第57話 海鮮丼は港町に限る
「せ、精霊の仕業だった? しかも精霊を連れ帰って来たですって!?」
ギルド受付の男性にそう声を上げられてギルド内の視線が一気に集まった。受付はしまった。と思ったのか口に手を当て、別室でお話を、と移動を提案された。
それに従い四人で男性に案内され別室へと通された。ソファに座り、副代表を呼んでくると部屋を出て行った。
「精霊ってそれほど珍しいものなのかしら?」
「下位の小さいものなどは森などでも見れることはありますが、カサンドリス様は高位の精霊でしょう。そんな精霊が人間に与するのは珍しい事例かと」
マレイケの言葉にそう言うものかと納得する。そういえばエーヴァも最初手に入れ鑑定に出した際は誰にも応えなかったのを思い出した。しばらくして受付とモノクルを付けた壮年の女性が部屋へと入ってきた。
「初めまして、皆様方。私は巳で副代表を務めておりますレーレと申します。この度は討伐依頼の達成、ありがたく存じます」
きっちりとした女性のようで、黒髪は引っ詰められ、ぱっきりとした服装に身を包んでいる。向かいのソファに座ると、受付が話を切り出す。
「その、精霊の依代はございますか?」
高位の精霊が依代を必要とするのは知っているらしい。マレイケが胸元から腕輪を取り出し机に置く。レーレはそれを見ると、鑑定をしても構わないかと問うてきた。それに是と答えるとレーレは手袋をはめ、顔の前に持ってゆくと、ふう、と息を吹きかけた。きらきらと藍色の光の粒子が息と共に流れるのを見ると、確かに、と机に腕輪を置いた。
「精霊の依代となっていますのを確認いたしました。水に関連する精霊でしょうか」
「そうです。俺たちが見たのは、子供の身で人魚のような見目をしていました」
「この精霊が化け鯨とレモラを操っていた、と言うのは確認を?」
「戦闘をしましたので確認は」
「いかように精霊を説得なさったのでしょうか?」
「…………釣りを」
「は?」
「この馬鹿が元々持っていた精霊の依代を餌に、釣りを」
私を指差し心底言いたくないとでも言いたげなクンラートの言葉に、レーレは目を丸くしていた。
「はあ、つ、釣りを……」
「本当は魚拓が欲しかったのですが」
「お前は余計なことを言うなっ」
クンラートに叱られつつも、にこにこと笑みを浮かべていると、もうひとつの依代とは? と問われる。帯刀している剣だと言うと今度はどこで手に入れたのかと問われる。ダンジョンに潜って手に入れたと言うと、レーレが若干遠くを見始めた気がする。が、すぐに意識を戻したようだった。
「元々実力はおありだったのですね。それならば今回の件も納得いたします」
「それで、討伐報酬の話に移りたいんですが」
「はい、報酬は元凶の確保も含めお支払いいたします。……時に」
「はい?」
「精霊の腕輪ですが、こちらで買い取らせていただくことが可能でしたら、追加で上乗せすることは可能ですが、いかがいたしますか?」
そのレーレの言葉に、その選択肢は無いな、とすぐさま拒否を告げた。
「申し訳ありませんが、こちらの都合上お渡しする訳には参りませんの。ご理解の程よろしくお願いします」
「そうですか。承諾いたしました。討伐の料金になりますが、金貨十五枚とさせていただきます」
「まあ妥当なところだが、もう少し色をつけてもらってもいいと思うんだが?」
「……追加で金貨二枚」
「手打ちで」
この世界、大体金貨は五万円程の価値だと感じる。銀貨だと大体一万円かそこら。それを十七枚となると、余程悩みの種の討伐依頼だったらしい。まあこちらとしては懐が潤う上に精霊も仲間に加えられたのでかなりの得をしている。受付に金貨を用意するようにレーレが告げると受付は部屋を出ていく。
「……気になっていたのですが、何故あなたは認識阻害の魔法具を?」
レーレは恐らく鑑定士としてかなり上位の使い手なのだろう。こちらの魔法具も効果が見るだけで分かるらしい。
「少々身を隠さねばならぬ身の上でして」
「……失礼を。深くは詮索いたしませんが、私のような者にはお気をつけください。ああ、それと、今回の依頼を加味してランクを銅から銀に上げさせていただきます。ある程度融通が効く場所も増えるでしょう」
「そりゃありがたいね」
「初依頼でこれだけの成果を上げてくださりましたから、こちらとしても下位ランクに置いておくよりは都合がいいですので」
結構打算で生きていそうな女性だと感じたが、悪意がある訳ではなさそうだ。あくまでも公平にと務めているようだ。
受付の男性が戻ってくる。受け皿に皮袋を乗せたものをレーレの前に置く。レーレが皮袋を開けて金貨を出す。確認しろとのことで、丁度十七枚あるのを確認し、マレイケが受け取る。
「しばらくは巳にご滞在に?」
「ええ、実績を積んでおきたいですんで」
「でしたら、またのご利用お待ちしております。我らギルドは冒険者の味方、となりますので、困りごとがあればお尋ねください」
話は以上だ。とのことで受付の案内と共にフロアに戻る。ちらちらとそこらから視線を感じたが、長居は無用とマレイケが外に出るように促す。
「ちいっと、酒でもいいじゃねえか」
「酒に脳を支配されているのですかクンラート。今の私たちはいいカモです。食事ならば外でお願いします」
「ちぇ、融通効かねえな」
「だがマレイケの言葉は最もだと思うが」
「わたくし、海鮮丼が食べたいわ」
「たまには奮発しましょうか」
大きな金が入ったのだからたまにはいいだろう。と店を探す。途中街人に尋ねながら海鮮を扱う店に入り、四人でうまいうまいと海鮮を食べ尽くすのだった。
冒険者としての初仕事を終えて、これからどんどん新たな出会いがあるのだろうと心を躍らせた。しかしながら、十二柱に不審しか抱けない心情になっているので、あの霧の匂いが出来るだけしないことを祈った。祈ったところで無意味ではあるが、その鬱憤は冒険者業で晴らそうとデザートにあんみつを食べながら考えた。
【連載版】悪役令嬢に転生したって言うのなら、とことんワルになろうじゃない!バイクが無いなら馬に乗り、嫌味を言うならタイマンで。バーサーカーお嬢様がお通りですわよ〜! 塩谷さがん @Shiotaniex
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