オレンジリング 【第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト 短歌の部】

紺藤 香純

オレンジリング 〜介護職短歌〜

「行ってきます」

仕事へ向かう彼女の手で

今日も輝くオレンジリング


「ななどごぶ」

「ひゃくごじゅういじょう」

「ひゃくいじょう」

自宅にいても赤ペン手にする


何気なく「洗体せんたいタオル」と口に出す

風呂場にいても戦隊たたかってるのか


熱発ねっぱつした」

発赤ほっせきがある」

褥瘡じょくそうだ」

だんだん仕事に染まりつつある


耳塞げど

鼓膜にしっかり残っている

ナースコールのけたたましい音


鼻歌に「瀬戸の花嫁」乗せている

ご機嫌の良い平成生まれ


今の子よ

お願いだから止めてくれ

「小原庄助さん」歌うのは


休日にインターネットで調べるは

クイズ、体操、おやつのレシピ


いけないとわかっていても口に出る

「ちょっと待って」のその一言が


大好きなカレーを頬張るその口で

さっき語った大便話


車椅子いそいそ自走するかたも

夢では故郷を駈けてまわる


耳澄まし

刹那に思い描くのは

ナースコールを押すかたの顔


「綺麗だね」「美人ですね」と褒めて見たい

照れた笑顔が美しいから


可愛いと思うのはとても失礼だけど

やはり可愛い個性の方々かたがた


「ありがとう」その一言が聞きたくて

今日もあなたの介助がしたい


「ありがとう」その一言が言いたくて

今日もあなたの介助がしたい


「また明日あした

明日あすまた会えると思ってた

からのベッドに白い風吹く


利用料支払いに来た息子言う

「未だ母がここに、いるような気がして」


つらくても嫌われていても怒られても

それでもケアをさせて頂く


忘れてもいいよ、心配しないでね

ちゃんと私が覚えているから

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オレンジリング 【第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト 短歌の部】 紺藤 香純 @21109123

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