第29話 〝瀕死のダメージを負い両手両足を拘束された状態でゴールデンオクトパスを獲ってみたー〟
提案者ギル
「今回は儲け度外視だ。建国祭売り上げ一位になれば一気に大繁盛店なんだからな。つまり今までの逆!高級料理と高級な酒を安値で売りさばく!たしかに三日間は大きな赤字だろう!だがこれは先行投資だ!店をでかくしたいなら、こう言った勝負に出なくてはいけないときがある!」
「さすがルキフェル様です!!!」
提案者 リエ
「高級酒だけがおいしいわけじゃないわ!私が目指してるのは飲みやすくて度数が高いアル中製造液。最新作のお披露目に建国祭は持ってこい!今こそ新兵器『レモンダブルストロング』の出番よ!」
こいついよいよ自分が作った酒のこと兵器って呼び出してる。
「安価でレモンダブルストロングを売りさばく!そして泥酔したモルモットたちは間違いなくしょっぱいツマミが欲しくなるわ!ここでユフィの出番よ!」
こいついよいよ客のことモルモットって呼びだしてる。
「レモンダブルストロングでの利益は少ないけど、それによって暴徒と化した連中がユフィの料理に食らいつくのよ!ユフィの料理は間違いなく絶品!これで店の客も増えるわ!」
もう暴徒って呼んだよ、こいつ。
提案者 ルリ
「何もわかってない愚図ばかり。ここはルリの出番。祭りは慣れてる」
「え?お前祭り行ったことあんの?」
「むしろ祭られる方」
「ああ、そっかお前空弧だもんな」
「だから祭れ」
「え?」
「祭りとはまずルリを敬うことから始まる。とりあえず供物を並べろ。具体的にはカレーライスを並べろ」
「いつもと変わんないじゃねーかよ」
「当日は全屋台の料理も供えること。そうすればみんな幸せ。ルリも満腹。世界も平和」
「世界平和舐めんな」
提案者 ユフィ
「皆さん欲に塗れすぎです!変に奇をてらうことはないんっすよ!まあ建国祭用の特別メニューは2,3品は考えようと思いますけど。あとはいつも通り。心を込めてお酒と料理を出す!そしてお客さんに喜んでもらう!そうすればおのずとお店のお客さんも増えていくっすよ!」
「ヌルいこと言ってんじゃねぇぇ!!!」
「えぇぇ!!!??」
提案者 リン
「ヌルいヌルいヌル過ぎる!!!ヌル過ぎて風邪ひくわ!!!今回の建国祭は地獄の瘴気亭が王都で名を上げる絶好の機会!まずギルとレヴィアタン!洗脳でも何でも使って太客を連れてこい!」
「お、おう!」
「ルキフェル様のためなら何でもやりますわ!」
「そしてリエ!『レモンダブルストロング』なんかじゃ生ぬるい!全ての人間を酒クズに変える最強兵器『レモントリプルストロング』を作りだせ!」
「は、はい!」
「ルリ!お前は、、、考えておく!」
「ん!」
「ユフィ!お前は客全員を中毒者に変えるような料理を作るんだ!もうウチの料理なしでは生きていけなくなるようなな!そのためなら違法薬物の使用も許す!!!」
「いや、許されないでしょ。というかアニキが許しても何の意味もないです」
「さあ野郎ども!!!地獄の瘴気亭の国盗りじゃぁぁぁ!!!!」
「「「「「お、おお~」」」」
「声が小さい!!!」
「「「「「・・・・」」」」」
なんか全員無言で去っていったけど、俺にはわかる。あいつらの内側で熱き炎が燃え上がっていることが。
という訳で建国祭に向けて地獄瘴気亭は動き出した。
*
動き出した地獄の瘴気亭の中で、やることがない人間が二人。
俺とルリだ。
「ルリはまだいいとして、リンにやることがないのは控えめに言って終わってる」
「ははは!自分でもビックリだ!この前の全員に喝を入れるセリフを思い返してみたけど、俺のやることが何処にもなかった!これが自分のセリフなんだから更に驚きだよな!」
「そのテンションウザい」
「そこでルリ!俺たちはもっと広い世界に地獄の瘴気亭を広めていこうと思う!今回の建国祭準備期間なんてもってこいだ!」
「どういうこと?」
「今世界中では動画サイト〝チューブトップ〟が流行りまくってる。再生数が何万単位になると金まで儲かるらしい。そこに俺たちも参入しようと思う!名付けて〝リンルリ地獄チャンネル〟だ!」
「なるほど!リンにしてはいいところに目を付けた!」
「え、案外すんなり賛同してくれるんだな。もっと渋るかと思ってたわ」
「ふっふっふ、何を隠そうルリは〝チューブトップ〟のヘビーユーザー。なんならチューブトッパーデビューも果たしてる」
「え、お前チャンネル持ってんの!?」
「ん。〝ルリの爆食いフォーエバーチャンネル〟生配信も毎日してる」
「そういえばお前店の端で飯食ってるときカメラとかタイマーとか置いてたけどあれって配信してたの?」
「ん、大食いチューブトッパーの先駆け」
「マジかよ!フォロワー数どれぐらいいるんだよ!」
「666人。悪魔の数字」
「多くも少なくもねーな」
「一番笑えない中途半端な人数。悪魔の数字ってとこを推していくしかない」
「あ、色々考えて悪魔の数字とか言ってたんだ」
「でも実は先月から672人になっている」
「嬉しいような。嬉しくない様なって感じだな」
「だから先輩チューブトッパーとしてリンにアドバイスできるところは多々ある」
「まあ確かに俺は今チューブトッパーとしてはペーペーだからな。よろしく頼むぜ!」
「動画に欠かせないのは圧倒的絵力。ルリみたいに定点でただ食べ続けるような動きのない絵じゃ上は狙えない。ルリの様に中途半端になるのがオチ」
「なんかすごく自分を削って教えてくれるのな」
「というわけで企画を考えた」
「マジかよ!さすがだな!教えてくれ!」
「題して〝瀕死のダメージを負い両手両足を拘束された状態でゴールデンオクトパスを獲ってみたー〟。とりあえずリンはその辺で瀕死のダメージを負ってくる!その後オリハルコンの拘束具で両手両足を封じ、首から上だけでゴールドオクトパスを仕留める!」
「おつかい感覚で瀕死になれるかよ」
「、、、はぁ」
「おい!使えないなぁみたいな目で見てくるのやめろ!瀕死ぐらいなってきたらぁ!!!」
俺はその辺で瀕死のダメージを負い、ゴールデンオクトパス狩りに向かった。
「さすがリン!見事な瀕死っぷり!ルリが認めた男だけはある!」
「うん、ありがとね。褒められてるんだけど全然嬉しくない。てかなんで俺もノリで瀕死になんかなっちゃってんだろ。で、次はどうするんだっけ」
「オリハルコンで両腕両足を拘束する」
「あ、やっぱりそれもするんだ」
瀕死の状態で両手両足を拘束された俺は今まさに海へ落とされようとしていた。
なに?この状況。
「撮影はルリに任せる!じゃあ行け!」
ルリに足蹴にされて俺は海へ落ちていく。
海の中には巨大な金の牛。
俺が使えるのは首から上だけ。
なに?この状況。
「修羅道」
こんなどうでもいい時に必殺技っぽいの使うの嫌なんだけど。
ちゃんとしたシリアスな時に使いたいんだけど。
でも使わないと死ぬか。
「よくやった!リン!これはバズる!間違いない!」
「はぁはぁはぁ、ならよかった」
「ついでにルリの実況もつけてみた。見てみる!」
俺はルリに言われて動画を見てみる。
▷
おお、俺が海に落とされていく。
ヤクザにコンクリ詰めで港に沈められるよりもエグな。
『おおーっと!その辺で瀕死になった後、両手両足を拘束された状態でリンが飛び込んでいくー!』
いや蹴り落とされてるけど。
『飛び込む前、彼は豪語していた!「ゴールデンオクトパスとかマジチョロいっす~。首から上だけで十分っす~」と!さあ有言実行なるのか!』
なに俺のキャラ。
すげぇウザいんだけど。
あとこいつ実況だとめっちゃしゃべるな。
『おお!!海が血に染まっていく!!!どっちの血だ!?ゴールデンオクトパスか?それともリンか?これリンだったらウケるよね』
ウケねぇよ。
てかすでに血塗れで俺は海に入ってるんだけどな。
お、ゴールデンオクトパスと俺が海から上がって来た。
『ゴールデンオクトパスの首に噛みつきながらリンが上がって来た!必死だぁ!必死な成人男性って引く―!』
引いてんじゃねーよ!
お前だけは引くんじゃねーよ!
『最近高評価、チャンネル登録をしなかった人が不審者に襲われるなどの被害にあっています。これは本当です。先月で被害者が300人を超えました。私たちは心配しています。本当です』
最後のナレーション最悪だな!
||
「どう!?」
「いや、全体的に最悪だったんだけど」
「ならよし!」
「え?」
「動画というのは最悪なら最悪なだけいい!痛ければ痛いだけいい!引かれたもん勝ち!」
「そうなの!?」
「ルリはチューブトッパーの先輩!間違いない。ルリの動画が伸び悩んだのはそこ。ルリの動画には痛さが足りなかった。圧倒的に足りなかった。だが出せなかった。ルリには痛いところが全くないから。そこでリンの出番」
「出番の来かたが最悪なんだけど」
「まさに最強の布陣」
「嫌なんだけど、この布陣」
最悪な布陣だったが、一応チューブトッパーの先輩ということでこの後も俺は瀕死で何度もゴールデンオクトパスと戦い、ついでにゴールデンオクトパスも何体か手に入った。
そんな時だった。
「お主らいったい何しとるんじゃ?」
「ん?謎のジジイ出現」
「いや、この前のジイさんだろ。俺たちを中毒から救ってくれた」
そう、俺たちが一時期ゴールデンオクトパスの中毒になっていた時、乳飲めば治るよと教えてくれたジイさんだ。
「いや、マジで何しとるんじゃ。お前ら」
「チューブトップでバズる動画を撮ってる。といってもアナログなジジイにはわからないか。ふふん」
「なんじゃ、チューブトップの動画とっとったんか。何事かと思ったわい」
「え、ジイさんもチューブトップ知ってるのかよ」
「知ってるも何も、儂もチューブトッパーじゃ」
「マジかよ!」
「ほら、見てみい。チャンネル名は〝自給自足ジジイのアウトドア飯〟じゃ。これでも登録者数は35万人ぐらいおるぞ」
「35万!?トップチューブトッパーじゃねーかよ!」
あ、トップが渋滞してるな。
「さ、35万、、、だと、、、」
あ、ルリは膝から崩れ落ちた。
ルリは放っておくとして、俺はトップチューブトッパーのジイさんに今回の動画を見てもらうことにした。
「なるほどのう。まあその動画なら再生数は稼げるじゃろうが、チャンネル登録者数を増やしたいならコンスタントに動画をアップすることが大事じゃ。とりあえず儂の動画を見てみろ」
生意気なジイさんだなと思ったが、正直動画のクオリティーはマジで高かった。
色々な角度からの撮影、手の込んだテロップ、おすすめ情報の添付などなど。
「これって編集とかもジイさんがやってるの?」
「最近新しいソフトも買ったんでな」
「おい、ルリ。ジイさんに完敗だけどどうする?」
「ジジイ!!!相互フォローして」
「いいぞ」
「あっさり折れやがった」
こうして〝リンルリ地獄チャンネル〟と〝自給自足ジジイのアウトドア飯〟はフォロー関係になった。
「じゃあジイさんありがと。勉強になったわ」
「次に会うまでには超えて見せる」
「おう、頑張れよ!あ、そうじゃ。お前たちに伝えておいた方がいいことがあった」
「なんだよ。金で登録者数を買う方法か?」
「〝どこにもいない男〟が儂にお前を殺してくれないかと言ってきた。狙われとるぞ、お主」
「へぇ。ジイさん、あいつと知り合いなのか?」
「知った顔ではあるな」
「そういうのは隠した方がいいんじゃねーのか?相手は五失って呼ばれてる犯罪者だぞ?」
「どうせ変わらん。儂も五失〝息をしない男〟じゃからな」
「そうなのかよ。ビックリだな」
「チャンネル登録者数を言ったときの方がびっくりしておったな」
「国一つ潰すよりトップチューブトッパーになる方が難しいからな」
「すごいこと言うな、お主」
「まあ殺されないように気をつけとくよ」
「死ぬなよ」
「おう!ジイさんもな」
俺を殺したい奴なんて腐るほどいる。
身近にだって数人いるぐらいだ。
気にしたってしょうがない。
そもそも俺死なないしな。
とにかくトップチューブトッパージイさんのアドバイスも貰ったし、いい画と食材も手にいれたので、俺たちは地獄の瘴気亭へと帰ることにした。
「チャンネル作成と動画アップに関してはルリに任せる!」
「わかった。任せた」
チューブトップに関してはルリに任せるとして、俺はゴールデンオクトパスの方をなんとかしよう。あと〝どこにもいない男〟も。
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