第31話 「化物め」「いいな。今度の方が心がこもってるぜ」

「きゃーーーー!!!」

「魔物たちが王都にーーーー!?」

「助けてーーーー!!!」


建国祭二日目の昼過ぎ、突如王都中に魔物が現れた。

さっきまでの楽しい祭りが一気に地獄絵図に早変わりだ。

逃げ惑う市民たち。

みんなが混乱している。

だがそんな中冷静に現状を分析しているのが二人。


「隠蔽じゃないな。潜んでいたんじゃなく何もないところから突然現れた」

「間違いなく空間魔法だな」


もちろん俺とギルだ。


「てことは〝どこにもいない男〟か。そういえばお前狙われてるんだっけ?」

「らしいけど、俺一人殺すためなら逆効果だろ」

「そうだな。これの狙いは混乱、分散、人質。守りを固める相手の崩し方だ。ただのロクデナシ相手にやることじゃない」

「狙いはなんだ?」

「そりゃ国だろ」

「国?王にでもなりたいのか?」

「さあな。だが王は殺したいんだと思うぜ」

「どういうことだ?」

「今ちょうど王と首相が中央広場のメインステージで式典中だ。その二人を殺すなら有効な手だ」

「なるほどな。じゃあメインステージに向かうか。王も首相もどうでもいいが、祭りを邪魔されると困る」

「お前一回負けてるんだぜ?大丈夫なのか?」

「今回はお前がいるからな。少しの間、人間道と地獄道を返せ」

「10分ってところだぞ?俺だって死にたくないからな」

「十分だね」

「ほらよ、受け取れ」


ギルから10分間だけ力が返還される。

この10分間だけ、俺は六道のうちの修羅道、餓鬼道、人間道、地獄道を使えるようになった。


「おい!リン!この魔物たちは何なんだ!?」


アーサーか。ちょうどいい。


「元凶は俺が殺す。お前は魔物たちからウチの店員と客を守ってくれ!市民たちもな!」

「元凶がわかってるなら僕もそっちに行ったほうがいいんじゃないのか?」

「元凶だからって殺すのは勇者に似合わねーよ。勇者は人を守れ」

「大丈夫なんだな?」

「もちろんだ」

「わかった。なら任せてもらおう!」

「ちなみにパーティメンバーは?」

「今日は建国祭だから休みだ」

「なら安心だ。行ってくる」


魔物たちはアーサーに任せておけば大丈夫。

少なくともルリ、リエ、タカコ、プリンあたりは守ってくれるだろう。

ユフィもいるしな。

あとは俺たちが〝どこにもいない男〟を殺せば終わりだ。

俺とギルは一直線でメインステージへと向かう。





「ちっ!ステージの周りも魔物たちで溢れかえってて王たちの様子は見えないな」

「魔物だけじゃなくて観客たちも厄介だ。ギルたのむ!」

「魔物も人間も一気に拘束する」


ギルは空に飛び上がって複数の固有魔法を展開しだす。


「特定魔法、弱体魔法、封緘魔法、加速魔法、停止魔法」


ステージ周りにいる全てにタグ付けをし、弱体化させ、魔力を封じ、発動速度を加速した停止魔法で全員の動きを止めた。

その隙にリンはステージの上へと駆けあがる。


「よう、イケメンプロデューサー」

「お久しぶりですね。元英雄さん」

「はぁ、そこに転がってる死体は王と首相か?」

「そうですね。一足遅かったようで」


すでに王と首相はどこにもいない男によって手にかけられた後だった。


「やっぱりか。顔知らないけど着てる服がそれっぽいもんな。ウチの常連の王女様にトラウマ植え付けるんじゃねーよ」

「王の顔も知らないとは。ニュースぐらい見た方がいいですよ?」

「明日は見てやるよ。俺とお前が出るからな」

「あなたの死亡ニュースですか?」

「テロリストを殺したお手柄店長だよ」


王と首相が死んだところでリンにとってはどうでもいいことだったが、王女が悲しんで、それでルリも悲しむだろうことだけは気になった。

それは、、、なんとなく許せなかった。


「あなたに私は殺せませんよ。前と同じです」

「おお!今回は自信ありげじゃねーか。でもまあお前は死ぬよ」


リンは穏やかな顔でそう言い切った。


「そうですか。やっぱりあなたが邪魔をしますか」


どこにもいない男は剣を構える。


「いや邪魔できてないんだけどな。王と首相殺されちゃってるから」


リンもまた戦闘態勢をとる。


「これは手始めにすぎませんよ。今日アメリア王国は滅びるのです」

「それは困るな。祭りも途中だし」

「祭り?そんなものに何の価値があるんですか?」

「ウチの売り上げに関係あるんだよ」

「ふっ!」


リンの言葉を鼻で笑った次の瞬間どこにもいない男はリンの背後に瞬間移動し、斬りかかる。

だがリンは振り返ることなくその剣を躱す。


「このタイミングで避けますか。いや私が現れる前にはもうすでに避けだしていたような」

「今日は修羅道だけじゃなく人間道も使ってるからな」

「人間道?」


人間道は真実や本質を見る力だ。

相手のステータスだけでなく研ぎ澄ませば未来視さえ可能となる。

修羅道の見(ケン)は敵の予備動作などから敵の動きを予測するものだが、人間道は違う。

予測ではない。

確定した未来を見るのだ。

そしてリンの目にはもうどこにもいない男の本質も見えていた。



アルファ 強奪魔法 固有魔法を奪う アメリア王国第一王子

ベータ 発掘魔法 どんな固有魔法を誰が持っていてどこにいるのかを感知できる

ガンマ 時間魔法 時間を操る

デルタ 空間魔法 空間を操る

イプシロン 記憶魔法 洗脳、記憶の改竄 

ジータ 強化魔法 様々なものの強化

イータ 吸収魔法 寿命、生気などを吸収する

シータ 解呪魔法 毒や呪いを消す

オメガ 創精魔法 人格を作り出す アメリア王国初代国王



「一つの身体に何人もの人間が同居してるのか。どういう生き物だよ、お前」

「なぜそれを!」

「人格を生み出す魔法。そして固有魔法を奪う魔法。この二つが組み合わさることでいくつもの人格と固有魔法を手に入れてるってことか?発掘魔法、時間魔法、空間魔法、記憶魔法、強化魔法、吸収魔法、解呪魔法か。だが一人格が使える固有魔法は1つまでらしいな。違う固有魔法を使うときには人格を入れ替える必要がある」

「そこまでわかるんですか」

「わかるぜ?空間魔法使いのデルタ君」

「ちっ!」


デルタは再び姿を消すが、リンには次に現れる場所がもう分かっている。


「ごはぁ!」


カウンターでデルタは殴り飛ばされる。


「はぁはぁ、これはどうですか?」


空間魔法で現れた無数の剣がリンを串刺しにしようとするが、それもリンには簡単に避けられてしまう。

人間道で未来が見えているリンにとって空間魔法はもはや意味をなさなくなっていた。


「ほんの数秒の未来視だが、瞬間移動使いにとっては致命的だな」

「ぐはぁ!」


剣を避けると同時に突っ込んできたリンの蹴りがデルタの腹部にめり込む。


「終わりだ」

「あ、あ、あ」


再び瞬間移動したデルタだったが、瞬間移動した先ですでに心臓を貫かれていた。

リンはデルタが現れる場所の心臓部分にあらかじめ腕を伸ばしていたのだ。


「なに!?デルタが殺された!?」


どこにもいない男の姿が筋骨隆々の男に変わる。


「今度は強化魔法のジータか」

「よくもデルタを!殴り殺してやる!」


MAXまで身体強化したジータがリンに殴りかかる。


「そういうのじゃ俺には勝てない。修羅道〝極(ゴク)〟」


リンは圧倒的な力でジータの顔面を殴り飛ばす。


「ごはぁぁぁ!はぁはぁはぁ、何なんだ、お前」

「酒場の店長だよ」

「はぁはぁ、ふざけやがって」

「じゃあな」


リンの拳がジータの腹を貫く。

そして今度は女の姿に変わる。

リンはその女性に見覚えがあった。

地獄の瘴気亭に来たことがあるイータだ。


「あんただったのか。吸収魔法のイータ」

「久しぶりね」

「常連になってくれそうだったのに残念だ」

「はは、また行きたかったのになぁ」

「悪いけど殺すぜ」

「吸収魔法」

「餓鬼道」


イータはリンから生命力を奪おうとするが、リンは同じ特性の餓鬼道で向かい打つ。

そして力の差は圧倒的。

餓鬼道の勝ちだ。


「糸のこマンも読んでみたかったな」


イータも死んだ。

そして再びどこにもいない男はデルタの姿に。

いや、デルタではなくガンマだ。


「この前は世話になったな。時間魔法のガンマ」

「あの時に殺しきれなかったのが悔やまれますね」

「デルタとは双子なのか。前はそれでうまいこと騙された。てかそんな設定の人格も作れるのかよ」

「私を単純な複数持ちだと判断してくれましたね」

「それにしても出てくるのが案外早かったな」

「早く決めたかったのですよ。戦闘においては私が最強なので」

「やってみろよ」

「言われなくとも」


〝時間魔法 完全停止(クロノス)〟


ガンマは時間停止の最上級魔法を使う。

長引けば不利と悟っていた。

だから全力で、一瞬で勝負を決めようとしたのだ。

前回リンはこの固有魔法によって一度殺された。

だが今回は、、、


「地獄道」


リンの時間は止まっていなかった。


「な、なぜ?固有魔法が通じないことなど!」

「あるね。固有魔法は魔法戦で最強のカード。固有魔法同士なら早い者勝ちで勝負がつく。だが地獄道はジョーカー。場をしらけさせるカードだ。固有魔法を打ち消す」

「化物め」

「いいな。今度の方が心がこもってるぜ」

「くっ!」

「じゃあさっさと死ね」


リンはガンマに近づいていく。

正直地獄道の連発はできない。しばらくのインターバルが必要だ。

だがガンマも全力の魔法を使ってしまったのでこちらにもインターバルが必要。

ならもうガンマに勝ち目はない。

単純な戦闘能力では圧倒的にリンの方が上だからだ。


「、、、ふふ。私は死にませんよ。絶対に」


それでもガンマは不敵に笑った。

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