【人生二周目】転生後の日常がヤバすぎた【その二】

高貴な雰囲気纏う美少女転校生、白石綾乃。なぜか彼女が背後に座る事になった俺は、席が近いという理由で担任から彼女のお世話係のような物を任命された。

慣れるまで助けてあげてね、というアレだ。


「で、ここが食堂。購買もここに併設されてるから、買い物は基本ここって覚えておけば良いかな」

「伏見さんは、よくここを利用するんですか?」

「いや、俺は親が弁当作ってくれるから使った事ないな。でもここのカレーライスが美味いって話は良く聞くよ」


現在放課後。学校案内をしろと榎宮先生に指示されたので、絶賛案内中だ。

思ったより彼女の方からも積極的に話題を振ってくれるので、気まずい雰囲気に困るような事は今のところ起きていない。

当然宣伝らしき会話も無い。というか来ないでくれ。コレで本当に薄毛云々の話になったら俺は泣き喚く自信がある。

前世は鬼畜上司に悩まされる事はあれど、髪の心配はなかったからな……耐性が無い。


案内の途中で、榎宮先生と遭遇する。

彼女は俺達に気づくと立ち止まり、微かに表情を柔らかくして話しかけてきた。


「見たところ順調そうね。伏見君に任せて正解だったわ」

「そんな事ないですよ。というか、なんで俺に任せたんですか?普通こういうのって同性同士の方が良いんじゃ……」

「……」


俺の言葉に、先生は少し複雑な表情を浮かべつつ沈黙。「何かある」のがあからさまな態度だ。


今までの俺なら、きっと「何か」の正体を確信する事はできず、微かなモヤモヤを後に残していたことだろう。

しかし今は違う。俺にはそう、『転生特典』がある。


―――え?お前の転生特典はテロップ表示だろって?


確かに俺も最初はそれだけだと思っていた。

だが、なんと俺の転生特典にはもう一つだけ能力が隠されていたのだ。


名付けて『モノローグ表示』。テロップ表示と違ってオンオフが可能であり、相手のモノローグを読む事が出来る能力だ。


……で。これを聞いて今「心が読めるとかチートじゃん」って思ったヤツがいるだろう。だが厳密には違う。

俺が表示できるのはあくまでモノローグであり、心を読めるわけでは無い。声に出していないセリフを一部分だけ読ませてもらう、或いは対象の簡単な情報を口語で文字に起こしてもらうというだけ……例えば榎宮先生に、自己紹介モノローグの表示をさせると、


[私は榎宮律子。アラサー独身の女教師だ]


と、こんな風に文章が出現する。


これを応用して、俺の必要とする情報がモノローグに存在するかを確認し、あればそれを覗かせてもらうという手法を取るのだ。


この場合だと榎宮先生が俺を選んだ理由、女子生徒から案内人を選ばなかった理由、俺と他生徒の違い、等々をキーワードとして設定して表示させる。

すると、こんな感じの吹き出しが俺の視界端に出現する。


[これでも昔はモテた私には、仮にあまり仲が良いわけでもない女子と白石さんのような美人を一緒にさせると何が起きるのかわかってしまう。あまりこういう言い方は良くないかもしれないが、私の担当しているクラスには、大量の男子から熱烈なラブコールをされるような女子はいないに等しい。つまりは、白石さんが嫉妬によって傷つけられる可能性があるという事だ]


テロップ表示と違って中々便利な能力だろう。決して心を好き放題読める訳でもなく、かといってわからなすぎる訳でもない。

偶に勝手に発動して、漫画広告の導入みたいなモノローグを読ませてくる事さえ目を瞑れば良い力だ。


……しかしなるほど、言われてみれば確かにそうかもしれない。

美男だろうが美女だろうが、異性なら何とも思わないものの、同性なら嫉妬とかそう言った感情は案外簡単に浮かんでくるものである。

俺だってモテてる男を見たら舌打の一つでもしてやりたくなるくらいだ。人生二周目の中身オッサ……お兄さんな俺でもそうなんだから、思春期真っ盛りの女子なんて言うまでも無いだろう。


まぁ、金本あたりは気にしなさそうだが、それを言うのは野暮か。


「……えっと、もう案内は終わったのかしら?」

「後は選択授業の教室が残ってるくらいですかね……あ、そういえば白石は音楽と美術、どっちを取ってるんだ?」

「音楽ですよ」

「じゃあ、音楽室に案内して終わりですね」


無理のある話題転換ではあったが、今のを読んだ上で追及する程、俺は野暮な男ではない。


それにしても音楽室か。俺も音楽選択者だから場所に関しては問題ないのだが、位置が悪い。

ここから向かうとなると、移動が面倒くさい……ぶっちゃけ遠い。また明日という事にして今日はこのまま解散したいくらいだ。(玄関の方が近い)


なんて、案内して終わりって言っちゃったから無理なんだけどさ。


[学校案内にありがちな事#1 順番を間違えて面倒くさい事になる]


ねーよ!と言おうと思ったけど学校案内とか前世含めて今までやった事無かったし、コレが良くあることなのかどうか判別できないな。

このテロップの情報って時点でズレてるのはほぼ確定したような物だけども。


先生と別れ、再び移動を再開する俺達。

やはり会話が途切れる事はないのだが、ふと俺の中に「白石の事全然知らなくね?」という思いが浮かび上がる。


休み時間に行われた質問攻めの時、あまりの人口密度に距離を取ってしまっていたのが原因だ。あんな必死の形相の男達に混ざる度胸もやる気も無かっただけなのだが、一緒に行動する事になるなら簡単な情報くらい聞いておけば……と。こういう時の為のモノローグ表示だな。


普通に聞けば良いとも思うが、せっかくあるんだから使わないとなんだか損した気分だし。

もしかしたら「そういうプライベートなお話は無理ですー」って拒否られる可能性だってあるし。


[私は白石綾乃。父が大企業の代表取締役社長を務める、少しだけ実家が裕福な高校一年生]


確かに言動に高貴さがあったが……まさか本物のお嬢様だったとは。ただ裕福なのは少し所の話じゃ無いだろうな、多分。


[母の教育の方針により本来通い続ける予定だった『スーパーインクレディブルアメイジングブルジョワジー女学院』を四月が終わるか終わらないかの所で中退し、庶民の方々が通うこの星華高校へ転入する事になった私は今、座席が一番近い殿方の伏見康太さんに校舎内を案内してもらっています]


なんだその成金趣味丸出しのアホな名前の学校!?えっ、日本の話だよね!?

す、スーパーインクレディブル……?よくわからんけど庶民を見下してる典型的な坊ちゃまお嬢様だけが通える場所なんだろうな、多分。


当たり障りのない会話を続けながら、廊下を歩く。

当然ながら彼女は自分のモノローグが読まれている事に気づく事はない。よしんば気づけたとしても俺の視線が彼女ではなく彼女の真横に向いている事くらいだ。

我ながら反応を表に出さないようにする技能のレベルが高い。学校名に驚いた時は流石に声が出そうになったが、それも上手く誤魔化せた。


[それにしても、伏見さん……あぁ、なんて]


しばらくはモノローグの方も当たり障りの無い内容というか、家族構成とかそう言った程度の内容しか表示していなかったのだが、突然こんな一文が出現。

コレを読んだせいか、なんとなく彼女からの視線にが籠っているように感じられてしまう。


いや、嘘だろ?でも、もしかして………。


会話は依然ただの世間話。白石も至って変わった様子が無いのだが、俺は言葉の途切れたタイミングで、つい生唾を呑み込んだ。

理由は当然、このモノローグ。先程まで途切れる事無く出現していた吹き出しが、続きの気になる一文を残して更新が止まる。つまりは何か大事な事。


彼女が俺に対して考える大事なこと。そんなの一つしかない。

この文章の後に続く一文。そんなの一つしかない。


それは――――「なんて、髪が薄いんだろう」だ!!


俺自身は薄毛を実感した事は無いが、ここは漫画広告の世界。美少女転校生と二人っきりで学校デート(実際はただの案内)なんて、広告のワンシーン以外の何物でもない。ここで商品に関する話題が始まるのだ。


恐らく配役は、薄毛にお悩みの少年→俺、俺が想いを寄せる美少女→白石という感じ。

きっと広告の流れは、心読める系男子の俺が薄毛のせいで想い人からの好感度がマイナスになっている事を知ってしまい、そこで解決策をネット検索している時に商品を発見、宣伝フェーズと実演フェーズを経て告白シーン……これしかない。


ま、不味いぞ。このままじゃ今はまだ一般的な男子高校生程度の毛量を誇る俺の頭髪が、広告の為に無かった事にさせられかねない。

モノローグを消すか?途中で表示をやめさせるのは初めてだから、上手く行かない可能性もあるが……。


冷や汗が自然と頬を伝う。モノローグはまだ変わらない。

多分残り二、三秒か。消す試みと、失敗した場合の目を背ける準備、理由作り。それをやるにはあまりにも―――。


「あっ、居た居た。おーいっ、伏見ー!」

「ぉおぅっ!?」


遠くから名前を呼ばれ、意識の大半を毛量問題へ割いていた俺は情けない声を出して肩を跳ねさせてしまう。

慌てて声のした方を見ると、今朝堂々と俺達に二度寝宣言をメールでした挙句遅刻した間抜け、金本音々が居た。


「な、なんだお前か……なんでここに居るんだ?」

「なんでも何も、お前が居なかったから探してたんだよ。ってかお前こそ何してたんだよ?一緒にいる……えっと」

「どうも、白石綾乃です。貴方は?」

「白石……あぁ、えっちゃんが言ってた転校生か!俺は金本音々!今朝は遅刻したから会わなかったけど、実は同じクラスなんだぜ」

「あぁ、あの空席の……ふふっ、よろしくお願いします」


一応言っておくが、榎宮先生をえっちゃんと呼ぶのは金本だけである。

そして本人もその呼び方を毎度毎度やめるようにと言っているが、金本がちゃんと榎宮先生と呼んでいる所を見た事は無い。


ま、モノローグ確認したらえっちゃんって呼ばれるの気に入ってたっぽいし大丈夫でしょ。


―――あっ、そうだそれよりもモノローグ!……っと思ったら消えてた。

なるほど、金本が乱入してきて話が(それも心の中の文章ですら)ぶつ切りになったから、モノローグの表示が終わったのか。


ナイスだ金本!やっぱ幼馴染がナンバーワンだな!

どうせコイツ近藤の事が好きなんだろうけど。だってアイツの方がイケメンだから。


「所で、お前なんで俺を探してたんだよ。なんか用事でもあったか?」

「ん?いや、一緒に帰ろうと思ったらいなかったから。お前動き回ってばっかで全然捕まえられなくってさー、マジ大変だったぜ。行先もよくわかんねぇから、待つのも無理だったし」

「そりゃ面目ねぇ。榎宮先生に学校案内を頼まれて―――ん?動き回ってばっか?」

「なんだよ、なんか変な事言ったか?」

「いや、俺が白石案内して歩き回ってたの、見てたんならその時声かければ良かったじゃねぇか」

「あぁ、違う違う。他の生徒にお前の居場所聞いたからだよ。二階で見たって話だったのに一階にいるって言われたり、三階だったりさ」


そういう事か、と一先ずは納得する。

まぁ、俺達を見ていた生徒なんていたかな、という疑問はあるが。なんせだし。


あまりに学校案内に時間をかけすぎて、途中から殆どの生徒が部活か帰宅で居なくなってたからな。廊下歩いてたのなんて、俺達か一部の教職員くらい……まぁ、話を聞く相手が生徒だけとは限らないし、別におかしな事も無いか。


なーんか一瞬うすら寒い物を感じたような気がしたんだけど、多分まださっきの禿発覚騒動の緊張感が残ってたんだな。


「んじゃ、さっさと帰ろうぜ」

「別に帰るのは良いけど、最後に音楽室案内しないとダメだし、カバンも教室に置きっぱなしだからまだ時間かかるぞ。流石に部活生が帰る時間よりは早く終わると思うけど」

「じゃあ俺も付いてく」

「それくらいは良いけど……白石は大丈夫か?初対面の相手だと緊張するとか……なんて、俺とこんだけ話せてりゃ問題ないか」

「……はい。大丈夫ですよ」

「そっか。なら行こうぜ。まだ音楽室まで遠いしさ」


金本を仲間に加え、俺達は再び廊下を歩きだす。

やはりというか、誰ともすれ違わない。静かなだけで言いようのない不気味さがあるな、学校って。

これで夜だったらもう、大分怖いだろう。俺は心霊とか得意だから問題ない……というか廃墟とか閑静な場所とか好きだし問題ないけど。


あぁ、なんだか心霊スポット的な場所に行きたくなってきたな。今度近藤と金本誘っていくか。久しぶりに。


そんなどうでも良い事を、まるで現実から目を背けるかのように唐突に考えながら、音楽室へ向かって歩く。


―――突然、呼び出しベルの音が頭に響いた。


#3 監視される]


表示されたテロップに、つい溜息が零れる。


あぁ、これか。


なんか、結構前から何度も出てくるんだよな、コレ。同じテロップ使いまわしな上に、身近にヤンデレが居る気配も無いし。なんならコイツが現状最大のホラー要素まであるぞ。


というか、本当に俺を監視してるようなヤンデレが居るなら前に出てきてくれ。


怪しい宣伝をしてこない……特に髪の話をしない女なら前向きに検討するぞ、俺は。

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転生先が××漫画だったんだが!? マニアック性癖図書館 @kamenraita

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