第33話 とんでもないのが攻めてくる!ヤーヤーヤー!
「リン!」
「ん?どうした?」
「エリーが近々遊びに来る!エリーの好物ゴールデンオクトパスを獲りに行く!」
「、、、じゃあ行くか」
「ん!ゴールデンオクトパスを獲りまくって、、、あ!」
「どうした?」
「そういえばヤバいことがあった!」
「お前毎回ヤバいエピソード持ってくるな。感心するわ。で、何があった?」
「バンされた!」
「バン?」
「リンルリ地獄チャンネルが消された」
「はぁ!?なんでだよ!」
「危険行為を行っているとメッセージが来た」
「、、、まあそりゃそうか」
「何を落ち着いてる!リン!ルリは運営と全面戦争の構え!」
「さっきまで忘れてたじゃねーか」
「裁判も辞さない!」
「やめてそんな虚しい裁判」
「早く最強の弁護士軍団を雇う!」
「そんな金のかかりそうなもの雇うか!バカ!」
「むぐぐぐ!」
「まだ動画一本しかあげてないんだから新しくチャンネル作り直せばいいだろ」
「はっ!逆転の発想!」
「思いっきり真っすぐな発想だけどな。そんでもって危ないことするんじゃなくて見やすいチャンネルにすればいいんじゃねーか?」
「例えば?」
「俺もチューブトップ動画を見て勉強した。チューブトップで人気のあるジャンルの一つがグルメ。そしてウチにはユフィとお前がいる!」
「目から鱗」
「いやお前大食いチャンネルやってるんじゃねーのかよ」
「失念してた」
「まずユフィが料理を作る。それも大盛り料理だ。それをお前が気持ちよく食い切る」
「こ、これが天才というものか!」
「チャンネル名はこうだ!〝地獄の瘴気亭の大盛りグルメチャンネル〟」
俺たちのトップチューブトッパーへの道、第2章が始まった。
*
「つーわけでユフィ。料理作れ。大盛りの」
「いきなりっすね」
「チューブトップ動画なんて常にいきなりだ。あと動画映えする凝った料理を作れ」
「傍若無人じゃないっすか」
とかいいながらもユフィは作ってくれた。
凝った料理を。
ビーフストロガノフを作った。
そして大量のビーフストロガノフをルリは嬉しそうに平らげた。
「美味!満腹!至高!この世の全てに感謝!」
「喜んでくれてるならいいけど目的を忘れるなよ」
「わかってる!動画を編集してアップ!絶対にバズってみせる!」
そして本当にバズった。
それからこのノリで色んな動画を上げていった。
基本的にはユフィが料理を作ってルリが食う。
ただそれだけ。
なのに再生回数は伸びていく。
わかってる。
俺もそうなると思ったからやらせたんだ。
成功したんだ。
でもなんでだろう。
何とも言えない気持ちが湧いて来る。
俺があんなに辛い思いをしてゴールデンオクトパスを獲った動画が排除されて、ただ料理作ってそれを食うだけの動画が受け入れられている。
こんな理不尽なことがあるだろうか。
ふざけんなよ、チューブトップ。
俺はチューブトップのサイトレビューにマイナスをつけた。
*
「ニュー首相!」
「ちょっとニュー首相って呼ぶのやめて。せめて新首相にして」
「宣戦布告です!ニュー首相!」
「やめてくれないんだ。で、宣戦布告?はいはい。ってはぁーーー!!??どこの国から!?」
「和黒?です」
「どこそれ」
アメリア国首相執務室。
新しく首相の職に就いた男、テンゼン。頼りなさそうなオッサンだがどこかつかみどころがない。彼の秘書を務めるのはナツメ。美人のできる系女子だ。趣味はテンゼンを小バカにすること。
「なんか突然の南の海に現れた島国らしいです。マグレ首相」
「、、、え?国って突然現れるもんだっけ?あとマグレ首相はやめて。これでも頑張ったんだから」
「それが現れたんですよ、マグレ」
「せめて首相はつけて。はぁ、全く僕が首相になった途端に不思議現象怒らないで欲しいんだけど」
「開戦日時は1か月後のようです」
「めちゃめちゃ余裕をもって布告してくれるじゃん。宣戦布告なんて一秒前でもいいのに。てっきりもう始まってるのかと思っちゃったよ」
「それだけ戦力に自信があるのでは?」
「はぁ、そうとも捉えられるか。で、その国の情報は?」
「今諜報部隊を送り込んでいます。彼らからの連絡待ちですね」
「はぁ、戦争回避の交渉はできないの?」
「無理そうですね。戦争は決定事項で1か月の間に周辺の国と手を組むでもなんでもしてみろって感じでした。しかもアメリアに宣戦布告した理由が一番近くにあるからという理由でしたし」
「まるで戦争を楽しみにしてるようだね。確かにそれは交渉の意味ないか。価値観が違いすぎる」
「周辺諸国に協力を求めますか?」
「南の海から攻めてくる相手に対して北、東、西の隣国に助けを求める?そんなことして断られたら最悪だ。連中に国境線が手薄になることを報せるだけになる」
「それもそうですね。ではどうしますか?」
「マジでどうしよっかなぁ」
「マグレで首相になれた運をここでも発揮してくださいよ」
「戦うにしても相手の戦力を知らないことにはな。諜報部隊の報告を待とう。それでできれば物凄い小国であることを祈ろう」
「結局運頼みなんですね」
だがマグレ首相の運はそんなに強くなかった。
諜報部隊から届いた報告は絶望的なものだった。
『人口は少ないが、戦闘機や軍艦などの戦争兵器は充実。国民全員がAランク冒険者級の実力者』
*
「アニキ!お魚の仕入れが出来なくなってるっすー!」
「ああ、ニュース見たよ」
「なんか突然海の向こうから攻めてきたらしいっす!」
ユフィが言うように、アメリア王国、いやユーレスト大陸は未曽有の危機に瀕していた。
突然の侵攻。
ありもしない国からの侵攻だ。
攻めてきたのは和黒。
誰も聞いたことのない国だ。
俺も出来るならもう聞きたくなかった国。
「はぁ、めんどくさいのが来やがった」
「アニキはその国知ってるんすか?」
「あそこの連中はヤバい。俺とかギルみたいのがゴロゴロしてる」
「はぁ!?アニキたちみたいのがゴロゴロしてたらそれこそ世界の破滅っすよ」
「と言うかリンも和黒出身だぞ?」
俺が敢えて言わなかったことをギルがあっさり暴露する。
「そうなんすか!?」
「、、、まあ」
「和黒は外界との接触を完全に拒否した国だ。島自体を強力な結界で閉ざしている。いやあれは結界でもないか。とにかく龍であるお前さえも知らないのはそういうわけだ」
「ちなみにどんな国なんですか?」
「一言で言えばイカレてる」
「え?」
ギルが和黒についての説明を続けた。
正直俺はあんまり思い出したくない。
「国内で何千年も戦争に明け暮れている国だ。国民は皆戦争で死ぬために生まれる。まあ生き物は皆死ぬために生まれるわけだが、あいつらは少し違う。死を求めてる。誇り高い死に方を。だから死を恐れない。心の底から。だから強い。遥か昔に大陸の国が侵略しようとした。だが一切歯が立たず全滅した。遥か昔魔族の軍も侵略しようとした。だが一切歯が立たず全滅した。龍たちも大軍で攻めた。だが皆殺しにされた。更に遥か昔神々が消し去ろうとした。だがそれさえも退けた。そして和黒は他所からのちょっかいが自国内の戦争の邪魔になると外界との接触を断ち、自国内の戦争に没頭していった」
「神々にも勝ってるんすか?」
「そうだ。そして神々との戦いさえもちょっかいと言ってしまえるほど、自国内での戦いが人知を超えていた」
「なんなんすか、、、その国」
「だから言ったろ。イカレてるって」
「で、アニキはその和黒出身なんすか?」
「おい!そんなゲテモノを見るような目をすんな!」
「こいつはそのイカレ国で最もイカれた男だった」
「まあ今もイカれてますもんね」
「これでもよくなったほうだ」
「ま、ま、ま、マジっすか!」
「お前ら二人あとでぶん殴るからな」
「でもよくそんな長く戦ってられるっすね」
「連中は死なないからな」
「え?」
「いや、死なないというか。不老だ。寿命で死ぬことがない。だから死に憧れる」
「でもリンのアニキは不老だけじゃなくて死なないっすよね」
「それは昔俺たちが地獄に落とされたとき、死んでるのか生きてるのか曖昧になって〝餓鬼道〟がバグった結果だ。だから死んでも回復させようとする」
「ああ、あれってバグだったんすね」
「バグだろ、あんなもん」
「俺はギルに殺し合い以外にも面白いことがあることを教えられて一緒に地獄に堕ちた。200年間もな」
「あ、だからルリちゃんにめちゃめちゃ共感してたんっすね」
なんかユフィが生暖かい目で俺を見ている。
「で、その和黒が今大陸に攻め込んできている」
「ということは和黒の千年を超えるバカ騒ぎが終わったってことか」
俺には一番それが信じられなかった。
「イエヤスという男が和黒を統一したらしい」
「マジかよ。統一できたのか、あの国」
そしてイエヤスかよ。
「そして更なる戦いを求めてユーレスト大陸に攻めてきたらしい」
「はぁ、それでも戦うことを辞められないか」
まあそういう国だ。
戦うことにしか生きる意味を見いだせない連中。
「連中はこの大陸を制覇するつもりだ。ここまでやってくる。戦わなきゃいけなくなるぞ、この店を守りたいならな。そしてそれは魔王軍と戦うよりもしんどいだろうな」
まあ正直俺は魔王とは戦ったが、魔王軍とは戦ってないからわからないけど、確かに和黒と戦うのは考えただけで胃が痛くなる。
というか絶対戦いたくない。
「しょうがない。説得に行こう」
「説得?」
「和黒の王になったのはイエヤスなんだろ?」
「知り合いなのか?」
「俺の弟子だ」
「はぁ!?」
戦争なんてナンセンス。
これからは話し合いの時代でしょ。
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