第34話 刀神リンネ

300年前

和黒


「なんじゃ、お主。また懲りずに妖が攻めてきたのか。ふん、そこになおれ。首を落としてやる」

「お前が無双の男か。一晩で千人を斬ったという。和黒の中においても化け物と呼ばれる男」

「千人?そんなこともあったか。妖も斬った。龍も斬った。神も斬った。次は貴様を斬ろう」

「そうかよ。俺も魔族を支配した。人の国を滅ぼした。龍は乗り物にした。神々は殺した。あとはお前ぐらいだ」

「抜け」

「だがそんなものはくだらなくなった。どうだ?俺と同じイレギュラーよ。一回一緒に地獄に堕ちてやり直さないか?」

「はぁ?」

「簡単な話だ。おそらく俺を殺せるのはこの世界にお前だけ。だが俺を殺せば一緒に地獄へ落ちることになる」

「地獄?それなら地獄の王も斬ってやろう」

「いいね。噂通りのイカレ野郎だ」





2000年前、リンは和黒で生まれた。

そして当たり前のように戦った。

和黒で生まれるとはそういうことだ。

そこに疑問など抱くはずもなく、ただただ戦った。

人も魔物も魔族も龍も、神まで斬った。

神罰を恐れることはない。

斬れてしまうものを崇拝する道理もないからだ。

1000年以上ただ戦い続けたリン。

その前に突如現れたのは魔王だった。

この魔王も突然変異。

長く続く魔王の系列。

その中でギル・ルキフェルという男は異質だった。

千に及ぶ固有魔法を使う化物。

彼を倒せるものはいなかった。

人間界に攻めてみても、魔界の猛者と戦ってみても、ギルをおびやかす者はいなかった。

だからここに来た。

ギルは自分を殺してほしかった。

一緒に地獄へと向かってくれるものを探していたから。

ギルの圧倒的な力は地獄の王であるサタンに授けられたもの。

彼は死ねば地獄に呼び戻される。

そして食われる。

そのために生み出された。

サタンが復活するために生み出された存在。

だから探していた。

サタンを殺せる存在を。

攻め込んだ人間の国にはいなかった。

更に探した。

もっと強い者を。

そして見つけたのだ。

最強の男を。


「俺を斬ってみろよ」

「はぁ?もう斬った」

「マジかよ」


その瞬間二人は地獄へ落ちた。

それからの日々はまさに地獄だった。

しかしリンは200年間かけて本当にサタンを斬った。

その時に二人が結んだ契約によりリンは力を失い、ギルは鳥の姿で使い魔となった。

そして地獄から帰ってきた二人は酒を飲んだ。

地獄にいた時からギルに聞いていた世界を変える最高の飲み物である。

それはリンにとってのターニングポイントとなった。

ああ、世界は酒を中心に回っている。

いや、世界はすでに酒に酔っている。

そう思えるほどに酒にハマった。

そしてリンは地獄の瘴気亭を開くに至ったのだ。





和黒も戦争の準備を始めていた。


「イエヤス様、先兵たちへの指示は?」


兵が跪くのは和黒を初めて統一した最初の王、イエヤスである。


「好きに暴れろと伝えろ」


和黒にとってこの戦いはボーナスステージのようなもの。

和黒を統一しても抑えきれない国民の闘争本能を補填するためのもの。

そしてイエヤスにとっては悲願。

このために和黒を統一したといってもいい。


「リンさんがこの国を捨てて300年。やっと迎えに行く準備が出来ました」


イエヤスは笑みを浮かべる。





「で、お前の弟子ってどういうことなんだよ」

「そのまんまの意味だよ。昔戦場で拾って育てた」

「はぁ、またとんでもないものを育てたな。イエヤスは和黒で第二世代を育てて支配したらしい」

「第二世代?」

「お前みたいなサムライじゃなく銃火器を使い、戦闘機や戦車も使う兵たちだ」

「なるほどな。あいつらしい」

「イエヤスってのはどんな人間なんだ?」

「合理主義の権化だな。個の力を高めることに固執していた和黒のなかで弱者が強者を倒せる方法を模索していた」

「アニキの弟子なのにそんなことを考えてたんすか?アニキとは逆な感じっすね」

「そうでもねぇさ。俺が教えたのは神の斬り方。弱者が強者を殺す方法だ。あいつはそれを歩兵にまで応用できないかと考えただけだからな」

「それで戦闘機や戦車か」

「技じゃなく兵器で達成したんだな。俺とは違うが間違いじゃない。上出来だ」

「でもそれでこの国は滅ぶぞ」

「だから説得しに行こうって言ってるんだよ」

「説得に応じるのかよ、そんな男が」

「説得はまあいいとして、少なくともあいつは俺の言うことを一つ聞かなきゃいけない。俺に〝恩〟があるからな」

「恩?それが何だって言うんだ?」

「和黒の人間にとっては重要なんだよ。恩には報いなきゃいけない」

「でもそれ何百年も前の話だろ?」

「関係ないさ。くだらないものに拘れるから何千年も戦えてたんだ」

「はぁ、じゃあ行くか。和黒」

「頼む」

「自分も行くっすよ!アニキの故郷の味を知っておかないと!」

「ルリも行く。味と聞いては黙っていられない!」

「お前は黙っといてくれないかな」


というわけで地獄の瘴気亭はしばらく休業。

和黒へと向かうことになった。





俺たちはユフィに乗って和黒を目指していた。

はぁ、マジで帰りたくない。

あそこの連中のノリ今考えるときついんだよな。

昔は俺もノリノリで「斬る」とか言ってたけど、マジで黒歴史だ。


「本当に島国があるっす!」

「もう隠してないから簡単に入れそうだな」

「軍艦とか戦闘機とかすごいっすよ!」

「マジだな。てかそろそろユフィじゃ目立つぞ」

「わかってる!持ってきた船に乗り換えるか」


ギルの収納魔法で持ってきた船に乗り換え、隠蔽魔法で姿を消す(今のギルでは龍は大きすぎて隠せないらしい)。

俺たちは気付かれることなく和黒上陸を果たす。

上陸した俺たちはよそ者だとバレないように今度はギルの偽装魔法で和装に変身する。

マジでこの元魔王。どっかの猫型ロボットみたいになってきたな。

そこからしばらく山道を歩き、俺たちは遂に和黒の首都、キョウに辿り着く。


「なんかアメリアとは全然違う国っすね!」


ユフィがそういうのも無理はない。

着物姿で腰に刀を差した人間が歩きまわり、建物のつくりも独特だ。


「まずはご飯。ご飯を食べればその土地の全てがわかる」

「それですべてを分かられてたまるか」

「でもお金とか違うんじゃないですか?自分たち和黒のお金持ってないっすよ」

「問題ない。アメリアの通貨を使え。俺が偽装魔法をかける」

「そんな簡単に行くんっすか?アメリアだったらそんなのすぐばれちゃうっすよ!」

「大陸の人間は魔力が使えるからな。でも和黒の人間は魔力を使えない。だからその辺はザルだ」


そう。和黒の人間が使うのは六道の力。

そして見た感じ今は科学も発達してるみたいだな。

だがその科学も攻撃に特化したものらしい。

いつ見ても脳筋の集まりだ。

だから特殊な魔法による搦め手なんかには弱い。

全部力押しで何とかしてきた国だからな。

この国でギルの魔法を使えば金持ちになれるんじゃ?

いや、ダメだ。

ここにいたらどっちみち戦争に駆り出される。

金よりも力が重要になるイカレた国だからな。

金を稼いでも力で無理やり奪われればそれまで。

弱い方が悪いってことになる。


「リン!ルリはあの店がいいと思う!絶対あそこにするべき!」

「ウナギ屋じゃねーか」

「あそこからいい匂いがする!食の新たな1ページが開く予感ビンビン!」

「まあ俺も久しぶりだし行ってみるか」


ウナギはヘビみたいな魚だがアメリアでは獲れない。

和黒では甘辛いタレを塗って焼き、米にのせて食う。


「美味!味のアレ!宝石的なやつ!」

「お前食べるの好きだけど、食レポはカスいよな」

「アニキ!ウナギ美味しいっす!」

「うん、うめぇな」

「でもアメリアでは獲れないからな」

「定期的にウナギを大量に仕入れて店で出せば大勝利!ユフィ神ならこの味の再現も可能!」

「確かにな。今まで和黒に来るという発想がなかったけど、こうしてこっそりやってくればウナギも仕入れられるな」

「味付けは再現可能っすよ!上にかかってる香辛料だけはここで仕入れたいっすね!」

「山椒か。それも買っていこう。まさか和黒にビジネスチャンスがあったとは」

「ビジネスチャンスもいいがまずは戦争を止めることが先決だろう」

「それもそうだな。じゃあいよいよイエヤスに会いに行くとしますか」


イエヤスがいるのは間違いなくあの城だな。

キョウに昔はなかったドでかい城が立っていた。

和黒を統一するということはこのキョウを支配するということだ。

要するにこの場所の取り合いなんだ。

キョウを獲ったのなら和黒で一番デカイ城を建てるはずだ。


「そんなことよりもおかわり。ルリの戦場はここ!」

「はいはい」


結局ルリはうな重を10杯平らげた。

まあ俺たちも2杯ずつ食べたが。

だが少し目立ちすぎたらしい。


「おい、お前ら。見ない顔だな。どこから来た?」


いつの間にか3人の男たちに囲まれていた。


「はぁ」


確かに見た目を変えても浮くわな。


「どうする?リン」

「もういい。ここまで来れたんだから逆に騒ぎでも起こしてみよう。俺の名を聞いたらイエヤスの方から会いに来るかもしれん」

「おい!なんとか言え!」


3人とも大柄な男だが、刀が安っぽい。

サムライではない。

ただのゴロツキだな。


「うるさいな。大声を出すだけか?腰の刀は飾りかよ」

「斬る!お前たちは不審者だ!俺が判断した!叩き斬ってやる!」

「表に出ろ。店に迷惑がかかる」


俺たちは店を出て向かい合う。


「泣いて謝るなら今のうちだぜ?はははは!!!」


ザコの定型文をスラスラと吐きながら笑う3人。

まあ一見、女に幼女にカラスと俺。

ザコに見えるのはこっちの方か。

でもメタ的に言えば、、、。

まあいい。殴ろう。


「ほら、抜けよ。待っててやるから」

「お前ごときに刀を抜く必要なんてね―よ!」

「はぁ、じゃあそれでもいいわ」


ドン!ドン!ドン!


俺は一瞬で3人を殴り飛ばす。

かなり手加減したので死んではいないが、しばらく起き上がることはできないだろう。

ちょうどよくギャラリーもいたので名乗りを上げる。


「久しぶりだな、和黒。俺の顔ももう忘れたか?この刀神リンネを!」


300年ぶりだがこの国ならおれの事を覚えている奴も多いはずだ。


「り、リンネ様?嘘だろ」

「俺はリンネ様を間近で見たことがある。同じお顔だ」

「俺は昔リンネ様の隊で一度戦ったことがある!間違いなくリンネ様だ!」

「刀神様だ!刀神様が和黒にお戻りになられたぞ!」


あ、本当に覚えててくれたんだ。

ありがと。

実はちょっと自信なかったんだ。

ここの国民たち不老で助かったわ。

マジで。


「アニキって有名人なんすか?」

「俺が会ったときは和黒最強のサムライって呼ばれてたからな。何を隠そう神を斬った張本人だ」

「めっちゃ罰当たりじゃないっすか。だからウチの店呪われてるのでは?」

「ということは色々なお店に顔がきくということ。これから忙しくなりそう」


なんか失礼なこととめんどくさそうなことを言われている気がする。

まあそこは今は置いておいてさっさとイエヤスに会うのが先決だな。


「我が弟子イエヤスに伝えよ!刀神リンネはこの地でお前を待つとな!」

「「「「おおおおお!!!!」」」


なんか思ったより盛り上がってる。

今となってはイエヤスはこの国の王だし、弟子とか言ったら非難されるかもと思ったんだけど。

てか俺の評価が思ったよりも高いんだけど。

300年前も有名だったとは思うけど、ここまで称えられることはなかったんだけど。


「天下を獲ってから私がリンネさんの偉業を大々的に広めましたからね。私がリンネさんの弟子だったことも皆知っていますよ」

「イ、イエヤス?」


振り返るとイエヤスがいた。

もういた。

早くない?

ここで待つとかかっこよく言っちゃったんだけど。


「か、変わらないな、イエヤス」

「リンネさんこそ」


一応カッコつけてみた。

てかマジで何でもういるの?


「よく俺が来たことが分かったな」

「私がリンネさんの気配を見逃すわけないでしょう」

「それもそうか」

「はい」


一応余裕の笑みを浮かべてみたけど、なんでわかるの?

なんか怖いんだけど。


「今日は話があって来た」

「アメリアへの侵攻を辞めろということですか?」


だから何でわかるんだよ。


「俺には〝恩〟があるだろ?」

「そうですね。これが恩返しになるのなら断れません。」

「悪いな。俺にはアメリアでやることがあるんだ」


律義な国でよかった。

今の俺なら恩とかあっても無視するけど。

良くも悪くも真っすぐな連中だ。

そしてそこがどうしようもなくつまらない。


「ただお願いがあります」

「なんだ?」

「まずはそこのカラスを殺させてください。それはリンネさんを和黒から連れ去った忌々しい存在、魔王ですよね」


イエヤスが凄い目でギルを睨みつけてる。

今のギルだと瞬殺だな。

ギルもヤバいヤバいって感じのアイコンタクトをしてくる。


「それは無理だ。今の俺は契約の影響でギルと一蓮托生だ。ギルが死ねば俺も死ぬ」

「な、なんと!ちっ!そんなおいたわしい状況になっているのですね。では今は殺さすことができないのですね。今は」

「助かる」


あ、珍しくギルが心から安心した顔をしてる。


「では次にリンネさんにこの国の王になっていただきたい」


イエヤスがいきなりとんでもないことを言い出す。


「王?この国を統一したのはお前だろ」


マジ何言ってんの?こいつ。

王!?そんなのマジ無理!めんどくさい!

俺は酒場一つ回すので限界なのに!

国なんか無理。

酒飲んでダラダラする暇が無くなる。


「和黒は完全なる弱肉強食。最も強いものが治めるのが決まりです。リンネ様は私より強い。ならばあなたに王位をゆずるのが道理でしょう」


そういえば思い出してきたけど、こいつめちゃめちゃ俺の事慕ってるんだった。

え、どうしよう。

王とかマジ勘弁なんですけど。


「なら強い者の言葉が絶対ってこともわかってるな」

「はい、もちろんです」

「言ったはずだな。俺にはアメリアでやるべきことがあると。王はお前に任せる」

「そう、ですか、、、」


あ、無理やり感あったけど納得してくれたんだ。よかったよかった。


「では私と戦ってください」


ん?なんかこいつまたわけわからんこと言いだしたな。


「勝ったほうが王になるのか?それとも言うことを聞くのか?どちらにせよ弱肉強食の掟からは矛盾するな」

「いえ、矛盾しませんよ。強者が王になる。ですがそれよりも強者の意見が優先される。私が勝ったら王になってください。私はあなたのために国を獲ったのですから」


頭こんがらがって来た。強者が強者で強者のなんだって?


「わかった。ではお前がどれだけ成長したか見てやる」

「ありがとうございます。そこの!闘技場の準備を!」

「はい!」


え、マジ?

部下っぽいのがいい返事して駆けて行ったんだけど。

今からやるの?

てか勝てばいいの?負ければいいの?

その辺からもうわかんなくなってんだけど。

え、マジで勝てばいいの?負ければいいの?

ちょっと待って!こんがらがって来た!

誰か教えて!


「では参りましょう」

「は、はい」


というわけで俺はイエヤスと決闘をすることになった。

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獄々飲みなよ!~地獄の瘴気亭~ 目目ミミ 手手 @mememimitete

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