第71話 レオナのお出迎え
「カイル!」
球場に到着すると、顔色を変えたレオナが飛び出してきた。
ツインテールを振り乱しながらの、全力の女の子走りである。
ひょっとしてこれは、「遅かったじゃないの!」となじられるパターンだろうか?
(面倒なことにならなければいいが)
と、カイルはため息交じりに馬を降りる。
途端、感極まった様子のレオナが思い切り抱き着いてきた。碧い目には涙が浮かび、鼻先は赤く染まっている。
なんだか拍子抜けするカイルであった。
「……急に飛び出しちゃうんだもん」
心配したんだからね、と胸を叩かれる。
馬鹿……死んじゃうかと思った……っ! というテンプレな台詞がそれに続いた。
このままラブコメを続けても良かったのだが、今は時間が惜しい。
カイルはレオナを暗がりに連れ込むと、下半身を弄って機嫌を取った。
「色々悩んでた気がするけど、全部どうでも良くなったわ!」
すっかり落ち着きを取り戻したレオナに、事情を説明する。
「共和国の一件なら片付いた」
「もう? 一体どうやったのよ?」
「オークが全部悪い。大体あいつらのせいだった。皆殺しにしたら解決した」
などと物凄く乱暴な要約をしてみたところ、レオナは「そうなんだ」と素直に納得していた。
「カイルがそう言うならそうなんでしょうね」
とカイルの右腕に絡みつきながら、満面の笑みを浮かべている。
もはや盲信にしか見えない信頼関係に、むっとした顔を見せたのはモニカだった。ひょっとしたら妬いているのかもしれない。
「再会を喜ぶのは結構ですが、今はやるべきことがお有りなのでは?」
唇を尖らせながら、モニカはひらりと馬を降りた。それから何をするかと思えば、レオナに対抗するかのように、カイルの左腕に絡みついてきたではないか。
「あら。あんたも帰ってたの?」
「ええ。カイル様とはずっと一緒に行動しておりましたから。……もちろん、寝床も」
バチチ、と見えない火花を散らすレオナとモニカ。
二人の美少女は、争うようにその豊かな乳房をカイルに押し付ける。むにむにとした感触は中々愉快であったが、こんなところでイチャついている場合ではない。
なにより自分の娘が目の前でハーレム要員となっている事実に、バースが死にそうになっているのが気の毒すぎる。これは父親に見せていい光景ではないだろう。
「自重しろお前ら。せめて夜まで我慢できないのか?」
はあい、と二人の少女の声が重なる。
聞き分けがよくて大変結構。
カイルは「いい子だ」とレオナ達の頭を撫でると、さっそく本題に入った。
「もう一人のモニカの処遇はどうなってる?」
「あの子? 尋問を受けてる真っ最中よ」
とモニカは答える。
尋問。
その言葉に最も過敏な反応を示したのは、バースであった。
「な、何!? うちの娘はどうなってる!? 一体どんな目に遭わされてるというのかね!?」
「ちょっとちょっと、なんなのこの暑苦しいおじさんは!?」
そいつはモニカの父親だ、とカイルは説明する。
「頼む、なんでもする。どうか体に傷が付くような真似だけは……」
「なんであいつの父親がこんなとこにいるの……言っとくけど王都の尋問はとってもスマートよ? 野蛮な真似はしないんだから安心してよ」
「……一体どんな手法を用いるのだ?」
「まず容疑者を素っ裸にするでしょ? それから、綺麗なお姉さん達が鳥の羽で体をくすぐり回すの。知ってることを洗いざらい白状するまでね。性癖は歪むかもしれないけど、外傷とは無縁なはずよ?」
それはそれでエグイ気がする、とカイルは思う。
個人差こそあれど、人間は様々な痛みに耐えることができるらしい。
だが「痒さ」と「くすぐったさ」に耐えられる者は、滅多にいないと聞いている。
こればかりは精神力とは無縁というか、鍛えようと思って鍛えられるものではないのだろう。
「……くすぐりか……確かに死にはしないだろうが、それでも心配なものは心配だ。今すぐやめさせることはできないのかね?」
「あの子が自供しちゃえば終わるんだけどね。まだ続いてるってことは、相当強情よね」
「ぐ……それでこそうちのモニカだ。だが……いい加減折れてもらわなければ困る。面会することは可能か?」
「……カイル?」
レオナは何故かこちらに話を振ってきた。この男は信用できるの? と言いたいのだろう。
「大丈夫だ。モニカが尋問を受けているのはどこなんだ? そこに連れて行ってやれ。戦いは終わったんだと父親の口から聞かされれば、あいつも自白を始めるはずだ」
「そうね。そろそろ楽にさせてあげないとね。じゃあ私はこのおじさんを案内するけど、カイルはどうするの?」
「俺はこれからやることがある」
「え?」
俺は王都と共和国の争いを止める。
そう言って、カイルは視線を王都の中央部へと向けた。
あそこへ行けば、リリーエ女学院の面々が泊まるホテルがある。
全てを終わらせるには、彼女達の力を借りなければならない。
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