第27話 シャー消し蓋

「久しぶりですね。エレノーラさん!」

「お久しぶりです」

「堅苦しいのはやめにしましょう!僕の事はリンリンと呼んでください」


いやアニキ!まだ堅苦しい呼ばれ方もされてないっす!


「わ、わかりました。リンさん」

「じゃあ僕はエレラって呼ばせてもらいますよ!」


いやまだリンリンって呼ばれてないっすよ?


「いやー、それにしてもエレノーラさ、エレラから連絡くれるなんて思ってなかったですよ」


そんなに無理してエレラって呼ばなくてもいいっすよ。


「今日はリンさんに聞きたいことがあるんです」


エレノーラさんはリンリンって呼ぶ気は一切ないんすね。


「わかってますよ」

「え?」

「僕の預貯金ですよね?」

「えぇ?」

「かなりあります。なんてったって店長ですから。一国一城の主ですから」


あ、すんごい嘘ついてる。

貯金なんてないくせに。

貯金というものが何かも知らないくせに!


「あの、そういうことじゃなくて」

「あ、そっちですか。大丈夫です。身寄りもないので嫁姑問題も起こりません」


この人はなんでこんなにグイグイ行けるんだろう。


「あのー、勇気だして言いますけど。なに言ってるかわからないです。最初から」

「どんなに愛し合っていても結局は他人ですものね。でもだからこそ歩み寄って行かなくてはいけないんじゃないですか?努力をする前にあきらめる人、僕は嫌いですね」

「、、、もしかして今私って怒られてます?」

「怒ってるわけじゃないですよ。ただちょっと意識が足りないかなって」

「え、意識って?」

「だってこれから半世紀以上の共同生活がはじまるんですよ?生半可な気持ちじゃやっていけないでしょ!」

「あの、もうめんどくさくなってきたから本題を言うわね」

「あ、そっちから言うタイプのプロポーズですか?確かにプロポーズは男からって考え方は凝り固まった前時代的発想ですもんね!今はジャンダ―レスの時代!よし、オッケー!どんとこい!」


この人って。

あれ?本当にこんな人を好きでいいの?

こんなものを好きでいいの?

人生においてとんでもない過ちを犯してるんじゃ。


「あのー、ギルのアニキ」

「ん?なんだ?」

「アニキって絶対モテないっすよね」

「あいつがモテるようなら魔王よりたち悪いだろ」

「ですよね」

「だからお前こそ最凶の魔王を生みそうで俺はヒヤヒヤしてる。ふざけんなよ」

「すみません」


なんか怒られた。

ただの恋心が世界を滅ぼしかねないと。

なんなの、これ。

なんて人好きになっちゃったんだろ。

今からでもなんとかならないですかね。

誰か私を助けてください!


「、、、あなたは魔王様を倒したイレギュラーなの?」

「、、、はぁ、つまらない話をするね。しょうがない。好きだったけど殺そう」


いきなりアニキの目の色が変わる。

え?アニキマジっすか?

そんな一気に方針を180度変えれます?


「それはこちらのセリフだわ 〝信仰魔法〟」


一瞬でレストラン中の空気が変わる。

店員も客もみんな目がが虚ろになった。

それもそうか。

目の前に神がいるのだから。


「おいおい、なにしてくれてるんだよ」

「はぁ、やっぱりあなたには効きませんか」

「なんとか意識を保てているだけだ。少しでも気を抜いたら持っていかれる。固有魔法か」

「私の信仰魔法は精神操作系最上位魔法です。普通は私を無条件で神と崇めるようになるんですが」

「俺には魔力が一切ないから魔法の効きは悪いんだよ」

「確かに私の魔法を無効化できるのは聖気を纏う勇者ぐらいなんですが。まさか勇者以外に魔力を持たないものがいるなんて」

「へぇ、勇者以外を全て支配できるなんて最強じゃねーかよ」

「無効化できるのはと言っただけです!強者であればレジスト出来る者たちだっています。特に千の固有魔法を扱う魔王様に至っては私自ら望んで支配されてしまったほどです」

「ん?お前ギルの部下なのか?」

「貴様ごときが魔王様を呼び捨てにするな!」

「おい!ギル!お前の元部下なんじゃねーのか?」


ん?アニキは私たちの尾行に気付いていたんすか?

でもそんなことは何の意味もないっす。

アニキはここでエレノーラ様に救われるんですから。

要するに殺されるんっすから!


「もしかしてお前、レヴィアタンか?」

「カラス!?いやこのかぐわしい匂い!ルキフェル様ですか!?」

「お前生きてたんだ」

「ルキフェル様こそ生きていて下さると信じていました!それにしてもおいたわしいお姿!今この男を殺して解放して差し上げます!」

「あ、それはダメだ」

「え!!?なぜですか!?」

「リンを殺すと俺も死ぬ。今俺がこんな姿になってもギリギリ生きてられるのは六道の力のお陰だからな」

「もしかしてその男が六道の使い手だというのですか?」

「そうじゃなかったら俺が負けたりするかよ」

「そ、それもそうですね。ということはルキフェル様を解放することは叶わないと、、、」

「まあ落ち着け。そのうち自分で復活する。たぶんあと二百年もすれば完全復活だ」

「なんと!あとたった二百年で!でもその間その男に命を預けているというのは危険なのでは?」

「命を預けているのは俺だけじゃない。こいつも俺に命を預けている。まあ今の俺たちは一蓮托生ってことだ。心配はいらない」

「そ、そうなのですね!さすがルキフェル様です!では私は二百年後の完全復活のために魔王軍の立て直しを行っておきます!」

「まあお前の固有魔法はそういうの向いてるもんな。ちなみに他に幹部の中で生き残りとかいるのか?」

「魔王様が討たれたあと、他の幹部達は魔族を率いて勇者と戦い死にました。ただベルゼブブは戦わずに姿を消したので今どうしているかはわかりません」

「そうか、皆死んだか。あの勇者、バカだけど本当に強いんだな」

「私はもちろん魔族とか心底どうでもよくて、ルキフェル様の為だけに戦っていたので、ルキフェル様がいなくなった瞬間、完全にやる気が無くなりました!」

「そういえばお前ってそんな感じだったっけ」

「はい!いつでも私はそんな感じです!」


エレノーラ様嬉しそう!

美しい!


「じゃあとりあえず他はいいからこの龍の魔法だけ解いてくれ」

「、、、ルキフェル様」

「ん?」

「もしかしてその龍娘と付き合ってるんですか?」

「いやないない。ただの下僕」


ただの下僕って!

、、、あれ?この人本気で言ってそう。

エレノーラ様!私に救いを!

こんな魔王やっつけちゃってください!


「下僕ですか!それならしょうがありませんね。ルキフェル様にとってその女は、いえ女でも生き物でさえなく道具!シャーペンの芯やシャーペンに付いてる全然消えないちっちゃい消しゴムということですね!」


え?下僕ってそうなんですか?エレノーラ様。

というかエレノーラ様、例えがシャーペンに偏り過ぎでは。

シャーペンに恨みでもあるんですか?

それとも鉛筆に恩でもあるんですか?

もしかしてボールペンを開発した人ですか?


「まあおおむねその通りだ。しいて言うなら消しゴムの部分を覆ってる蓋みたいなもんだ」

「なるほど!」


消しゴムを覆う蓋!?

シャーペン買って二日目ぐらいには失くしてしまうアレ!?


「じゃあシャー消し蓋にかかっている信仰魔法を解きます」


とんでもない略され方してるー!!!


「はっ!やばかったっす!エレノーラさんのことを本気で神だと思ってたっす!自分がシャーペンの消しゴムの蓋だといわれていたっす!」

「それは普通に言ってたぞ」

「え?幻聴じゃなかったんっすか?」

「違うな。心の奥底から絞り出した混じりけなしの本音だな」

「すいませーん。もう一回信仰魔法かけてもらえませんかー?なんかさっきの方が幸せだった気がするんで―」


エレノーラさんとアニキのデート事変は、ギルのアニキとエレノーラさんがズブズブの関係だったということで幕を閉じました。

私の心に一生消えない傷を残して。

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