフ。その前にネクタイが曲がっているぞ。直したほうがいい」


ヒューゴが僕のネクタイを指さした。


「本当かい?」


そこで僕は厨房の壁に掛けられた鏡の前に近づき、ネクタイを直そうと覗き込んだその時……


「え?」


何故か自分の顔を鏡で見たときに、突然脳裏にある光景が浮かんできた。


それはジュリオとクレアが僕の方を向いて何か激しく怒っている光景だった――





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