第30話 祭りってこういう風にやるのが正解だったんだな

「おーい、ユフィ。ゴールデンオクトパスしばいてきたから料理しておくれ!」

「またいっぱい獲ってきましたね。クリームシチューにしますよ!」

「いや、クリームシチューにするな」

「え?でもクリームシチューにしないと中毒が」

「だから中毒性を消すなと言ってるんだ」

「、、、なに言ってるんすか?」

「建国祭でウチが出す料理はオール中毒性ありで行こうと思ってる」

「やばいっすよ!バレたら捕まりますよ!」

「つまりバレなきゃいいって事だろ?」

「犯罪者の考え方ですよ、それ」

「考え方はそうでも、バレなきゃ犯罪者じゃないって事だろ?」

「思考が終わってますよ」

「頼むよ~、ユフィえもん。一皿食べた客たちが目を血走らせながらゾンビの様に次の皿を求めるような料理を作ってよ~」

「嫌ですよ。なんですかユフィえもんって」


粘れるだけ粘ったがユフィは折れず、結局ゴールデンオクトパスはクリームシチューで提供されることになった。


チッ!


まあいい。

肉体的な中毒性はなくてもユフィの料理ならば精神的な中毒性は発揮できるだろう。

じゃあ次は酒か。


「おーい、リエー。どんな感じ―?」

「おお!リン!一口飲んでみてくれ!」


リエに渡されたレモントリプルストロングの試作品を飲んでみる。


「くぅー!こいつは効くなぁ!」

「アルコール度数を25%まで引き上げてみたからね」

「でもさすがにこれは飲みやすくはないな。アルコールの味がダイレクトに来る」

「この25%の壁を越えられた時、私はアルコールの支配者、アルコールルーラーになれる!もう少し待っててくれ!」

「期待してるぜ。アルコールルーラー」

「まだ早いってば!でもそんなに早くもないかもだけど!」

「がんば!」


次はギルとレヴィアタンか。


「さあ傀儡たち、地獄の瘴気亭に持ちうるすべての財を捧げなさい!」

「「「「「「「「イェス、マム!!!」」」」」」」


金持ちっぽい人たちと偉いっぽい人たちが新兵のようにレヴィアタンに従っている。

敬礼したのち脇締めグーのキモ走りで駆けて行った。


「なあ、ギル。今どんな感じ?」


ちょっとレヴィアタンは怖かったのでギルに話しかけてみる。


「レヴィが新魔王軍の為に集めた連中に私財をかき集めさせてるところだな」

「えぐっ!てか結構偉い人多くない?」

「国政に関わってる人間も多いらしい」

「ヤバいな。てかもう王国落とせるんじゃね?」

「うん、誰も知らないうちに政権獲れそうだな」

「魔王っぽくはないけどな」

「フィクサーだな。どっちかって言うと」

「魔王改めフィクサー。レヴィアタンがやり過ぎないように見張っておけよ」

「わかった。で、お前は建国祭に向けてちゃんと働いてるのか?」

「任せとけよ。集客と金、両方が手に入いるプロジェクトをルリと実行中だ」

「ルリと二人で?本当かよ」

「続きはWEBでだな」

「はぁ!?」


店長として抜き打ちテストを行ったが、建国祭に向けての準備はみんな順調そうだった。

的確なアドバイスも送ったし、あとは放っておいてもいいだろう。

というわけで俺は動画を任せていたルリの元へと行く。


「ルリ、首尾はどうだ?」

「化け物級の動画が完成した。今からアップするところ」


ルリの表情には自信が満ち溢れていた。


「そこまでの動画か?」

「チューブトップ界の黒船。革命を求める者たちが動画のアップを求めている」

「なるほど。では一刻も早くアップだ!」

「ラジャ!」


リンルリ地獄チャンネルの記念すべき初投稿が成された。



1時間後


「おい、ルリ。再生数がまだ4なんだけど」

「、、、チューブトップ側の陰謀を感じる。奴らは革命を恐れている?」

「いや、そんなことあるわけ、、、」


言いかけたところで、突如さっきギルに自信満々で言ったことが頭をよぎった。

建国祭に向けて働いていた面々に偉そうにアドバイスをしてきたことも。



陰謀じゃね?

そうだ。これは陰謀だわ。

運営は革命を恐れている。

まったく!保守派共が!

そうでなければ一時間たって再生数4なわけがない。

あり得ない。

あれほどの動画だ。

少なく見積もっても4万再生はいっているはずだ。

うん、陰謀だ。陰謀。


「、、、陰謀って怖いな」

「ん。陰謀恐るべし」

「陰謀だったらしゃーないか」

「ん。陰謀恐るべし」

「まあ引き続き陰謀に立ち向かってみて」

「任せる!必ず悪は滅びる!」

「俺もそう思うよ」


ルリには引き続き動画の編集、投稿を任せた。

本気で陰謀だって思ってるみたいだし、やる気もありそうだし、他にやらせることもないし。

ほっといたら飯食うだけだから、意味なくても何かやらせといた方が、若干のコストカットにはなる。

うん、そんな感じで行こう。

だって陰謀だもの。





チューブトップ動画以外の部門はわりと順調にいったようで、俺たち地獄の瘴気亭は建国祭初日を迎えることになった。



建国祭一日目


「いらっしゃいませー!!!出張地獄の瘴気亭ですよー!!!ゴールデンオクトパス料理に新作レモントリプルストロングもありますよー!!!」


まずレヴィアタンの傀儡たちが列を作っていた。

金持ちたちばっかりだし、しかもそいつらが私財を使い切ろうとして来てるわけだから金の使い方が半端ない。

そして普通の客。

こいつらはレモントリプルストロングで頭をやられてゾンビのように行列を作っていた。

ユフィは今回俺の散々の提案を断って非合法薬物なしの料理で戦ったが、それでもユフィの料理は超一流。

リピーターも多かった。


「ユフィ神の料理は至高!」


売り上げに加算されないルリが一番食べてたけど、考え出すとめんどくさいのでそこは放っておいた。


「大盛況だな」

「そうだな。祭りってこういう風にやるのが正解だったんだな」

「そりゃそうだろ」


ギルと地獄の瘴気亭の盛況さを見ながら、勝利の一杯を飲んでいた。

地獄の瘴気亭の建国祭一日目は一人勝ちで幕を閉じた。

めちゃめちゃ儲かった。

もやしとほぼ水の水割りじゃなくても稼げるんだな。

目からうろこだわ。


「一日目の大繁盛を祝してカンパーイ!」


一日目は22時で終了し、あと片づけを済ませた俺たちは軽い打ち上げをしていた。

明日もあるから朝までは飲めないが。

俺とギル以外。

ユフィ、レヴィアタンは早めに就寝。

ルリはただただ食い、俺とギルは飲みまくった。

なぜなら二日目も基本やることがないからだ。


「とりあえず3日間の売り上げが一位だったら最終日の後夜祭で派手に表彰されるからな。それで地獄の瘴気亭は遂に有名店の仲間入りだ!」

「だがまだ二日間ある。油断は禁物だぞ?」

「まあそうだな。二日目三日目はもっと人が増える。王都の外からの客も増えるらしい」

「特に明日は国王と首相が中央広場のステージで式典をやる。勝負時だ」

「国の象徴としての長と実質的な長が挨拶して握手するイベントだからな」

「まあ俺たちがやることは特にないんだけど」

「それな!」

「「ははははは!!!」」

「ウチの優秀な従業員たちに任せよう!」

「丸投げだな」

「そうとも言う」

「じゃあ明日の成功を祈って!」

「「カンパーイ!!!」」


俺とギルは夜が明けるまで飲んだ。

二日目も特にやることはなかったから。

だが二日目こそ俺たちが最も働く日になるとはその時の俺たちは夢にも思っていなかった。





アメリアの第一王子は優秀だった。

剣術、魔法、知識、作法。

王家に求められることは全て完璧にこなして見せた。

いや完璧どころか全てにおいて超一流まで上り詰めた。

その余りの才能に、初代アメリア王の再来と呼ぶものも多かった。

いや、多すぎたというべきか。

王権復古を望む勢力たちが彼を旗頭に反乱を起こそうと画策し始めたのだ。

だが第一王子はその企てに誰よりも早く勘づく。

そして彼は反乱を企てていた貴族たちを粛正した。

この時、第一王子は15歳。

だが彼は救国の英雄とされることはなかった。

彼が貴族たちの企みに気付き粛正するのが早すぎたからだ。

この段階なら反乱が起こりそうだったことをもみ消せた。

だから彼の才能と人気を恐れた政治家たちは、この反乱未遂と共に王子ももみ消してしまった。

暗殺という形で。

国民には不慮の事故死として発表され、国民は悲しみに暮れた。

今でも命日には墓標の前に溢れるほどの献花が敷き詰められる。


だが第一王子は今でも人知れず生きていた。

ではなぜ彼は暗殺されても生きているのか。

彼には家族でさえ知らない秘密があったからだ。

彼は生まれながらに二つの人格を持っていた。

王子ともう一人。

初代国王だ。

初代国王は自分の中に全く新しい人間を作り出す固有魔法を持っていた。

固有魔法は受け継がれなくても、自分の中に別の人格を共生させられる力だけは子にも受け継がれた。

それによって初代国王の魂は僅かながら子に孫に、更にその子孫の中で生き続けた。

そして現王子の代で初代国王は完全に力を取り戻したのだ。

初代国王は王子が成人を迎える前にはいくつかの人格を作り出し、影武者をたてた。

みんなが知っていた王子は顔も能力も初代国王が作った人格の一つ。

そうして自分の死を偽装した王子は動き出す。

ちなみに暗殺されたことに恨みはない。

身代わりになったのはただの駒だったし。

アメリアの貴族たちを殺したのも国のためではない。

アメリアにはもう少し今のままでいてもらう必要があったから。

最初から彼らの目的はたった一つ。

世界を統一すること。

そのための準備を彼らはずっと行ってきた。

邪魔になりそうな者も街も国も片っ端から消し去った。

そして今彼はアメリアの街を見下ろしている。





『始めるでいいんですね、アルファ、ガンマ』

『・・・』

『・・・』

『わかりました。それでは始めましょう。アメリア王国の国崩しを』

『デルタとイプシロンも元気になったもんね!私のお陰で!』

『僕の記憶魔法で配下にした魔物たちで一斉に王都を攻めるんでしょ?』

『そうですね。私の空間魔法で魔物たちを王都中に出現させましょう』

『イプシロンが使役している魔物ってどれぐらいいるの?』

『5万ぐらいはいるかな』

『王都が混乱に陥った隙に俺たちは王と首相を殺すわけだな』

『今日は王と首相のパレードが行われますからね。その時に一気に計画を実行します』


第一王子の名は〝アルファ・アメリア〟

そして今の名は〝どこにもいない男〟


「さあ国崩しを始めましょう。空間魔法」

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