この作品をどう表現すべきか。とにかくたくさんの要素が詰め込まれていて、それが破綻せず共存していて、しかもすこぶる魅力的。技術が確かなことは勿論、何より技術によらないセンスがずば抜けている。一行一文に至るまで作者のセンスが詰め込まれていてもうどこを読んでも面白いです。
嘆きの亡霊にはたくさんのキャラクターが登場します。その全てが、脇役敵役に至るまで生き生きとしていて、愛らしく、記憶に残ります。そしてそんなたくさんのキャラクターの中でも、やっぱり一番ぶっ飛んでるのが主人公です。一見普通で共感もできるのに、読めば読むほど一番狂ってる。そしてそんな主人公の叙述の面白さがぐいぐいと作品に読者を引き込んでいく。1人称小説のお手本のような主人公です。とにかく、クライ・アンドリヒは色々な意味で凄いキャラです。是非読んで、魂で感じてもらいたいです。
作者のストーリーテリング能力は常軌を逸しています。一見何の関係のない要素がクライマックスで全て噛み合い、いつの間にか最良の大団円へと辿り着いている。最後の最後、タネが明かされるまで終着点が謎のままなのに、明かされてみればストンと腑に落ちる、この手品でも見ているかのような読後感は本当に唯一無二です。しかも、露骨に伏線を貼るようなことは一切せず、脳死で読めるくらい物語がさらさらと流れていくのに、読んでる間はずっと面白いのに、いつの間にか必要な要素は全て過程で語られている。もうとにかく、巧みです。これだけ語りも構成も上手い作者というのはWEB小説界隈広しと言えど中々いないのではないかと思います。
何より、嘆きの亡霊はコメディ部分が抜群に面白いです。というか常時コメディです。シリアスとコメディを切り分けることなくストーリーを展開していけると言う勘違いものの最大の長所をこの作品はこれ以上なく活かしています。作者が勘違い物の本質を理解している証拠です。そしてその捧腹絶倒のコメディを成り立たせているのが前述したクライ・アンドリヒという主人公です。どんなシリアスな展開もクライ(読者)目線ではただのコントと化し、神を名乗る敵でさえ道化役に成り下がる。そんな構造をこの卓越した造形の主人公が作っています。もう本当に主人公の叙述と、適当極まりない主人公に世界が振り回される様が本当に面白くて、何より爽快です。主人公の活躍と、ストーリーと、コメディが完全に一体化しているのが嘆きの亡霊のコメディの面白さの根幹なのではないかなと僕は思っています。もちろん、作者のコメディセンスが単純に卓越していると言うのもあると思いますが。
この手の作品にしては珍しく主人公のクライは本当の本当に無能です。そんなクライがただ勘違いと偶然の連続だけでひたすら功を積み上げ、評価され、成り上がり、身に合わない栄誉に冷汗し、あえて評価を下げようとしょうもない工作をしてはまた望まぬ功を立ててしまう。この作品はそんな勘違い成り上がりものとしての側面も持っています。そしてそれすらもこの作品の数限りなくある顔の一つです。冒険ものでもあり、バトルものでもあり、暗躍ものでもあり、ときにはオークションをしたり、人狼をしたり、そしてもちろんハーレム要素もちょっとあったり――ここには挙げ切れない程にたくさんの顔をこの作品は持っています。主人公の肩書ではないですがまさに千変万化な作品です。
玩具箱のようにたくさんのワクワクが詰め込まれた嘆きの亡霊という作品が僕は大好きです。
・クライの「望んだ事」は真逆の結果になる
・クライの「言った事」は現実になる
・クライは幼なじみ達の事を絶対に見捨てない
・幼なじみ達はクライの事を信頼している
・幼なじみ達は狂っていない、合理的な選択を取っているだけ
・マナマテリアルは人の強い意志に作用する。
・やる気0だとマナマテリアルは素通りする。
・やる気0をカッコよく言い換えると「無の境地」である
・クライと付き合いが長い人ほどクライの事を正しく理解している
・神レベルの力がある存在は世界の理を騙す力がある
・この世の脅威。厄災「生きるだけで不幸をまき散らす男」は「迷い宿」と並ぶ神レベルの脅威であり人の手には負えない
・不幸とは人の意志によって結果が替わる。最凶最悪の不幸な運命とは望んだ全てが真逆の結果をもたらす事である
・クライはハンターになり、才能に目覚め、一晩だけ泣き、何かを決意して、今のクライになった。本当の彼は何者だろうか?
・書籍版は伏線も多い上に面白い追加エピソードとSSも載っていてお買い得です!
WEB版で気に入ったら買おう!絶対に損しないよ!
他愛もない思いつきとみみっちい見栄と無茶ぶりの数々が、勘違いに勘違いを重ねた結果もう二度と後戻り出来ない所までいってしまった哀れな男の物語。
……しかし、それらが勘違いなどではなく、全て必然だったとしたら――?
勘違いモノ、と一言で言うのは簡単だが、この作品のそれは単なる勘違いを超越した【勘違い】を巻き起こす。勘違いの究極のような作品。
無能主人公クライの「なんもしてないのに壊れた」感と、それに巻き込まれる周囲の七転八倒と悲喜交々がどうしようもなく面白く、心情的には同情しかないのに、読んでる途中は「始まったな……」とワイングラスをかたむけつつほくそ笑む(実際は爆笑してることも多い)感覚に襲われる。大事件の目撃者としてナマの愉悦を感じられる不思議な案配の構成、ちょっと言葉では言い表せない次元の違うすれ違いの妙を是非一読して体感してほしい。
いやもうほんとね、おまえいい加減にしろよクライ!w
(なお彼の本心は見て見ない振りをするものとする)