困ったときの坊主頼み

高黄森哉

出家


「へえ、未成年に手を出したから、炎上してるのか」


 俺は友人の相談を受けていた。彼は人気な配信者で、最近、裏で良からぬ淫行に手を染めていたらしい。それは、ファンの間で問題視され、彼は今、大変な量の誹謗中傷を受けている。


「うん。そうなんだよ。どうしたら、いいのかな」


 気弱な彼は、やや、うつむきながら、パスタをくるくると回す。彼とは旧来からの友人であるので、助けてやりたいと思う。しかし、どうしたらよいか、毛ほども頭に浮かばなかった。


「神様仏様、僕をお救いください」


 冗談めかして彼は宙に向けて合掌する。そんなことになんの意味があるというのか。溺れる者は藁をもつかむ、ということか。


「ぶったもブツレベルだな。非常時にだけ縋りやがって」

「そんなことされたら、ブッタおれちゃう」


 そう言って小さくなる。思うにこういう性格だから、甘やかされ、彼の善悪感が人より少なくなったと思うのだ。小さい頃から見ているから、良く知っている。まあ、甘やかして来たのは、俺も同じなのだが。


「ちなみに仏教徒なら、どこの流派だ」

「うーん。立川流かな」


 立川は俺の苗字でもある。つまり彼は、俺党と言いたいのだろう。あざといやつめ。


「こりゃ、ブッタまげた」


 俺はどひゃーというように両手を挙げた。


「ねえ立川君は、そういえば、童貞なの?」

ー」


 どうして、こんな童顔で大人しい昔馴染みに、卒業を越されてしまったのだろう。男としてだけは、このナヨナヨに負けることはないと、ずっと思ってきたのだが。


「うん。そうなんだ。でも、僕がいるもんね」

「それはどういうことだ」

「うふふ」

「仏の顔は三度までだ」


 忠告する。そろそろ鬱陶しくなってきた。そんなことより、俺達は炎上に対処しなければならない。


「こういうのはどうだろう。坊主にするのだ」

「坊主、どうして」

「そしたらそれなりの誠意と覚悟を見せられるだろう」

「でも、僕の可愛い顔が台無しだよ」

「自分で言うな。だからこそじゃないか」

「うん、試してみるよ」


 ということで、彼は配信で髪の毛を剃って坊主にした。世間の反応はいくらかあり、炎上は鎮火していった。そして、彼の髪の毛が元の長さに戻りつつあったある日。


「また、炎上しちゃったよ~」

「次はどうした」

「また同じ」

「また女の子に手を出したのか」

「うん。また坊主にしたら許してくれるかな」

「うーん。お前が反省しても、だからなあ」

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困ったときの坊主頼み 高黄森哉 @kamikawa2001

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