終
■ 終 ■
内裏の北門近くで、ちょっとした騒ぎがあってからほぼ一カ月が経った。
年が改まったこともあり、正月の宮中行事に追われる日々の中で、『あかずや』に関わる噂話は、新たな別の噂話の中に埋もれていった。
そんな世の移ろいやすさを憂う
「よくきてくれました。右近少将殿からあなたのお話は伺っていますよ」
左の女御が、御帳台の内側から梓子に言葉を掛けてくれた。
そう、少将からの梅壺への呼び出しは、左の女御への紹介だったのだ。急なことで、緊張するばかりの梓子を、少将が楽しそうに見る。
「解決に協力してくれた
いたずら好きの子どもか。梓子は、内心で悪態をつき、頭を下げたままの姿勢を保っていた。それを御帳台の横に控えていた年配の女房が笑う。
「本当によくきてくださいました。字の美しさだけでなく、早く正確な筆記に
娘を入内させられる家が限られているということは、
かつては氏に近親者(だいたいは、父親。正妻格なら夫)の役職をつけて女房名としていた後宮も、同じ氏ばかりで氏をつけることに意味がなくなった。一時期は、近親者の役職だけを女房名としたこともあったが、出仕の時期や勤続年数によっては同じ女房名が生じてしまう混乱もあり、女房の
「あなたは、本日より女房名を『
萩野に言われ、梓子は左の女御に平伏した。
平伏したが、そのままの体勢で首を傾げる。個別の女房名を賜ることは、後宮において、特定の主を得たことの
「あの……なぜ、藤袴……『少将』なんです?」
梓子は、萩野に尋ねた。
「そりゃあ、君が私の『北の方』だからだよ」
「はあ? な、なぜ、わたしが少将様の『北の方』に?」
思わず叫んだその言葉が、宮中の隅々まで届くのに、半日とかからなかった。
『輝く少将』とあやしの君改め『モノめづる君』。噂のタネに事欠かない二人に、また新たな噂のタネが加わったのである。
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この続きは、角川文庫より2023年6月13日刊行予定
『宮中は噂のたえない職場にて』(天城智尋・著)
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宮中は噂のたえない職場にて 天城智尋/角川文庫 キャラクター文芸 @kadokawa_c_bun
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