【あふたーすとーりー最終話】夏祭りと誓いの指輪

 そしていよいよ夏祭りの日となった。


 僕は琴子と一緒に夏祭りの会場である神社へと出かけた。神社と言っても例の寂れた神社の方ではない。僕たちの住んでいる町には神社が2つあり、1つは僕が勾玉を貰った寂れた神社、そしてもう1つは学校の近くにある立派で大きい神社だ。夏祭りは後者の方で行われる。


「わぁ~! 屋台が一杯出ているね」


 琴子の言葉通り、神社の参道にはぎっちりとお祭りの屋台が並んでいた。綿あめ、金魚すくい、射撃、型抜き、かき氷、たこ焼き、焼きそば、クジ引き…etcetc。何をやろうか目移りする程である。


 彼女は僕のリクエスト通りお祭りに浴衣を着て来てくれた。薄い青色で金魚の文様が刺繍されている涼し気な浴衣だ。そして髪をいつもとは違い…彼女の髪は普段は綺麗な黒髪がサラリとなびくストレートロングなのだが、今日は髪をアップにして上に結い上げていた。


 髪をアップにしている事もあって彼女の綺麗なうなじも丸見えである。いつもとは違う大人っぽい感じの琴子に僕はドキリとせざるを得なかった。なんというか…色っぽい感じだ。


「どうしたの武光君♡」


 おそらく琴子は僕が普段と違う彼女に胸がときめいているのに気が付いているのだろう。ニヤリと僕に笑いかけて来る。


「琴子、浴衣似合ってるよ。すごく綺麗だ」


「ありがとう♡ 武光君、浴衣大好きだもんね。それに…さっきから私のうなじジロジロ見てるでしょ? もっと見てもいいよ♡」


「う、うん、ありがとう」


 あぁ…僕がうなじに見とれていたのも彼女にはバレバレだったみたいだ。だって仕方がない。今日の彼女は本当に1日中ずっと見ていたいぐらいに綺麗なのだから。


 …しかしせっかく夏祭りに来たのだから、彼女ばかりに見とれてもいられない。彼女と一緒に夏祭りを楽しまないと。


「うなじもいいけど、それよりもお祭りを楽しもうよ。まず何をしようか? 琴子は何がしたい?」


「う~ん…ちょっとお腹が空いちゃったかな?」


「OK! じゃあまずは腹ごしらえをしようか? 人が多いからはぐれないようにしっかりと腕は組んでおこう?」


「うん♡」


 彼女は僕と腕をしっかりと組むと一緒にお祭りを楽しむべく歩き出した。


 まず僕たちが寄ったのは近くにあった「りんご飴」の屋台だ。お祭りの食べ物で思い浮かぶ物と言えば…まずはコレを思い浮かべる人も多いのではないだろうか? 僕は屋台のおっちゃんにりんご飴を2つ注文する。


「りんご飴久しぶり~♪」


 琴子は早速購入したりんご飴をペロペロと舐める。そして舐めているうちに彼女の舌が真っ赤に染まってしまった。りんご飴に使用されている着色料でこうなるのだろう。


「琴子、舌がむっちゃ赤くなってるよ」


「えぇ~本当?」


 彼女は舌を出してそれを確認しようとするが、自分の目からは舌の先の方しか見れないんだよな。彼女の舌を確認する仕草が可愛らしくて僕は思わず笑ってしまう。


「ああっ! 武光君笑ったね」


「ごめんごめん、琴子が可愛らしくてつい…」


 琴子は笑われた事に対して少し怒っていたようだったが、そこで何かを閃いたような顔をする。そして僕の耳元に口を寄せてささやいてきた。


「もしこのままベロチューしたら…武光君の舌も赤くなるのかな♡」


「…えっ?」


「試してみる? 実験♡」


 琴子は悪戯っぽく笑う。いやいや、こんな人が多い所でベロチューなんてしたらとんでもない事になる。


「琴子それは…」


「なんてね♡ 私も流石にキスはこんなところではしないよ。ただの冗談。武光君焦っちゃって可愛い♪」


「あっ…」


 なるほど、琴子は笑われた仕返しに僕をからかってきたらしい。…でも琴子が言うと冗談に聞こえないんだよな。暴走状態の彼女なら人目を気にせずキスをしてきそうだし…。



○○〇



 その後、僕たちはお祭りをめいっぱい楽しんだ。射撃をして勝負したり、たこ焼きを買って食べさせあったり、型抜きをしたり、他の人が盆踊りを踊っているのを眺めたり…色々。


 そして時は進み、いよいよ夏祭りのクライマックス。花火大会の時間になる。


 この町の海岸から沢山の花火が打ち上げられ、それがこの神社のあたりからちょうど綺麗に見れるのだ。


 ついにこの時がやって来た。僕が今まで隠していたを彼女に渡す時が来たのだ。これを渡すシチュエーションとしては絶好のタイミングではないだろうか?


 僕は彼女を「こっちの方が花火が綺麗に見えるから」と言って神社の裏の人気の無い場所に誘う。


「武光君、こっち神社の裏じゃないの? 本当にここから花火が綺麗に見えるの?」


 琴子は怪訝な顔をしながら僕に付いてくる。僕は顔を両手で叩いて気合いを入れると、姿勢を正して彼女に向き直り、そして言葉を放った。


「琴子、この前言ってた隠し事の件なんだけど。今白状するね」


 彼女は僕のその言葉を聞くと真剣な表情になる。僕はそんな彼女に小さな箱を差し出した。


「これは…?」


「僕が今まで琴子に隠していた事…それはね、琴子にこれをプレゼントするために隠れてアルバイトをしていたんだ」


 琴子と過ごす時間を短くしていたのは彼女に隠れてアルバイトをする時間を稼ぐためだった。僕はここ2週間ほど、朝琴子が来る前と夕方琴子が帰った後に知り合いの配送業者の所で荷物整理のアルバイトをしていた。


 琴子が僕の汗の匂いが依然に比べて濃いと言っていたのは、彼女が来る前にアルバイトをして汗をかいていたからだろう。


「開けてもいい?」


 僕はコクリとそれに頷く。僕の許可を得た琴子は恐る恐るその小さい箱を開けた。僕が彼女にプレゼントしたもの。それは…。


「…指輪?」


「うん、婚約指輪…というにはちょっと早いし安いけど…。僕の気持ち、受け取ってくれると嬉しいな」


 この2週間、必死にバイトして貯めたお金で買った物だった。普通のバイトなら給料は月末払いなのだけれど、知り合いという事で給料を日払いに融通してもらったのだ。ちなみにサイズは事前にリサーチ済みである。


 彼女と知り合って…なんだかんだお試しで付き合う事になって、彼女の性格を知って、本格的に付き合う事になって、彼女に愛されて、困った時に助けられたりもして…僕はドンドン彼女に惹かれていった。


 そしていつの間にか僕はそんな彼女と一生一緒にいたい、死ぬまで彼女と楽しい事も苦しい事も共に分かち合って生きたい思うようになっていた。もう付き合うだけの関係では満足できない。僕はそれほどまでに彼女を愛してしまったのだ。


 絶対に無いとは思うけど、彼女が僕と別れて他の男の物になるなんて耐えられない。だから僕は琴子を自分だけの物にするために彼女を縛る事にした。お互いに愛しあう独占しあう契約の証としてこれを送るのだ。以前彼女が僕にチョーカーを送ってくれたように。


 未成年者の婚姻には親の同意が必要だけど、婚約には同意は必要ない。なので彼女がこれを受け入れてくれれば契約は結ばれる事になる。お互いに愛しあう相手の物になるという契約が。


「瀬名琴子さん。将来、僕と結婚してください」


 パァン!


 僕がそう告白した瞬間に花火大会が始まったらしく、頭上には大輪の花が咲いた。彼女は受け入れてくれるだろうか? 僕はゆっくりと彼女の顔を見る。


 僕の告白を聞いた琴子の目からは涙が一粒、また一粒と流れていった。


「嬉しい、嬉しいよぉ。こんなの『受ける』以外の選択肢がないよぉ…。グスッグスッ。ごめんね武光君。武光君は私のために働いてくれていたのに疑うような事をして…」


 僕は泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめ、彼女の頭を撫でた。


「僕も隠し事をしていてゴメン。でもどうしてもこれは琴子にサプライズでプレゼントしたかったんだ」


「最初あなたに結婚を前提に交際を迫った時、ちょっと無理やりすぎたかなって思った。でもそれはあなたを他の人に盗られたくなかったから、だからああ言ってあなたを縛らなくちゃと思ったの。でも…まさかあなたの方から私に結婚を申し込んで私を縛ってくれるなんて…」


「うん、僕も我慢できなくなったんだ。だから琴子に結婚を申し込む事にしたんだ琴子を一生自分の物にしたいと思った


 パァン! パパァン!


 大量の美しい花火が空で花開く。まるで僕たちの契約の成立を祝福してくれているみたいに。僕はそんな大輪の花が咲く夜空を見上げた。


「ねぇ琴子、見てごらん、花火が綺麗だよ。来年もそのまた次の年も…ずっと琴子と死ぬまで一緒にこの花火を見れたら嬉しいな」


「うん、うん…。グスッ。私も武光君と一緒にいつまでもこの景色を見ていたい。でも武光君、死ぬまでだなんてそんな水臭い事言わないで」


「えっ?」


「『死が2人を分かつまで』だなんて生ぬるい…。私は死んでからも、例えあの世に行って魂が生まれ変わったとしても…あなたを愛するよ」


「そうか、なら僕も例え100万回生まれ変わったとしても琴子を愛すると誓うよ」


 ここに永遠とわの契約は結ばれた。僕は彼女のものに、彼女は僕のものになった。これで誰も僕たちの仲を邪魔できない。もし邪魔をする者がいたら全力で排除しよう。誰にも僕の琴子を奪わせはしない。



○○〇



 ガサッ


 …ん? 今の人影…?


 指輪を渡した後、僕は彼女と一緒に引き続き夜空に浮かぶ花火を見ていたのだが…首が痛くなったので一旦上を向くのをやめて視線を下に戻していた。


 すると視線の先に僕に勾玉をくれた例の神様らしき人が写ったような気がしたのだ。


 …思えば全ての始まりはあの人(いや、神か?)に勾玉を貰ってからだったな。


 7月の初めにあの人からヤンデレ美少女にモテるという勾玉を貰った時はどうなる事かと思ったが、なんてことはない。


 世間ではヤンデレはめんどくさくて、すぐに嫉妬して感情を爆発させ、傷害事件を起こす…なんてイメージがあるけれど、ヤンデレ美少女だってこちらが誠実に愛して選択肢を間違えなければ普通の美少女と変わらないのだ。


 むしろ他の男に見向きもせずにひたすらに僕を愛してくれる。無茶苦茶一途で可愛い女の子だ。


 だから僕は全世界の男たちにこう言おう。


 「ヤンデレ美少女はいいぞ!」…と。



『幼馴染にフラれた僕は神社に彼女を下さいと神頼みに行った そしたら神様からヤンデレ美少女に好かれるという特級呪物を授かった件 あふたーすとーりー』 ~完~


○○〇


 あふたーすとーりーはこれにて終了となります。今までお付き合い頂いてありがとうございました。ご愛読ありがとうございます。

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【完結済】幼馴染にフラれた僕は神社に彼女を下さいと神頼みに行った そしたら神様からヤンデレ美少女に好かれるという特級呪物を授かった件 栗村坊主 @aiueoabcde

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