第28話 でも祭りはゴミみたいなメニューで金を稼がせてくれるボーナスステージなんだぜ!?

「ルキフェル様~!今日も遊びに参りました~!」

「また来たのかよ!レヴィアタン」


エレラもといレヴィアタンはウチの店に通ってくるようになった。

そして俺もエレノーラのことはどうでもよくなっていた。

好きな女優が友達を溺愛してる姿を見て一気に冷めた。

グッズ全部フリマアプリに出品した。

順調に売れている。


「レヴィアタンではなく昔の様にレヴィとお呼びください」

「呼んだことないんだけど」

「え、でもあの時!」

「、、、あ、あの時はその、、、」


修羅道使ってぶっ飛ばしてやろうかな、こいつら。

なんか同僚の学生時代の彼女が取引相手として現れたみたいな。

蚊帳の外感がひどい。

これはたまに仕事終わりに飲みに行ってアドバイスをあげるだけの脇役ポジション。

最終巻のボリュームが少なくなってしまったときに、かさ増しのためだけに描かれる巻末スピンオフで、1話にまとまるレベルの浅い恋愛話の主人公にされる運命だ。

そんな読者全員から憐みの目を向けられるような存在になんてなりたくない!

死んでも嫌だ!

だったらもうこいつらを殺して俺も死ぬしかない!


「一番高いシャンパンを2本とメニューを高い順に上から3つ。よろしくね」

「かしこまりました!」


殺そうと思ってたのに気が付くと俺はエレノーラの前に跪いていた。

さすが人気ナンバーワン女優!

財力が違う!

駆け出し冒険者、薄汚れたアイドル、酒におぼれる杜氏、漫画家舎弟。

そういえばこれまでの常連たちの中に羽振りの良いやつはいなかった。

たいして注文しないくせにダラダラ居座るやつばかりだ。

なんなら一度も注文したことのないホームレスまで常連認定されている始末。

俺が求めていた常連はこれだ!


「お待たせしました」


いつの間にか俺の中からわだかまりは消えていた。

もう俺にはエレノーラの財力が分かったから。


「あれ?アニキ。憑き物がおちたような清々しい顔つきっすね」

「俺思ったんだよ。彼女には常に大女優としての重圧が付きまとう。ならせめてこの店にいるときだけはそんなもの脱ぎ捨てて、ただの金づるとして笑っていて欲しいなって」

「うわ!最低なこと言ったっす!」

「ユフィ、俺にはもう彼女が札束にしか見えないんだ!」

「いや、そんな苦しそうに言われても。ただのクズですからね」

「ユフィ、俺にはもう彼女が数字にしか見えないんだ」

「だからクズですって」


まあいいや。

とりあえず売り上げに貢献してくれるなら問題ないか。

適当に二人の会話でも盗み聞きしてあとでギルをからかってやろう。


「ルキフェル様、カンパーイ!」

「おお、乾杯!てか仕事はいいのか?ウチの常連のアイドルは馬車馬のように働かされてるぜ?」

「アイドルごときとは格が違います。私は一流女優です。あくせく働く必要はありません。単価が違うのです」

「あ、そうなんだ」


芸能界も厳しそうだね。

まあ酒場経営の次ぐらいにだけど。


「とにかくルキフェル様!もっと飲みましょうよ~」

「わかった!わかったっての!」

「いえーい!お酒ジャンジャン持ってきてくださーい!」

「かしこまり~!ギル、しっかり接待して売り上げに貢献しろよ!普段はたいして何もしてねーんだから!」

「お前も特に何もしてないだろ」

「なんか言ったか?」

「お前も特に何もしてないだろ」

「普通に言いなおすなよ!冗談に聞こえないだろ!」

「冗談じゃないからな」

「何だと!?このカラス!」

「なんだよ、このロクデナシ!」


バターン!


そんな時勢いよく扉が開く。


「リーン!作戦会議よー!!!」


ウチのお抱え杜氏のリエだ。

いつになく気合が入っている。


「リエ、今日は酔ってないんだな」

「なに言ってるの!酔ってる場合じゃないでしょ!これから作戦会議なんだから!」

「だから作戦会議ってなんだよ?」

「もちろん建国祭についてのよ!!!」

「ああ、そういえばそろそろそんな時期か」


建国祭。

名前の通り、このアメリア王国の建国を祝う年に一度のお祭りだ。

王都は出店で溢れ、祭りは三日三晩つづく。

確か初代国王オメガ・アメリアは、戦争の耐えない小国たちをたった一人で束ね、大国アメリアを作ったらしい。

初代国王についての伝説は最早おとぎ話だ。

たった一人で三か国を相手に戦争をして勝ったとか。

空から降って来た岩の中から生まれたとか。

熱いからって太陽を少し遠くへ投げ飛ばしたとか。

死者を無限によみがえらせたとか。

あとはもう夜を朝に変えたり、襲ってきた津波を丸呑みしたり、山の噴火をひと吹きで消したり、氷の大陸を小便で溶かしたり、やりたい放題。

もう神超えてるレベル。

まあ初代国王って大体神扱いされるからしかたないかもだけど。

もう少し現実的な範疇で抑えられなかったのだろうか。

伝説を書き残した人も途中からテンション上がっちゃったんだろうな。

朝起きて読み返すと恥ずかしくなるやつ。

書き直さなかったということは朝を迎えずに死んだんだろうな。

まあそんなことはいいとして。

俺たち〝地獄の瘴気亭〟に関わってくるのはお祭り期間中の出店の部分。


「リンたちは毎年参加してるの?」

「一応な。ユフィ、去年は何だっけ?」

「地獄の瘴気亭セットっす」

「ああ、そうだった!一昨年は何だっけ?」

「地獄の瘴気亭セットっす」

「その前の―

「地獄の瘴気亭セットです」


なんかユフィの目が死んでいる。


「なんかユフィの目が死んでるわね。その地獄の瘴気亭セットとはいったい何なんなの?」

「ユフィ、なんだっけ?」

「アニキ特製塩振っただけのモヤシ炒め、お酒を一滴だけ垂らしたほぼ水の水割りっす」

「え、なにそれ?」

「すごいだろ!原価を限界まで抑えた利益率ほぼ100%セットだ!」

「え、なんでそんな地獄みたいなものだしてるの?」

「え?地獄の瘴気亭だから?」

「ふざけないで」

「まあ所詮祭りで浮かれてる連中に味だの酒だのはわからないんだよ。だったら詐欺まがいのことやったっていいだろ!」

「詐欺まがいの自覚はあったんだ。でも客が来ないとしょうがないでしょ?」

「客は来てたぜ」

「え、どうして!?」

「ユフィに水着着せて客引きさせたんだよ」

「ゆ、ユフィそんなことしてたの?」

「自分だって心苦しかったっす。でもそんなこと言ってられる経営状態じゃなかったんすよ。本当だったら自分だって美味しい料理とお酒でお客さんに喜んでもらって、その中からお店にも来てくれる人を増やしたかったっす。でもそんなこと言ってられる経営状態じゃなかったんすよぉぉ!!!」


え!?ユフィがガチ泣きしてる。

そんなに辛かったのか。

あの何とも言えない表情はそういうことだったのか。

てっきり年に一度の黒字に恍惚としているのかと思ってたわ。

現に俺はしてたし。


「わかったわ。本当にとんでもない経営状態だったのね。でも今年は違うわよ!」

「え、そうなんですか!?」

「そうでしょ!今は経営も少し安定してるし、ここで一発ドでかい客を掴むのよ!」

「でも祭りはゴミみたいなメニューで金を稼がせてくれるボーナスステージなんだぜ!?」

「いや今詐欺まがいのメニューだしたら、今来てる客も来なくなってマジで潰れるわよ?」

「うぐっ!」


確かにリエの言うことは正しい。

そうだった。

地獄の瘴気亭はあのころとは違う。

ステージが上がったんだ。

そう考えれば建国祭は更なる客を掴み、有名店に割って入るチャンスなのでは!

いやチャンスだ!

ここだ!

俺はここで掴み取るぞ!

ゴロゴロしていれば金が入ってくる、本当のオーナー生活!


「おい、ギル!イチャこいてる場合じゃねぇぞ!こっち来い!」

「イチャこいてねーよ」

「私も一緒に行きます!」

「ルリもだ!飯食ってる場合じゃないぞ!こっち来い!」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「ご飯は食べながらでいいからこっち来てくれるかな」

「ん」


こうして地獄の瘴気亭大会議『建国祭売り上げ一位への道』が始まった。

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