第215話 【完】
「んー……今日も疲れちゃったなー」
マンション最上階なだけあってかなり大きめの部屋だから、好き勝手にゴロゴロすることもできるのに、何故か俺の近くでゴロゴロとしたがる七海さんによって頭を背中にぶつけられた。
「……はしたないよ」
「家だからいいのー」
すっかりこの部屋に住んでいる七海さんと、その様子に苦笑いを浮かべながらテレビを見ていた佳奈さん。なんというか……高校生になるまでまともに友達もできたことがない人間でも、後からモテることができるんだなって。
社会人になった瞬間にイケメンな人よりも、仕事ができて金がある人間がモテるようになるって言うけど、イケメンは多分なにしてもモテるよな。
「司君って最近ダンジョン行ってる?」
「あんまり行ってないです」
最近はとにかく会社のことを頑張ろうと思っていたから、ダンジョン探索者としてはちょっと休憩気味だな。渋谷ダンジョンの上の方に行ってちょこちょこ動画は撮っていたが。
渋谷ダンジョンを攻略したのも既に二か月ぐらい前のことで、俺がダンジョン配信者になってから1年ちょっとぐらいだ。1年間で大分身の回りのことも変わってしまったが……ダンジョン探索者としては更に成長できたんじゃないかと思っている。
「あ、ここ……いいなぁ」
佳奈さんがテレビに映っている「おすすめ! 紅葉の絶景スポット!」というのを見て呟いていた。
「行きますか?」
「いいの?」
別に俺だって常に頭の中がダンジョンな訳じゃないからな。
佳奈さんとの関係は結局、3人で付き合っていくということに落ち着いた。将来的なあれこれとして、多分俺は七海さんと結婚することになると思うけど、それでも佳奈さんはずっと一緒にいさせて欲しいと言ってくれた。俺と七海さんも当然拒否する気なんてなく、このまま内縁の関係ってことになっていくんだろう。
金の問題はないけど……やっぱり配信を見に来てくれる人とかにはバレないようにした方がいいのかなって思ったので、言いふらさないように気を付けてはいる。
ダンジョン探索者としては、新たにEXとなった佳奈さんを含めて全員を集めて色々と挨拶とかもしたいって探索者協会が言ってたけど、基本的にいつでも配信している佳奈さんと七海さん、探索者組合の仕事が忙しい相沢さん、好き勝手に海外とか行きながらたまに俺の家に遊びに来る神代さん、そもそも連絡を無視することが多い婆ちゃんと俺って感じで、全員で会うのは随分と先になりそうだ。
「そういえば、探索者協会が依頼を受けてくれって相沢さんに泣きついたって話聞いたんだけど……司君的にはどうなの?」
「金さえ払えばなんでもやってくれるでしょ的な思考が気に入らないだけで、探索者に被害が出そうなら俺も手伝うけど……EXが出ないといけないぐらいのことなんてほぼないからなぁ」
Sランク探索者の中には、ダンジョンに潜らずにそういう依頼だけを受けるような奇特な人もいるらしいからな。なんでも、副業探索者だから依頼の時だけしか動かないんだとか。とんでもない社畜だなと俺は思ったけど。
early birdの方は不知火さんの尽力もあって中々順調に成長している感じはある。俺は本当に不知火さんに足を向けて眠れないよ……マジで。
会社がある程度まで成長したら、社長は不知火さんに譲って俺は普通に配信者としてだけ活動するのもありかなと思ったんだけど、不知火さんの負担が増えそうだからやめた。
新しく数人のダンジョン配信者を募集するってことは大々的に発表したけど、決まっているのは来年の4月よりも前にするってことだけで、まだ何人雇うのかも決めてない。今のうちにダンジョン探索者としても実力を磨いておいてくれとだけネットに書いておいたけど、それについてSNSで滅茶苦茶な数のコメントが寄せられていた。なんでも、ネット界隈の中ではearly birdに所属できれば問答無用で下層探索者にまでなれて、配信者として成功しなくてもダンジョン探索者として成功できるからって話らしい。なんて失礼な連中だ。
「そういえば、今日の夕飯を何にするのか決めてなかったな……」
「そうなの? 佳奈さん、なんかある?」
「え? うーん……私が狩ってきた高山ダンジョンの鶏の肉ならあるけど」
よくよく考えなくても、私が『狩ってきた』鶏の肉って、普通は『買ってきた』になるんじゃないかな? そんで高山ダンジョンの鶏って言うと、下層に出てくるあれかな?
「じゃあ親子丼でも簡単に作りますか」
「え!? 司君が作ってくれるの? すごい久しぶりじゃない?」
「そうですか? まぁ……確かに最近は俺が帰ってくるの一番遅かったですからね」
この家に住んでいる人は俺を含めて全員が料理できるので、暇な人がやることになっている。こんな風に夕方前に全員が集まっていると、その時に気分だった人がやることになるのだが……俺がなにかを作ろうと思う前に、大体七海さんと佳奈さんが献立を決めてしまうので、俺は最近食べてばかりだったな。
なんて言うか……こんな幸せになるとは思ってなかった。と言うのも、昔からなんとなく周囲に馴染めなかった陰キャぼっちの俺が、まさか社長になって美人な女性を2人も侍らせているなんて1年前は想像もしていなかった。
「…………今度、街に買い物でも行きますか」
「デート? いいよ」
「ふふ……七海ちゃんは司君のことが本当に好きね」
「えー? 佳奈さんも司君のこと好きでしょ?」
「ま、まぁ……その、25歳だと恥ずかしいわ」
「関係ないよ! 私だって来年には20だから」
「…………そうね、まだ未成年だったわ」
「わー!? 佳奈さんが落ち込んじゃったー!? 司君助けてー!」
具体的な年齢を出した七海さんの方が悪いでしょ。年齢差については佳奈さんが一番気にしている……というか、未成年の俺と付き合っているということ自体が割と刺さるんだから。社会的に見ると佳奈さんは割とドン引きされることをしていると思うよ? まぁ……でも人の色恋にそんなことを言う方がおかしいと思うけどな。
「大丈夫! 司君はそんなことに気にしないから」
「まぁ……しないな」
年齢のことを考えるような性格をしてたら、高卒で社長になんてなってないし。
「俺はちゃんと2人のことを……愛して、ますから」
「照れてる」
「照れてるね」
「照れもするよ」
俺を誰だと思ってるんだ?
元・陰キャコミュ障ぼっちだぞ。
※作者の後書き
斎藤正です。
小説の読了、ありがとうございました。
随分と長いこと書いていた作品ですが、これにて完結としたいと思います。
後日談はちょっと思いつかないので、申し訳ありませんが無しということで。
詳しい後書きに関しては近況ノートにでもまとめておきますので、作品ではなく作者に興味がある人は、そちらをご確認ください。
読者の皆様にはお礼を申し上げます。
ここまでの応援、ありがとうございました。
陰キャコミュ障ぼっちで影の薄い俺、世界最強のダンジョン探索者です ~世間ではダンジョン配信なるものが流行ってるらしいので、そういうのはよくわかりませんが、流行りには乗りたいと思います~ 斎藤 正 @balmung30
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