第72話 公開調教

 カイルはリリーエ女学院の生徒――即ち自分の彼女九名を引き連れて、中央広場へと足を運んでいた。


 巨大な噴水を取り囲むようにして並んだ露店、せわしなく客引きをする商人達。

 いつ見ても活気に満ちた光景だが、今日はどことなく荒々しい空気を感じる。


 きっと共和国との関係がこじれたせいだろう。

 妙に帯刀している者が多いように感じるのは、気のせいではあるまい。


(皆がこちらを見ているな)


 この広場は、王都で最も人通りの多い場所とされていた。

 ここで目立った行動を取れば、すぐさま国中に情報が広まることだろう。

 

 つまり自らに有利な世論を作り出すには、うってつけの環境と言える。

 クククク……とカイルが邪悪な一人笑いをしていると、何人かの通行人が足を止めた。

 彼らの視線はカイルではなく、背後にいるモニカ達に向けられている。


「おい……あいつら共和国の学生だぜ」

「テロ国家のガキなんか自由に歩かせていいのか? 街中で自爆したら責任取れんのか、あの小僧は」


 血気盛んな連中が、リリーエの制服を見て騒ぎ出す。

 理想的な展開だ。

 

「おい坊主! おめえの後ろにいるのは共和国の娘っこか!?」


 そうだ、とカイルが頷くと、人々はあっという間にパニック状態に陥った。


「縁起でもねえ……さっさと国外追放しろ、そんなアバズレども!」

「親善試合がなんだ! 追い返せ!」

「そうだそうだ! 一番ちっこい子だけ残して殺しちまえ!」

「いやそこは普通、『一番おっぱい大きい子だけ残して殺しちまえ』だろ」

「は? 喧嘩売ってんのか?」

「は?」

「は?」


 わけのわからない理由で、男達が取っ組み合いの喧嘩を始める。

 この分だと、暴力の矛先がモニカ達に向かうのは時間の問題であろう。


 だが、カイルはまるで動じない。

 自分達に注目が集まったこのタイミングでこそ、できることがあると知っているからだ。


「どけ坊主! お前がやらねえなら俺らがそこのアバズレどもをとっちめてやる!」


 いよいよ我慢できなくなった、群衆の中の一人がカイルに掴みかかってきた。

 そろそろ頃合いであろう。

 カイルは意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。


「アバズレとは、俺の後ろにいる女達のことか?」

「当たり前だろうが!」

「こいつらは全員、俺と交際している。それでもアバズレ呼ばわりする気か?」

「……なんだと? おい! こいつ共和国の女と付き合ってんだそうだ。どうするよお前ら?」


 不穏なざわめきがあたりに広がる。「そんなバカな」「よりによってこのタイミングで」「可哀そうに。あの男の子、袋叩きにされちゃうよ」……。


 中にはカイルの身を案じる声もあったが、それはごく一握り。

 大多数の野次馬は、今から始まるリンチに飛び入り参加したくてたまらない、といった顔をしている。


「お前達にはまだ情報が伝わってないんだろうが、今は共和国の代表者が来て、停戦交渉をしているところだ。……まあ、こんなことを言って収まるわけがないな」

「何ごちゃごちゃ言ってんだてめえ!?」


 どのみち王都からしても、人間同士で争っている余裕などないのだ。

 バースが謝罪の意思を示し、罪をオークになすりつければすぐにでも政治的な決着は付くだろう。

 問題は国民感情の方である。


 振り上げた拳の落としどころ……民衆の怒りと不満をぶち撒ける何かが必要なのだ。

 

 だからカイルは、女学院の女子生徒をここに連れて来たのである。

 

「敵国の女にたぶらかされて、みっともねえと思わねえのか?」

「たぶらかされた? 俺が?」


 それは違うな、とカイルは笑う。


「逆だ。俺がこいつらを篭絡し、たぶらかしたのだからな」

「ああ?」

「見ればわかる」


 言うなり、カイルは女学院の皆を地面に四つん這いにさせた。そして勢いよく全員のスカートをまくり上げる。

 そう、これこそが究極の市民懐柔策。


 対立国の娘達を街中で公開調教することにより、王都人民のナショナリズムを刺激するのである。


「こいつらは俺の言うことならなんでも聞く」

「な、なんだと……それじゃおまえ、彼女じゃなくて奴隷じゃねえか!?」

「ほぼそれに近いな」


 ニヤリと口元を歪めながら、カイルはモニカの尻をはたく。

 あう! と甲高い悲鳴が上がり、ギャラリーは歓声に沸いた。


「し、信じられねえ……ライバル国の女を、九人も専属奴隷に……」

「愛国心が刺激されてるのがわかるよ。あのツインテールの子もひっぱたいてくれないかな?」

「お前のそれは愛国心じゃなくて性欲な気がするが、今は同意しておくぜ!」


 そうしてカイルは、広場であらん限りの痴態を尽くした。

 全てが終わる頃には、「さすがにこれは酷い」「こんだけこらしめたならもう共和国を許してやってもいいんじゃないかな」「これ後で外交問題になるんじゃね?」

 といった論調ができあがっていた。


「どうやら上手いこと、交戦ムードは払拭できたようだな」


 飽きっぽい野次馬が立ち去ったのを確認すると、カイルは女子硬球部達に声をかけた。

 これは一方的なご主人様プレイではなく、彼女達の方から協力を申し出てきたのである。

 あちらとしても、戦争を避けたい気持ちは一緒だったのだろう。


「野外も悪くないな……」


 と意味深な呟きをするイルザを見るに、何か妙なものに目覚めさせてしまった気がしないでもないが。

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転生のベルセルク ~俺をパーティーから追放した女勇者が死んだけど、実は愛する俺を守るため仕方なく追い出したのだと知り、過去に転生して二人の出会いをやり直すことにした~ 高橋弘 @takahashi166

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