僕の隠し事

 夏休みも後半になった。僕たちは夏休み後半になっても前半と変わらずイチャイチャしていたのだが、少しだけ変わった事があった。それは僕が最近琴子に隠れてとある事をしている…という事だ。


 できればそれは彼女にバレずにいたかったのだが…。


「ねぇ、武光君。最近私に何か隠し事してない?」


 ある日、琴子は僕の部屋に入るなり部屋の鍵をガチャリと閉めて詰問をしてきた。 


 …鋭い。やはり彼女の前では隠し事は無理なのか? でも僕はあと数日だけはこの隠し事を彼女にバレるわけにはいかないのだ。別にやましい事をしているわけじゃない。全ては琴子の、最愛の彼女のためである。


「どうしてそう思うの?」


 無駄かもしれないが一応聞いてみた。なんとかはぐらかせるかもしれない。


「まず1つ目。最近私と武光君が会う時間が平均して2時間ほど減ってる。夏休みの最初の頃は19時ぐらいまで一緒に居れたのに、最近は17時ぐらいになると武光君は『もう遅いから家に送るよ』って言って私を強制的に帰らせようとするよね?」


「それは…もう夏も終わりで日も以前に比べると落ちるのが早くなってきたし、僕は琴子に危ない目に遭って欲しくないから余裕をもって送っているんだよ」


 琴子は僕の弁明に目を細める。これは信じてないな。でも半分は本当だ。彼女の身を案じているのは本当。もう半分は隠し事のためだけど…。


「2つ目、私が朝武光君に会った時にする汗の匂いが以前よりも濃い。しかも毎回。これは私に会う前にどこかに行っている、もしくは何かをしているって事だよね?」


「それは夏だから仕方ないよ。暑いしね。最近お母さんに頼まれて庭の草刈りをやっているからそのせいじゃないかな?」


 …汗の匂いの濃淡まで判別できるのか。彼女の嗅覚は凄いな。確かに最近僕が琴子に会う前にとある場所へ行って作業をしているのは確かだ。でもそれはバレるわけにはいかない。


「庭に雑草なんて全然生えてないけど?」


「ちょうど今日で草刈りは終わったんだよ」


「………」


 琴子の目が更に細くなる。彼女、うちの庭の雑草の生え具合までチェックしてるのか。ううん、やっぱり隠し通すのは無理なのか。


「3つ目、私が隠し事が無いか尋ねた時に武光君は『どうしてそう思うの?』って言ったよね? 隠し事が無い人はこんな事言いません!」


「うーん…」


 これは完全に墓穴を掘ったかなぁ…。今の琴子は某少年探偵ばりに冴えた頭脳をしているようだ。


「ねぇ武光君、私言ったよね? 私を悲しませないでって。それなのに武光君はその約束を破るの? まだ約束してから1カ月も経ってないよね?」


 そう言って僕に詰め寄って来る彼女の目には光が無かった。彼女を喜ばせたい一心でやっていた事だけど、逆に彼女を不安にさせちゃったみたいだな。


「『僕は2度と琴子を悲しませない』って言葉は嘘だったの? 嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき! あぁ…やっぱりあの時完全に落としてしまえば良かった」


 琴子がまた物騒な事を呟いていたので、僕はこれはもう隠しきれないなと思って観念する事にした。まずは琴子を落ち着かせるために彼女を優しく抱きしめる。そして彼女の頭を撫でながら言葉を紡いだ。


「わぷっ…」


「琴子ごめんね。不安にさせちゃったみたいで。僕が隠し事をしていたのはその通りだよ。でも…そうだな、あともう少し、もう少しだけ僕に時間をくれないかな? もう少ししたら琴子に全部話すから。隠し事をしていた僕の言葉なんて信じてくれないかもしれないけど、琴子を悲しませるためにしたんじゃない。それだけは本当だから」


 琴子はしばらくの間うつろな瞳で僕の方を見つめていたが、やがて彼女の瞳に光が戻って来た。ホッ…どうやら許されたらしい。


「…分かった。もう少しだけ待ってあげる。でも時間が経っても話してくれなかったり、隠し事をしていたのがしょうもない理由だったらその時は…お仕置きだから」


 琴子は不満そうな顔をしていたが、なんとか納得してくれたようだ。


 僕は落ち着いた彼女から身体を離すとベットの上に座る。そして重くなった空気を変えるために話題を変換する事にした。


「そういえば…明後日は夏祭りだよね?」


「そうだね…」


 琴子はまだ機嫌が直り切っていないようで反応がイマイチ薄い。まぁ彼女の機嫌を悪くしたのは僕だし、ここは彼女の機嫌を取っておこう。


「一緒に行かない?」


「…いいよ」


「僕、琴子の浴衣姿楽しみだなぁ~。なんせ世界一可愛い僕の彼女の浴衣姿だからね。とっても可愛いんだろうなぁ。あぁ…琴子の浴衣姿を見たら僕は更にメロメロになってしまうかもしれない…。琴子と一緒に金魚すくいしたり、花火を見るの楽しみだなぁ。一生の思い出になるよ」


「もう、しょうがないなぁ武光君は/// そこまで言われたら着て行くしかないじゃない////」


 ふぅ…僕の必死のご機嫌取りによって琴子の機嫌はなんとか戻ったようだ。もし彼女が不機嫌なままで夏祭りに「行かない」って言った時はどうしようかと思った。彼女が夏祭りに来ないと色々支障がでるのだ。そこで彼女にを渡そうと思っているのだから。



○○〇



次回最終回、夏祭りに行きます。武光君の隠し事とは?

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