【人生二周目】転生後の日常がヤバすぎた【その一】

[俺の名前は伏見康太ふしみこうた。元々は何の変哲もない一般社畜男性だった俺が、なんと漫画の世界に転生した転生者だ。

しかもその『漫画』というのが、まさかの『漫画広告』!一応他にも漫画関係の雰囲気を感じられるが、それでも残念に思わざるを得ない転生先だ。

俺の第二の人生、どうなっちまうんだ?]


うん、解説ご苦労。

今のは動画のテロップではなく、漫画の吹き出しのような物だったな。コイツはこういうパターンもあるので、まぁ軽く覚えておいてくれ。後々ちょっと必要になる。


さて。休日のカラオケを楽しんだ後は、当然ながら平日の学校生活が待っているわけで。

俺は寝ぼけた体に鞭打って朝食を流し込み、アップテンポの曲をガンガン流しながら歩く事で何とか目を覚まし、学校へ向かう。


因みに通っているのは星華学園。私立高だ。

この学校がまた、なんとも味が濃いというか……。


「よっ、伏見」

「おはよ」


教室に着くと、近藤が片手を上げて挨拶してくる。もう片方の手で持っているスマホの画面には、俺もやっているソシャゲのプレイ画面が映っていた。

なお、この学校は校内スマホ使用厳禁である。ルールを守っている奴がいないのは言うまでも無い事だが。


俺と近藤の席は隣なので、移動無しでそのまま駄弁る事ができる。

まだ担任が来るまで時間があるので、俺もスマホを取り出して同じゲームを起動した。


「えっ、お前ソレ、イベントランク上位限定の装備じゃん!しかも装備してるキャラも限定のヤツだし!」

「ガチャはともかくランクの方は実力だぜ。いやー、この為に何徹した事か」

「すげぇなぁ。俺も頑張ったけどギリ届かなかったわ」


[ソシャゲを頑張ると#39  同じゲームをしている人から称賛される]


いやほんと、コレがあるからソシャゲは転生してもやめられない。


ついニヤニヤしてしまうのを抑えようともせず、俺はスマホの画面を近藤へ見せつける。

因みに先週コイツに同じことをされたばかりなので意趣返しというのもある。俺の引けなかったキャラを一回で当てやがったのだ。


「んでも、徹夜してたにしては寝不足感無かったけど、なんかコツとかでもあるのか?」

「………あー」


純粋に気になる、と尋ねてくる近藤に、俺はゆっくりと視線を逸らした。

言いたく無い。別にズルいことをしたわけでは無いが、言いたく無い事情があるのだ。


言い淀む俺を訝しむように見つめてくる。まさかなんらかの不正を働いたのでは?と言いたげな視線に、俺はなおも言葉に詰まる。


「いや、別にズルい事はしてねぇんだけどさ」

「じゃあなんだよ」

「………ちょっとした、飲み物的な」

「飲み物?」


見てもらった方が早いので、カバンの中からまだ未開封のプラボトルを取り出す。

某乳酸菌飲料を彷彿とさせるデザインをしているが、中身は別物だ。


「セロットニンっつって、睡眠の質を格段向上させる飲み物なんだけど」

「なんだソレ。あの乳酸菌飲料的なやつか?」

「中身は違うんだけどな。まぁ、そんな大したもんじゃねぇし、この話は終わりって事で」

「おいおい、もっと教えてくれたって良いじゃねぇかよ」


早々に仕舞おうとする俺の手を掴み、セロットニンのラベルに書かれている文言を一字一句違わずに読み上げていく。


「えーっと……安眠効果のある成分を最適なバランスで配合したスペシャルドリンク。医学界の権威、上島弘成氏も認めた睡眠サポート飲料の新定番……なんか凄いな。上島弘成って人が誰かわかんねぇけど」

「俺も知らない」


……うん。まぁ、今の読み上げでわかっただろうが、コレも良くある怪しい健康食品の仲間である。


父親が会社で同僚から勧められたらしく、その効果があまりに素晴らしかったので俺たちにも勧めてきた、と言うのが使い始めたきっかけだ。

正直怪しすぎて最初は使いたくなかったが、前にも言った通りここは広告の世界なので効果はしっかりと出る。誇大広告という言葉が存在しないのだ。

その上あまりにも押しが強かったのもあって試しに使ってみたら、それはもう気持ち悪いくらい効果が出た。具体的には二日完徹した後コレを飲んで三十分仮眠をとっただけで眠気が吹っ飛んだ。


効果は凄い。けど、宣伝はしたくない。

実際に効果が出てるわけだしこの世界ではちゃんとした商品なんだろうけど、前世の記憶がある俺にとっては、このセロットニンだって詐欺商品だ。それを宣伝するというのは、なんだか詐欺の片棒を担ぐみたいで気分が悪い。


だから言い淀んでいたのだが、近藤はセロットニンの説明文を見て目を輝かせた。

広告の世界だから、だろうか。基本的にみんなリテラシーが低いというか、普通なら胡散臭いと考えるような紹介文を鵜呑みにしてしまう。人を疑うということを知らんのか。


「なぁ、俺も飲んでみて良いか?」

「いいけど、今飲むと授業中眠くなるぞ」

「じゃあ帰ってから飲むわ」


俺からセロットニンを受け取り、嬉しそうにカバンに仕舞う。


あぁ、結局セールスみたいな事をしちまった。

徹夜自慢までしなきゃ良かったな。気を付けよう。


[転生したら起こる事#433 意図せず販促に加担してしまう]


この世界だけの話だろ!少なくとも異世界モノで販促してる所見た事ねぇわ!


「―――ってか聞いたか?今日転校生来るらしいぜ」

「聞いた聞いた。なんでも女の子で、ちょー可愛いとか!」

「元々美人の多いこの学校に、さらに彩りが加わるな」


教室のどこからか、そんな会話が聞えて来る。


転校生。俺が高校に入学してから早一か月……仮に俺を主人公とした場合、視点主が高校生活に慣れ始めた所でのヒロイン投下。漫画だと良くある話だな。

漫画広告だとどうなのかよくわからないけども。


というか、さらっと俺自身を主人公扱いしたがこの教室、俺以上に主人公適性の高いヤツが結構いる。それこそ近藤……は無いな。あんな最初っからイケメンでモテてるヤツを主役に据える作品は無い。

だが例えば、「激ヤセして注目の的に!?」を実現する未来が見える力士体形の男や、「塗ればたちまちニキビが治る!?」系の商品の広告で出てきそうなニキビ顔の男など。この世界ならではの主役級男子たちがこのクラスに揃っている。(当然他のクラス、学年にもいる)


俺みたいな転生者である事以外の目立つポイントがほぼない系男子は多分背景のモブだ。或いは主人公に商品をお勧めする係。誰がセールスマンだコラ。


美少女(と決まったわけでは無いが)転校生の話からなんやかんやで気分が沈んできた俺は、スマホを仕舞いつつ溜息を一つ吐いた。

そんな俺に微笑混じりに「なんだよ、幸せ逃げるぞ」とか言ってくる近藤に軽く返事をして、入って来た担任教師が教壇に立つ姿を見つめる。


「金本さんはお休みかしら?」

「あー、アイツ今朝二度寝の連絡寄こしてきたんで多分遅刻です」

「そう。そろそろお説教が必要かしらね……とにかく、他は全員揃っているわね。なら、ホームルームを始めます」


眼鏡をかけた凛とした女性。名前を榎宮律子えのみやりつこ。見た目通りクールな雰囲気を常に身に纏い、誰にでも厳格な態度で接する人だ。

若々しい美人教師という事もあって男子生徒、教職員人気が高いが、浮ついた話は一切聞かない。


いつも通り淡々と連絡事項を読み上げ、質疑応答の時間を設ける。

相変わらず手際が良い。そこそこ連絡事項が多かった気もするが、それでも五分足らずだ。


さて、いつもならこの質疑応答で誰も手を挙げず、それを確認してすぐに「なら一限目の準備を始めなさい。以上です」とだけ言って榎宮先生は早々に教室を去っていくわけだが、今日は違った。


「……では、最後に大事な話があります」

「もしかして、転校生ですか!?」

「えぇ。既に噂になっているようですが、今日からこのクラスに新しく女子一人が在籍する事になります。―――では白石さん。入ってきてください」

「はい」


ただの噂が事実となった瞬間、主に男子たちが腹の底から叫び、喜びを表現した。

それを無視しつつ榎宮先生が廊下の外へ声をかけると、開きっぱなしになっていたドアから、当たり前だがこの学校の制服に身を包んだ女子が姿を現した。


瞬間、転校生の見た目の評価を行うべく誰もが黙り込み、完全な静寂が訪れる。

本来一秒もあれば美醜判断は終わる物だが、男子たちは転校生を見つめたまま言葉を発する事は無かった。


なぜか?言うまでもない。

転校生が来るという噂が真実であったように、ちょー可愛いという噂もまた真実だったのだ。


艶やかな長い黒髪に、整った目鼻立ち。ただこちらを向いて立っているだけだというのに、やんごとなき身分の方を前にしているかのような気品を感じる。


「初めまして。私、白石綾乃しらいしあやのと申します。どうぞ、これからよろしくお願いします」


柔らかな微笑みと共に一礼。そこでようやく男子たちが復活し、教室は爆音によって揺れた。亡者の唸り声か、と思うような歓声は、もはや兵器だ。


「騒がない。静かにしなさい。―――それで、白石さんの席だけれど……どこも空きがないわね」

「俺の隣来ていいっすよ!」

「あっ、テメェ抜け駆けさせっかよ!先生っ、俺の隣で!」

「ぼ、僕の隣で」

「うわー、男子さいてー」

「ないわー」


一度は静かになった教室が再び喧しくなる。まぁ、美人の多いこの学校と言えど、俺達のクラスでずば抜けた美人と言えば金本くらい。その上金本は俺か近藤以外とは男子相手に話す事はあまりなく、基本は女子の一団に混ざっているので、ワンチャンも無い状態だ。


今、このクラスの男子たちは大いに盛り上がっている。ようやく訪れた勝ち組人生への片道切符。これを掴むためには命すら惜しまないだろう。


注意しても静かにならないと判断したのか榎宮先生は溜息をつき、白石に話しかける。ここからは男達のせいで良く聞こえないが、大方座席の話だろう。

さて、勝利の女神は誰に……いや、振り向くか。


何度だっていうがここは漫画広告の世界(に色々混ざった感じだがそこら辺は後々)主役は最初っからイケメン、或いは普通の男子ではなく、何らかのコンプレックスを抱えた人間。

当然そうじゃないパターンもあるが、この教室には前述した通りニキビと肥満の二人がいる。俺の予想では、この二人のどちらかの隣になるはずだ。


そして席が隣と言う事で始まる交流。コンプレックスを気にする事無く接してくれる白石に、自然と心惹かれ、しかし自分は相応しくないと思いに蓋をしてしまう……が、ここでコンプレックスを解消してくれるスペシャルアイテム登場。宣伝が入っていざ使用開始。するとまぁものの見事にコンプレックスは解消され、白石とも晴れて付き合う事になるばかりか、容姿が変わった事で一躍人気者に!


……うん。見える見える。

具体的には冒頭部分で告白直前のシーンを映してからお悩みパートに入る流れまで見える。


「はい、静かに。今から席替えをするわけにもいかないし、白石さんも視力に問題はないと言っているから、後ろにもう一席追加する事にします。だから……


――――なんて?


男子全員が鋭く睨みつけて来る。襲い来る殺気に身震いしてしまう中、こちらへ向かって白石が歩いてきた。


「伏見さん、ですね?お隣……というか、真後ろになりました。よろしくお願いしますね?」

「え、あ、うん。―――えっと、じゃあ追加の机運んでこようか?」

「よろしいのですか?ふふっ。なら、お言葉に甘えさせていただきます」


勝手に運んできて良い机なら、ちょうど二つ隣の教室が空き教室で、そこに机も椅子も比較的綺麗なモノが放置されているはずだ。一限目まで時間もあまりないし、さっさと運んできてあげよう―――ってオイ。なに普通に受け入れちゃってんだ俺。


確かに俺、最後列だけどさ。でもなんで俺が広告の主役に……ッ、まさか!!

この世界の父親も確かにで悩んでたし、俺も悩む事になる可能性が決してないわけでは無いが……まさか、まさかあの広告なのか?


『薄毛にお悩みの方必見!!』系の広告なのか!?



[転校生がやって来ると#1 疑心暗鬼になる]

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