夏風邪を引いた僕を看病してくれる琴子
とある夏の日、朝起きると悪寒がして頭がフラフラした。それに喉も痛い。もしかしてと思って体温計で熱を測ってみると38度だった。どうやら夏風邪をひいてしまったらしい。
正直思い当たるフシはあった。昨日の夜、風呂上がりに服も着ずにエアコンの効いた部屋で爆睡してしまったのが原因だろう。完全に自業自得だがやらかしてしまった。
僕は母親に頼んで薬と水を貰って飲んだ。何か食べた方がいいのだろうけど、その時は食欲が全くなく、むしろ食べると吐いてしまいそうな気がした。
しまったなぁ…今日も琴子と会う約束をしていたのに。
体調的に彼女と会うのは無理そうだったので、僕はrein…スマホのメッセージアプリで今日会う事への断りの連絡を入れた。
『琴子ごめん、夏風邪を引いて熱があるから今日は会えそうにない。うつるといけないから僕の部屋に来ちゃダメだよ』
琴子の事だから、僕が風邪をひいている事を知ると「武光君の看病に行く!」と言い出しそうだったので先に釘を刺しておいた。もちろん琴子に、愛する彼女に看病して貰えるのなら嬉しい。でもそれよりも彼女に風邪をうつすのが嫌だったのだ。
僕はメッセージを琴子に送ると、スマホを枕元に置いて目をつむった。先ほど薬を飲んだにも関わらず、僕の背中には悪寒が走っていた。身体の熱が上がっているのが分かる。
お母さんも仕事に行ってしまったし、今はこの家には僕1人だ。もし、このまま熱が下がらなかったらどうしよう? 僕1人なのでもしかするとこのまま死んでしまうかもしれない。
限りなく低い可能性だけれども、病気の時人間はどうしても精神的に弱くなりがちなのと、家に1人しかいないという心細さでふとそんな事を思ってしまった。
こんな時にそばに誰かがいてくれたら心強いだろうなぁ…。
そんな事を漠然と考えていると僕はいつの間にか眠ってしまったようだった。
○○〇
「…ううん?」
「あっ、武光君起きた? 体調は大丈夫?」
あれからどれくらい経ったのだろうか? 次に目が覚めると目の前には琴子がいた。マスクをつけ、心配そうな表情で僕の方を覗き込んでくる。
…あれ? 僕は琴子に部屋に来ないようにってメッセージを送ったはずなのに…。どうして彼女が僕の部屋にいるのだろうか?
「琴子、部屋には来ないでって言ったじゃない。うつったらどうするの?」
「武光君が病気で苦しんでいるのに、何もしないなんてそんな事できない。それにマスクをしているから大丈夫だよ」
う、うーん…。確かに彼女はマスクをつけているが、例えマスクをしていてもうつる可能性はゼロではないのだけどなぁ…。
「気持ちはありがたいけど、うつしたくないから帰って。僕は琴子が風邪で苦しむのが嫌なんだ」
「ダメ! 武光君の体調がよくなるまで私はここにいます! 私は武光君の彼女だよ。そんな水臭い事言わないで! 武光君は大人しく私の看病を受けて下さい! ちなみにこれはお義母様も承諾済みです」
参ったなぁ…琴子はこうなるとテコでも動かない。仕方ない。彼女の看病を受けるとするか。頼むから彼女にはうつらないでくれよ。
…でも不思議と彼女がいると心強い。先ほど僕が感じていた心細さや不安はいつの間にかどこかに消えてしまっていた。
「でもよく家の中に入ってこれたね。鍵かかってなかった?」
僕たち学生は夏休みだが、本日は世間的にいうと平日である。なので母親も僕に薬を渡すとさっさと仕事の方に行ってしまったので家には僕以外誰もいない。
だから玄関には鍵がかかっていたと思うんだけど…彼女は一体どこから入って来たのだろうか? まさか…ピッキング!?
僕が疑問に思っていると彼女はポケットから鍵を取り出した。これは…僕の家の合鍵?
「この前お義母様から頂いたの。『琴子ちゃんなら安心して任せられるわ。これでいつでも武光に会いに来てね』って」
…もうそこまで関係が進んでいたのか。彼女による僕の母親の攻略はもう大分進んでいるらしい。
「武光君、頭上げるね。氷枕用意してきたから。あとはおでこに冷やしたタオルも置くね」
彼女は僕の頭を持ち上げて下に氷枕をしいて来る。ひんやりとした琴子の手が気持ち良い。そして水に濡らし、絞ったタオルをおでこに置いてくれた。あぁ…冷たい。
「何か食べた? 何かしら食べないと体力が持たないよ」
「薬は飲んだんだけど、何も食べてない。喉も痛いし、あまり食欲もないかなぁ?」
「それじゃあ、りんごをすりおろしてくるね。少し待ってて」
彼女はそう言うと1階のキッチンに降りて行った。なんというか、いたせりつくせりである。…母親でもここまで丁寧にしてくれた覚えがない、あの人は去年僕が風邪を引いた時も「冷〇ピタ」と水と薬を渡して終わりだった気がする。
それだけ彼女が僕を大切に思ってくれているという事なのだろう。ありがとう琴子。病気の人間の看病を嫌な顔一つせずにしてくれるなんて、本当に彼女はいい娘である。彼女がいつでもそばにいてくれたら…これほど心強い事は無い。
○○〇
「はい、あーん」
僕はりんごをすりおろしてきた琴子にそれを食べさせられていた。自分で食べられると言ったのだが、彼女は「病人は黙って看病を受けてね♡」と怒りのプレッシャーを放ってきたので僕はおとなしくそれに従う事にした。冷たくて甘いりんごが熱い喉を冷やして気持ちが良い。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
「よかった。武光君のために心を込めてすりおろしたからね。それと…はい、生姜とはちみつのレモネードも作ったよ。風邪によく効くから飲んでね♪」
「ありがとう」
喉も痛いし、食欲もないという事で彼女は飲み物なら僕が摂取できるだろうと色々作って来てくれたようだ。
すりおろしりんごを食べさせられた僕は次に彼女が作った「生姜とはちみつのレモネード」を飲まされる。栄養満点で喉に良い物ばかりだ。これならすぐに喉の痛みも無くなりそうである。
彼女はコップを手に持ち、僕の口に当てて飲みやすい様に補助をしてくれた。
「あっ、口移しで飲ませた方が良かったかな?」
「ブッ! ゴホッゴホッ」
「ああっ大丈夫、武光君!?」
僕は彼女の言葉に飲んでいたレモネードが気管に入って思わず咽てしまった。それと同時に以前彼女とスポーツ飲料の口移しをした時の事を思い出して身体が熱くなる。…それをやられるとむしろ熱が上がりそうだ。
「確実に琴子に風邪がうつっちゃうからダメ!」
「冗談だよ」
彼女は僕に謝りながら口元をタオルで拭いてくれた。でも琴子の看病のおかげで突っ込みが出来るぐらいには体力が回復したみたいだ。
彼女はその後も甲斐甲斐しく僕の看病をしてくれた。汗を拭いてくれたり、氷枕の氷を補充してくれたり、食欲が回復した僕におかゆをつくってくれたり、色々だ。そのおかげもあって僕はその日の夕方には体調がほぼ回復した。
…彼女には感謝してもしたりないな。困った時に助けてくれる、本当にいい彼女だと思う。そして僕はそんな琴子を見てある決心した。前々から思っていた事だけど、彼女のような人だからこそそれをするにふさわしいと僕は思う。
○○〇
あふたーすとーりーはあと2話で終わりです。
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