第32話 ハチミツってしょっぱい系料理にも合う

兄妹?家族?いや仲間?同僚ですかね?

もしくはそのどれでもないかもしれない。

特に思い入れもなく、死んでもすぐに代わりのいる道具。

もちろん私も含めてです。

だから次々に彼らが殺されていったとき、自分が悲しみと怒りを覚えていることに驚きました。

そしてもうこれ以上失いたくないと思ってしまった。

私がここでやるべきことは死ぬまで敵にダメージを与えて、次の人格へつなぐこと。

そうやって駒である我々は残り二人になるまでに敵を殺せれば勝ちなのです。

アルファとオメガさえ生き残れば何度でもやり直せるのですから。

そのはずだったのに。

それこそがこの戦いにおける私の正しい選択だったのに。

私がとった選択肢は全く違うものでした


「時間犠牲魔法〝私たちだけの時間〟」


どうか生き残ってください。

もう誰かが死ぬのは見たくない。

どうか私で最後に。





気付くとどこにもいない男の姿はなかった。

どうやらガンマは戦うふりをして逃げたらしい。

いや、逃がしたのか。

もう空間魔法持ちはいない。

逃がすにしても俺が感知できないところまで行くには結構な時間を止める必要があったはず。

魔力を使い切った状態でさらに強力な時間魔法を使ったってことだ。

てことは恐らく、、、いや、間違いなく命を犠牲にした魔法だな。

そうか、守りたいものがあったのか。

俺の誤算だな。


「ごはぁ!はぁはぁはぁ」


どうやら時間切れみたいだ。

ギルに返してもらった力が戻っていった。

疲労感が半端ない。

このまま倒れたい。

いや、せめて一杯飲んでから倒れたい。


「ほれ、お疲れー」


ギルがエールをもってやって来てくれた。

普通ならエール買いに行ってないでもっと早く来いというべき場面だろう。

だが俺の口から出た言葉は違った。


「マジありがとう!」


ここ数年でギルが行った行動の中でこれが最も優秀だった。


「ぷはぁ~!うまっ!」


やっぱ戦闘明けのエールはたまんねーな。


「おいおい、王も首相も死んでるじゃねーか」


ギルがあたりを見渡して言う。


「おい、ギル。これってまだ挽回のチャンスあるか?」

「無理だろ。王と首相死んでるんだから祭りは中止だ。てかこれで祭りが続いたら国民の頭イカレてるだろ」

「はぁ、やっぱりそうか。せっかく売り上げ一位だったのに。てか中止なら今の段階での順位で表彰してくれねーかな」

「王と首相死んでるのに表彰式やる国も頭イカレてるだろ」

「はぁ、どこにもいない男め!なんてことしてくれたんだ!」

「そのどこにもいない男は、、、殺せなかったか」

「逃げられた。俺のミスだ」

「まあ王都は救ったんだからいいんじゃねーのか?」

「でもあれだけ殺す宣言しといて逃がしたのはダサくない?」

「それは確かにダサい」

「一人の身体にいくつも人格があるやつで、そのうちの半分ぐらいは殺したんだけど、それでなんとかなんないかな」

「こういうのって言い訳すればするほどダサくなるぞ」

「だよね~」


ギルの話ではアーサーとユフィ、あとは高ランクの冒険者たちのお陰で王都に入り込んだ魔物たちは一掃されたらしい。

ちなみにレヴィアタンが国民全員の頭のなかをいじれば祭りを再開できると言っていたけど、そんなマッドな祭りはお断りだ。

というわけで建国祭は二日目で終わることとなった。





『まさかガンマが我々を命がけで助けてくれるとは』

『、、、オメガ。人格を生み出せ』

『、、、我に命令するのか?アルファ』

『黙れ、亡霊め。この身体は私のためにある』

『まあよい。この世界を統一するまでは協力してやる』

『お前こそ上から目線がムカつくな。世界を統一したら一番最初にお前を殺してやろう』

『やってみろ。我の恩恵で生きながらえているだけのくせに』


オメガがアルファに強く出られるのは自分が人格を作り出さないと新しい固有魔法を奪えないと思っているからだ。

しかし本当は違う。

一つの身体にいくつもの人格を共生させていたことによって、子孫の中にも自分を住まわせることができるようになったオメガと同じことがアルファの中にも起こっていたのだ。

人格は違えど一つの身体に複数の固有魔法を持っていたことでアルファの固有魔法も進化した。

実はすでにアルファは自分の中に複数の固有魔法を持っている。

若干劣化はしているものの今まで奪った魔法は蓄積されているのだ。

つまり消えたと思われた空間魔法、強化魔法、吸収魔法、時間魔法。今も生きている人格の発掘魔法、記憶魔法、解呪魔法も使える。

唯一使えないのはオメガの創精魔法だがこれも時間の問題だと確信していた。

そう、アルファは待っているのだ。

邪魔な同居人たちを排除して自分だけで世界を征服できる時を。





「はぁ、祭りが続いていれば今頃ウジ虫のように客が溢れてるはずだったのにな~」

「アニキ、言い方が最悪っす」

「うちの店にウジ虫共が湧く日はいつなんだよ!」

「客のことをウジ虫と呼んでいるうちは湧きませんよ」


王都はお通夜ムードだ。

というか普通にお通夜だった。

王と首相の国葬は3日間にわたって行われた。

議会は新しい首相を決めるためにてんやわんや、王室は次期王を王の弟であったベルンにするか、王の唯一の子であるエリザベス王女にするかで揉めていた。


「エリーちゃんも大変だな」

「そうですね。ルリちゃんもずっと元気がないっす」

「元気ないの?あれ」


ルリはいつも通り店の隅で山のような料理をノンストップで食っていた。


「最近はサッパリ系の料理しか食べないんっすよ」

「だからそれって元気ないの?」

「いつもはこってり系のルリちゃんっすよ」

「それは今までが元気すぎだったんじゃね?」

「心配っす」


でもサッパリ系って言ってもサラダとか食ってるわけじゃないぜ?

冷やし中華とかバンバンジー食ってるよ。

ただ暑いだけじゃねーの?


「まあいいや。そういえばユフィってなんか人形とか持ってない?」

「人形っすか?あ、この前のライブで買ったプリンちゃんフィギュアがあるっすよ」

「よりによってプリンかよ。まあなんでもいいか。その人形そこにおいて」

「え?わかったっす」


プリンのフィギュアをユフィが持ってくる。

SDタイプのフィギュアかよ。

よく買ったな、こんなもん。


「これ使うぞ」

「使うってなんすか?」

「餓鬼道」


俺はプリンフィギュアにこの前奪った魂を宿す。


「何したんすか!?光の球がプリンちゃんフィギュアに入っていったんっすけど!」

「まあ見てろって」


・・・


「ぷはぁ!え!なにこれ!?私死んだんじゃなかったっけ!?てか私小さくない!?SDじゃない!?」

「よう、イータ。お前の魂が少し残ってたから人形に入れてみた」

「入れてみたって!あ、リンじゃん!、、、てことは私死ななかったんだ。他のみんなは?」

「アルファ、ベータ、イプシロン、シータ、オメガには逃げられた。他は殺した」

「そっか、、、でもなんで私だけ生かしたの!?」

「また店に来たいって言ってたからな。客は殺さねーよ」

「あはは、そっかそっか、また来れたんだ」


イータは少し寂しそうに呟いた。


「糸のこマンの最新刊もあるぞ」

「うん、、、ぐす、、、読む読む」


仲間たちを殺され、その仇に生かされた。

心境は複雑だろう。

複雑どころじゃ済まないか。

でもなんかこいつなら大丈夫そうな気がしたんだよな。


「あひゃひゃひゃ!深爪の悪魔ヤバ!ユフィちゃん!お菓子おかわり」


あ、ここまで大丈夫だとはさすがに思ってなかったわ。


「なあイータ。仲間たち死んじゃってるけど大丈夫なの?」

「過去を振り返っても仕方ないって!読むなら最新刊っしょ!ユフィちゃん!お酒もプリーズ!」

「まあいいならいいんだけど」


、、、イータはまあこれでいいか。

まあしばらくは王都中喪に服してるから客は来ないし、人気店にはなれなかったけど祭りの一日目にそこそこ稼げたし、、、うん、寝よ。

俺は部屋に戻って寝ることにした。


・・・


「リン!大変なことになった!」


寝ようとしていたらルリが部屋に入って来た。


「、、、わかってるよ。王が死んだからな。王女ちゃんも悲しんでいるんだろ?」

「?王が死んだのか?」

「え?」

「え?」

「知らなかったのか?」

「ん」

「でも落ち込んでサッパリ系ばっか食ってたんじゃないの?」

「サッパリ系?それは最近暑かったから」


やっぱ暑かったからなんかい!


「じゃあヤバいことってなんだよ」

「エリーの父親が死んだのならそんなこと言ってられない!エリーを慰めに行かないと!リン!エリーの元へと連れてって!」

「、、、わかったよ」

「感謝する!」

「で、ちなみにヤバいことって?」

「ハチミツってしょっぱい系料理にも合うって発見」

「あ、そう」


俺たちはギルに頼んで隠蔽魔法をかけてもらい王城へ忍び込んだ。


「ぐす!お父様ぁぁ!!!」


王女の部屋に入るとエリザベスは声を枯らして泣いていた。

国葬の様子をテレビで見た時は立派に役目を果たしていたのに。

だがそりゃそうか。

この子は必死に王女としてすべきことをしていたのだ。

身分なんて飾りだ。

でもこの子はその飾りの重大さを知っている。

だからその飾りに見合う自分でいるために必死に戦っていたのだ。

英雄なんて言葉はこういう人間にこそふさわしい。

ただの人殺しの俺には全くふさわしくない。


「エリー」


ギルはルリの隠蔽魔法を解いた。


「え!?ルリちゃん?」

「ん、ルリ。エリーの親友のルリ」

「ルリちゃーん!お父様が!お父様がぁぁ!!!」


エリザベスはルリに抱きついて泣きじゃくる。


「ん。ルリもダディが死んだときは悲しかった。かなり前だけど」

「ルリちゃんのお父様も?」

「ん。マミーも死んでずっと一人だった」

「そんな!」


エリザベスはルリが同い年ぐらいだと思ってるからすごいかわいそうな子だと思ってるんだろうな。

でもこいつの両親死んだのってたぶん数千年前なんだよな。


「一人ぼっちは寂しい。虚しい。でもルリは一つの光を見つけた」

「ひ、光!?」

「食」

「食!?」

「食べたいというその気持ちだけでルリは頑張れた」

「食べたい、、、」

「だからエリーも見つける!千年単位で頑張れる、何かを!」


無理だろ。

二桁ぐらい多いわ。


「いつまでも悲しんではいけないということですわね」


本当にいい子だな、王女ちゃん。

ルリの言葉にそんな深い意味ないし。

なんだったらもうしばらく悲しんでていいよ。

もうすでに十分頑張ってるから。


「ざっくり言えばそういうこと」


嘘つけ。


「でもルリはエリーが大好き。ルリはエリーとずっと一緒にいる!エリーが死んで生まれ変わっても、100回ぐらい生まれ変わってもずっとずっと一緒にいる!」


それは本当だな。


「だから、、、また一緒にご飯食べよ」

「うん、うん!ルリちゃん!ずっとお友達でいてください!」

「ん、ズッ友」


俺とギルは帰ることにした。

女子会を邪魔するのは悪いだろう。

翌朝、ルリを迎えに行った。

二人は互いを宝物のように抱き締めて寝ていた。

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