The right to life

判家悠久

2nd.returner

 度重なる流行病の蔓延で、人類は外宇宙に活路を求めた。この2222年の初夏においても。



 私小清水佐江は一族筋で、隣接銀河調査隊に選抜される。調査が良好ならば自由に入植して良いなんて、大昔のUターン組の僻地入植かだが、まあリゾート地に開墾出来れば上がりは大きい。


 勿論選抜されても、入隊の自由裁量はある。別に愛すべき恋人との別れとやらは、22世紀では何の事で。恋愛至上主義は20世紀後半の復刻映画のノスタルジアに過ぎない


 何よりの入隊は、隣接銀河調査隊のオプションが非常に大きい。隣接銀河にも行けるのだから、時間跳躍も可能になっている。

 ただ2075年の運営初期には問題が多々あった、時間跳躍者である1st.returnerが過去から戻って来ない。理由は一つで、愛を見つけたからだ。そこからagent.returnerの徹底監視が入って、時間跳躍者は2nd.returnerが正式名称になった。



 そして、隣接銀河調査隊第15分隊隊長高遠香里との面接に入った。


「2048年への時間跳躍。えらく微妙な時代に行きたいのね。大凡は江戸時代終焉期に行って、はっちゃけって来るのに」

「どうしても、立派なご先祖様に会いたくて。不都合が有りますか」

「いいえ、皆涙して帰ってくるだけみたいだから。推薦状は普通に書けるわよ。但し、」

「agent.returnerが半端ではないと」

「まあよね。しくじらないでね。第25次隣接銀河調査隊は、あなた小清水佐江がいないと、衛生補完出来ないのよ。万が一は、泣きつきなさいな」


 それから2週間後。松代市の素粒子総括加速器施設で、私は時間跳躍をし、2048年3月の安房へと、それを見届ける為に向かう。



 *



 時間跳躍の滞在期間は最大1週間を設定される。私は時間を惜しみ、2048年3月1日日曜日、私立安房総合第二学園の卒業式に、縁者関係者として参加する。

 そう、この日は御先祖様小清水郁枝の晴れがましい卒業式である。


 小清水郁枝のプロフィールを見ると、やたら美人だ。私はその系譜を受け継ぐも、長身で小顔と、ままアドモデルに呼び込まれ、小銭は切らした事は無い。それだけでも小清水郁枝に直接感謝は言いたいものだ。


 そして生徒会長小清水郁枝の式辞は、歴史に残るスピーチを発揮する。


「私のお腹には子供が宿っています。これは正直条例違反です。しかし、碌に子供を養育出来ないからって、日本国政府の方針で全ての胎児が母胎カプセルに入って、親の顔も分からず、マナーハウスで養育して、心豊かな大人になれると思えません。21世紀は愛の無い時代と言われて久しいですが、問いましょう。あなた方は、愛を知らずに生きていて寂しく無いですか。私は、どんな困難があろうと、このお腹の子を育て上げます。世界中が全て敵になっても、決して負けません。愛があるからです。愛こそ全てです。ただ私一人では出来ません。どうか、私達親子を支えて頂けませんでしょうか」


 小清水郁枝は深々とお辞儀し、詰め寄る先生達にお腹を触れても、どうしても首を傾げる。これは私の直感だが、恐らく妊娠7ヶ月に入っても、モデル体型の私達は極端にお腹が張る事無いと思う。そう、無駄。この後無事出産するのだから。


 日本国政府は2033年に大きな舵を切る。出生率の低さも大問題だったが、幼児を愛でる風潮が一切無くなった為、全て申請を受理されての体外受精による胎児生育、その後マナーハウスと呼ばれる施設でカリキュラムを学ぶ。


 セレモニーホールは、眠れる母性と父性が起きて、皆が涙している。

 そして、私は立ち上がって、叫ぶ。いや、皆が一様に固まる。時間が止まった。

 そして、左隣前のハンサム男性が立ち上がっており、私に微笑む。こんな芸当出来るのはagent.returnerのデバイスがあればだ。


「俺な、agent.returnerの紅屋敷拓海と申すよ。さて、小清水佐江さんね。熱烈に御先祖様を応援して焚き付けても困るんだよ。彼女は各段階を乗り越えて、特例の乙種取得者になるの知ってるでしょう。ここ如何に重要がわかるかな」

「2120年の流行病ですか」

「大いに結構。世界は体外受精者が大半になり、自然免疫力がまるで無い。そう乙種取得者の家系は自然出産であり、ならではの抗体力が有るんだよ。このフィードバックあればこそで、君も第25次隣接銀河調査隊の衛生班にも選出されているのにさ。故に君の脱落は、調査隊の全滅を招きかねない。ご理解頂きますよね」

「せめて、お話はさせて貰えるでしょう」

「良いよ。縁者だからとごゆるりと。まあ、ごく似てるから、キャッキャしなよ」



 パチン、紅屋敷拓海のフィンガースナップが鳴ると、セレモニーホールにざわめきが戻る。


 さて、ご歓談として。私は2222年から来て、近々銀河旅行するんですよのパワージョークが通じる御先祖様だろうか。真に受けちゃうんだろうな。

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The right to life 判家悠久 @hanke-yuukyu

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