ウォルファングの手紙 - 2
ウォルファングとリナリア、時々ロイク
――――――
女神歴2073年 1月某日
ウォルファング・ヴィスコ
まだ雪の多い季節です。そちらはお元気ですか。
フィーのことは父から聞きました。
大変な目に遭っていたようですね。あの日突然父が転送魔術陣を出して保管していた魔石を使おうとしていたので私や他の子供たちも魔力を注ぎました。
ガーベラやマーガレットもとても心配していました。本当に無事でよかった。
最近父から貴族名鑑を見せてもらいました。父の名前も書かれていました。
たくさんの貴族にバツ印がされていました。内乱で多くの貴族が亡くなったそうです。
最近、ふたつの魔法を同時に出せるようになりました。それでも魔力を出すだけですが。
私の魔法は完全ではありません。毒草を薬として扱うこともあるように、私の魔法もそれなりに役に立つかもしれません。
父もお医者様と一緒に私のことを調べてくれていますが、二人の会話は専門的な言葉ばかりが飛び交うので理解できません。
父も資格を取らなかっただけで医者の勉強をしていたことは知ってますが、私を差し置いて話が盛り上がっていました。いつものことですが。
お医者様は私を研究対象で見ているようでたまに私を見る目付きが獣のようになります。そういう目をするたびに父がお医者様の頭を叩きます。貴族同士とは思えないくらい気安い仲のようです。
先日フィーから手紙が届きました。フィーが気丈に振舞っているようにうかがえます。
弟として気にかけてやってください。
リナリア
―――
女神歴2073年 2月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
まだまだ冬の寒さが続きます。
先月は多くの雪が振る中アイーシュに戻るのは大変だったでしょう。
ご存じかもしれませんが、フィーは先日大勢の人の前で自分が竜人族であることを明かしました。
おかげでそれから毎日目まぐるしい日々を送りました。学院までの距離を馬車で通うことになりそうです。
自分もそんなこと思いもしませんでした。
最近は鍛錬の中で魔力操作が含まれるようになりました。
ロイクが教えてくれた基本的なものではなく応用的なものです。
魔法の勉強は魔力の多い者がするものだと思っていましたが自分でも必要なようで、その辺の説明も受けました。
フィーなら理解できたでしょうが、説明した先輩曰くその操作方法は危険だから生まれつき魔力が多い人には教えられないそうです。
ウォルファング・ヴィスコ
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リナリア
フィーが例のクソ皇子に誘拐された。
貴族もろくなのがいないと思ってたけど皇族も違う意味でおっかないなって思った。あの皇子だけだと思いたい。切実に。
今回は本当に自分がフィーから遠ざかったのが悪かった。学校が終わってからすぐに帰らせないと行けなかったしそうするのが自分の役目だったんだから。
フィーと久しぶりに故郷の話をした。
楽しかった時の思い出をたくさん話した。
夏になったら村の跡地に行って墓参りにいくつもりだ。
リナリアは魔法は魔力の匂いがそれぞれ違うからリィとリナで切り替えないと使えないんだって思ってた。
フレイ先生は、フィーの身体を見た時の目が怖かったな。魔族の匂いがしたけどなんで種族を隠してるんだろうな。
リナリアも知ってるだろうけどフィーが姿を公にした。
そのせいか学院でもまた嫌がらせを受けるようになった。穢れたっていうけど、フィーは被害者なのにひどいだろ。
リナが言っていたことが分かったよ。悪かった。
ウォルファング
―――
女神歴2073年 3月某日
ウォルファング・ヴィスコ
迎春祭の時期が来ました。祭りの準備中、兵士の出入りも増えますが今年はウイエヴィルに限って商人の出入りがあるようです。
税収を増やすためでしょう。後日ウイエヴィルに行きましたが活気のある街でした。
フィーから手作りの軟膏が届きました。
手紙の通りよく効いて肌艶も良くなったので水仕事の後に使用しています。
ガーベラ姐さんが父に作れないかと伺っており、父も彼女の手紙を参考に作ってみましたが上手くいかなかったようです。
魔力の問題でしょうか。成分を調べていましたが気になることがあったようで父がフィーに手紙を送っていました。
雪が解けた頃から一週間程、父と他に協会に就職する予定の子供と共にカレンデュラ領内を回りました。
ウイエヴィルの協会や図書館など。カレンデュラは街二つに村が複数あることは知っていましたが、特に村の方は似通った土地でも住んでいる種族に偏りがあるのが面白かったです。
新聞を読みました。フィーに傷を付けるなんて許せません。
(二行分黒く塗りつぶされている)
それはそれとして新聞にはフィーの写真が載っていました。見ない間に少し大人っぽくなったように見られます。学院の制服のせいでしょうか。
貴方もお疲れ様でした。父から色々話を聞くと貴方も自分の実力を鑑みて他の人に任せていたらしいですね。
正直責めたい気持ちを抱きますが、貴方がフィーについて他の人に任せることの方が驚きでした。
もうじき雪が解ける頃です。アルバイト組はちらほらと働きに来る人が増えました。
私はこの前フレイ先生とお話をして、四月から診療所でお手伝いをすることになりました。
内容は治療の補助といったところでしょうか。お手伝いをしながら私は魔法を効率よく使えるようにするため、フレイ先生から体の仕組みを教えてもらいます。
私が医者か薬師になるかどうかは分かりません。私の魔法は人に害を与えることもできるから。
リナリア
―――
女神歴2073年 4月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
春の陽気を感じる季節になりました。そちらはいかがお過ごしですか。
フィラデルフィアが作った薬ですが、色々トラブルがございました。
詳細はリナリア宛ての手紙に書いてます。内容は本人に聞いてみてください。
冬頃からちらほらと来ていた新人が徐々に増えてきました。
軍事学校の生徒も同じブートキャンプに参加することを知った先輩達が二か月後の彼らを鍛えることを楽しみにしておりました。
自分はまだ未熟ですがせめて後輩らに手放しで尊敬される軍人でありたいです。
先月迎春祭の警備の任務がありました。
数日前から商人の出入りが多く普段よりも一段と活気が出ていたと思います。
商人の出入りが多いこともあり、学生も特に寮生は敷地の外から出ることは叶わなかったそうです。それでも学院の中は行動できるので困ることはないでしょうが。
フィラデルフィアも街に出ることは叶わなかったのですがその間は女性の先輩兵士たちと組手練習をしていました。
以前から度々行っているのですがフィラデルフィアの能力が劣ることを知りません。毎日鍛錬していたわけでもないのになぜでしょう。竜人族だからでしょうか。
最近人事異動で新しい人が入り、彼らもフィーの護衛に回されるようになりました。
初めての護衛任務でフィーを選ぶ隊長の思惑が分かりません。
護衛が非番の日は少しずつ書類関係の仕事を任せられるようになりました。
報告書を整理する仕事ですが先輩によって気にする観点が少し違うので見ていて興味深いです。
エリカの紹介でリアムに会いました。自分以外のカレンデュラの卒業生が兵士としてシャトーバニラにいることに驚きました。彼も自分のことを覚えてくれていたようです。
手合わせもしましたがあっさりと負けました。自分もまだ修業が足りないようです。
たまに年の近いカレンデュラ家の卒業生同士で交流があるそうです。ロイクはどこまで知っているのでしょうか。
ウォルファング・ヴィスコ
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リナリア
フィーの周囲は徐々に落ち着いてきたところだ。フィーと話すクラスメイトが増えてきた。
フィーの作った薬だけどひと悶着あって面倒だった。
というのもフィーが孤児院でティンクチャーを作った話を友人に話したのを他の同級生が聞いて嘘を吐いていると言ったのがきっかけだった。
ティンクチャーは薬草の酒精漬けだ。平民の間では普通に作っている人が多いのに、彼は薬師にしか作れないと思ったらしい。だからフィーが作ると宣言して二週間後本当に作って持ってきた時は相手も顔が赤くなってた。
だけど問題はそのティンクチャーの余りで作った軟膏薬だった。それを友人らに渡すとよく効くと好評で、噂を聞き付けた生徒が寄ってたかって欲しいと言ってきた。中には金を出すやつもいたくらいだ。
どれくらいの効能だったのかは分からないけれど欲しがる相手に金持ちもいたからよほどだったらしい。
さすがに大量に作れないからフィーがレシピを渡しても同じものが作れないと言われ、仕方なく教師に相談したら薬を扱うギルドにレシピを売ることで落ち着いたようだ。
けれど薬師が作っても質が劣るらしく、薬師はその原因を察していたようで、大量に生産するのを優先して品質を改善するのは諦めたそうだ。ロイクも原因に調べがついてるんじゃないだろうか。
久しぶりにエリカとリアムに会った。一昨年卒業した人だ。
カレンデュラ家の卒業生の交流会が不定期にあるらしい。仕事もあるし全員がそろうわけじゃないけど、色々話をする機会があるんだそうだ。
フィーを担当する護衛が増えた。元々隊の中で持ち回りだったからいずれはそうなる予定だったけれど少し心配だ。
フレイ先生のところに通うんだな。リナリアが一人で街に出るなんて想像できない。
誰かに送ってもらうのか?
ウォルファング
―――
女神歴2073年 5月某日
ウォルファング・ヴィスコ
春の花の見ごろ、そこら中に咲く彼女の花を見るたびにあの一年半を思い出します。
そういえば貴方は軍でドックウッドと呼ばれているそうですね。街の隅にある花水木の花がつぼみを膨らませていました。
昨日ガーベラ姐さんの案内でアイーシュの外にある牧場で羊の毛刈りを行いました。
ハサミで毛を刈るのはかなり一苦労でしたが、一緒にいたネネが魔法で羊を眠らせてしまったのでその隙に終わらせました。
それを見た牧場主がネネに頼み込んで羊を一頭一頭眠らせていました。ついには成人したらここで働いてくれないかとまで言われてましたがガーベラ姐さんが止めていました。
ネネは孤児院にいる家畜を友達のように接するので牧場で働くのは向かないと思っているのでしょう。
貴族がティンクチャーの作り方を知らないなんて驚きです。
ちなみにフィーの作った薬ですがこちらでも再現が出来ました。植物が扱える子供達の魔力を借りてではありますが。
ですがこれは薬屋でも高級品扱いをするものだと父が言っていました。ターゲス卿はあのお酒を好んで飲んでいたのでしょうか。
護衛のことですが、養子とはいえフィーはターゲス卿の娘ですから、彼に取り入りたい者がいるのでは?
軍のことは私も分かりませんが彼は幹部に位置する方ですから、そういう意味でもお気を付けて。
アイーシュの診療所で手伝いをし始めてからひと月が経ちました。
貴方は行き帰りの心配をしていますがさすがに私も一人で通えます。行きも途中まで他のアルバイト組と一緒ですし、帰りもみんなと同じくらいの時間に帰るので一人で歩くことはありません。
診療所ではお手伝いだと言われていたはずなのに、やっていることはほとんど治療の補助をするための魔法の練習ばかりです。お掃除も器具の洗い方も教わりましたが魔術道具を使うので魔力を消費する以外はそこまで大変ではありません。
麻酔毒を生成する練習、その毒を解毒させる練習、腹を裂いたネズミの治療をせず出血を抑える練習など。勉強にはなりますが先生方に利益があるのか疑問です。
三月にフレイ先生に助手の先生が来ました。フレイ先生の遠縁の人だそうです。
ベルガモットというお医者様ですが、女性のお医者様は初めてお会いしました。
フレイ先生の遠縁で種族も彼と同じですが性格はフレイ先生に似ていないことに少しだけ安心しました。
リアムとエリカの話は街でもたまに聞きます。アイーシュに行く母によく付き添っていたそうです。
軍人志望でアルバイトもしていなかったのは彼とエリカだけだったようで、母が倒れないよう挨拶回りに付き添う頻度が多かったそうです。孤児院の外で母の話を聞くのは新鮮でした。
ですがエリカがリアムと今も関りを持っていたのは意外でした。他の軍志望同士一緒に鍛錬していたのは見ていたのですが、リアムはエリカが軍に行くことにいい顔をしていなかったので。
卒業して出て行った人が元気そうで安心します。
リナが表に出る頻度も減ってきました。
リナリア
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ウォルファング・ヴィスコ
春の陽気に恵まれる季節になった。そちらは元気にやっているだろうか。
竜人族について生憎こちらも調べる手立てが少ないのでなかなか調査が進まないでいる。学院に資料の複製依頼をして調べているが竜人族に関するモノは学院でも少ないのかもしれない。
フィアにかけた呪いは簡単なものだが、簡単であればあるほど強力だから他者に解けるものではない。
エリカとリアムに会ったようだな。
軍に上がった子供たちからの手紙はかなり少ないから君からの手紙で少しでも知ることが出来るのは嬉しく思う。
君も心身共に成長しているようで何よりだ。
王都は種族や身分など多種多様だ。孤児院にいた頃から話しているが、自分たちには理解出来ないような思想や価値観を持つ者はいくらでもいる。
フィア守るだけに注力するのもいいが君も気を付けるように。
ロイク・フォン・カレンデュラ
―――
女神歴2073年 5月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
初夏の兆しがあり暑い日が増えてきました。
そちらはお元気ですか。
春になったこともあってか暴走した獣の討伐依頼が来ました。
シャトーバニラの魔力を吸い取って巨大化した狼が複数頭出たので、弓が使えるという事から自分も討伐隊に加勢することになりました。
その際久しぶりにシャトーバニラの城門から出ましたが、シャトーバニラの城壁はいつ見ても圧巻されます。
狩りをするのは久しぶりでしたが弓の鍛錬は剣に続いて欠かさず行っていたので感覚はすぐに取り戻せました。流石にロイクのように一発で仕留めることは出来ませんでしたが狩ることが出来ました。
ちなみに討伐した狼の肉は夕食のシチューに入っていました。孤児院で食べた猪肉を思い出しました。
手紙を読みました。エリカに対して他のアイーシュにいるカレンデュラ出身の人たちに手紙を送って欲しいと話すと顔を曇らせていました。
どうか彼らを責めないでください。
ウォルファング・ヴィスコ
///次のページ
リナリア
こちらは初夏の暑い日が増えてきました。北の地域はまだこちらより涼しいことでしょう。
フィーが最近古い本を読むようになった。翻訳してない古い言葉の本だ。
初めはかなり解読に時間がかかっていたようだけど、途中から彼女にしてはすらすらと読めるようになってた。
どうやら他言語への理解力が高いらしい。流石に喋ることはできないけど彼女にそんな特技があるとは思わなかった。
リナリアも頑張ってるんだな。医者のことは分からないけど、平民には薬師がいるし、医者は貴族がなるものだと思ってたけど医者になるのか?
ターゲス大将の酒はティンクチャーを作るときに彼が使ってくれと渡してきた物だ。あの時は渡された酒がどんなものなのかは自分もフィーも気にしてなかった。
新しく入ってきたフィーの護衛だけど、またアリス仕込みの口説き文句を使おうとしている。お前の読み通りだ。
彼はフィーがターゲス大将の養女であるのは知っているみたいだけど男爵とか下級の貴族だと勘違いしているらしい。
ウォルファング
―――
女神歴2073年 6月某日
ウォルファング・ヴィスコ
にわか雨の多い時期になりました。元気にしていますか。
最近は診察に魔法を使うことが許されるようになりました。
雨の日は古傷が痛む人が多いです。フレイ先生が治り切っていないのに診療所に通うのを止めてしまった患者に小言を言うのを見かける頻度が多くなりました。
ベルガモット先生の指導で触診の方法を少しずつ教えてもらっています。フレイ先生は魔法で診ることが出来るので触診は得意ではないそうです。魔法が封じられたらどうするのでしょう。
魔力も精神も大分安定してきたと褒めてくださいました。
ここ最近のフィーについて手紙の内容から不安を抱きます。
私に色々伝えてくれるのはいいけど、心配かけさせるようなことばかり伝えて貴方に対して不信感を与えてどうするのですか。
リナリア
―――
女神歴2073年 7月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
夏の日差しが強まる季節になり、先日自分の毛刈りをしました。お元気ですか。
竜人族と言えば先週フィラデルフィアが呪術専門の教授から研究室に招待されました。
会話の内容としては竜人族なのに翼を出さないのは何か理由があるのかという疑問が教授にあったようです。
フィーが魔力暴発しそうになったのをロイクが止めた話をすれば、フィラデルフィア曰く教授の目が以前フレイ医師が向けたような目つきに変わられたらしくすぐに研究室から退出したようです。
その教授はミスター・ベンジャミンと呼ばれていました。
フィーの話によると彼から学院に来たばかりの頃に話しかけられたようです。呪詛返しのお守りを身に着けていたことに気付いたから興味を持たれたようです。
彼は現ベンジャミン家当主の弟君でした。上級の貴族家系出身でありながら権力に興味がなく、学院を卒業後も敢えて爵位を賜らず学院に残っては研究に没頭している人だそうです。
貴族にもいろんな人がいるようです。
オレンジ領の故郷に墓参りに行きます。
もしかしたらアイーシュにも行けるかもしれません。滞在はしない予定ですが到着する際は先触れを出します。
ウォルファング・ヴィスコ
―――///7月某日
ウォルファング・ヴィスコ
7月の手紙を確認した。
家には顔を出す程度の認識で問題ないだろうか。生憎こちらは大所帯故、お茶をもてなすことしかできない。
念のためガーベラとマーガレットには伝えておくが、期待しない程度に待っている。
ロイク・フォン・カレンデュラ
―――///7月某日
リナリア
伝言を頼む。
花を守らなければならない。
それと、会わせてやれなくてごめん。
ウル
―――
女神歴2073年 8月某日
ウォルファング・ヴィスコ
雨の恋しい時期が続きます。お元気ですか。
貴方の魔力の署名で手紙が来るなんて驚きました。そこまで近くにいたのですね。
伝言はすぐに父に伝えておきました。急を要することだったのでしょう。
ところで先日ある花の名を街で小耳にはさみました。その花を手折らんとする者がいたようですね。周囲の蝶や蜂は何をしていたのでしょうか。
蜜を奪い合っているうちに手折られてしまうのは貴方達も不本意でしょうに。
リナリア
―――
女神歴2073年 8月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
先日シャトーバニラに着きました。こちらの事情でお会いできなかったのは残念でなりません。
フィラデルフィアの話悪い噂が学院の中で鎮まりつつあるのは嬉しい限りですが、彼らからは同情の視線ばかりがあるような気がします。
その要因に自分らがあるので彼女には罪悪感があります。
先日アコナイト少尉、いや、ベノム元辺境伯からお茶会に招待されました。
その数日前、フィーが突然ターゲス大将からドレスをプレゼントされて恐れおののいていましたがさらに緊張で震えていました。
自分もどんな話をしていたのかほとんど覚えておりません。
しばらくはこの隊が出来たばかりのメンバーで護衛を担当することになりそうです。
ウォルファング・ヴィスコ
///次のページ
リナリア
シャトーバニラは木々が少ないので木陰が恋しくなります。
最近避暑地という言葉を知りました。それはきっと貴女のいる場所を指すのでしょう。
この前の手紙は魔術の手紙で孤児院に直接飛ばしたら先回りして取られる危険もあったからリナリアに送ったんだ。
オレンジ領の自分らの親の墓参りに行ってた。本当はアイーシュにも行きたかったけれど行けなかった。
ロイクはガーベラとマーガレットにしか伝えてなかったらしいけど、リナリアには申し訳ないと思う。
先日ターゲス大将から服を貰った。フィーも同様に。
父親からのプレゼントだって言ってたけど、送られた物が物なので畏れ多い。
特にフィーのものは一着だけ貴族用のドレスが入った。フィーは震えてたけどドレスが送られた理由はすぐに分かった。
ターゲス大将も懇意にしているある貴族の女性からお茶会の誘いが来た。
普段は騎士の恰好しか見てなかったからこの人も元貴族なんだと思った。
軍でよく思うけど貴族家系は、魔力が少ない分筋肉質だからよほど怠惰なやつ以外は体格が大きい人が多いように思う。
流石にターゲス大将ほどの巨漢は中々いないけど、大きいし、魔力の要らない戦闘は強いと思う。小さい頃からよく食べているからというのもあるかもしれない。
蜜を占領しようとした不届きものの蜂はすでに駆除した。
ウォルファング
―――
女神歴2073年 9月某日
ウォルファング・ヴィスコ
秋の気配を感じる日が多くなり、彼女が去ったあの日を思い出します。
この場所は彼女が去ってから一段と寒くなりました。
十歳になる子達が婚姻のチョーカーを作る練習をしていたのですこし見学しました。何十年経っても痛まないようにするための魔術陣を刻むそうです。
マーガレットおばあさんのチョーカーが何十年経っても痛まないほどですからその効果は案外凄まじいのかもしれません。
フィーが纏ったドレスは一体どんなドレスだったのでしょう。
きっと彼女の髪も伸びていることでしょうし、さぞその時の彼女は美しかったのでしょう。大人しくしていれば。
ドレスがどんなものなのかガーベラ姐さんが見せてくれました。
姐さんが友人から贈られたものですが貴族が着るようなモノとは程遠いと言われましたがそれでも彼女によく似合う美しい服でした。
ちなみに一緒に見ていた他の女子がお下がりして欲しいとおねだりをしましたが、マーガレットおばあさんが「大切な人から貰ったものだから、ねだったら駄目よ」と言っていました。そのドレスを送った人とは一体誰でしょうね。
そのガーベラ姐さんから後日昔のことを教えてくれました。姐さんも孤児院に入る前の出来事がきっかけで男性が苦手だったそうです。
おそらく私は十三歳になったらみんなと同じように孤児院を出られるでしょう。だからその時に私はどうするか選択を委ねられているのかもしれません。
貴方は過去怖いものがありましたがそれは今も貴方にとって怖いものでしょうか。
リナリア
―――
女神歴2073年 11月某日
リナリア
秋も深まり、味覚の多い季節となりました。
巨大化した獣の討伐を行う日が増える時期となりました。軍の中で配り切れない肉は街の肉屋にも卸されます。
大分落ち着いてきましたが、ここまで多いのは異常なのだそうです。内乱が終わって人が増えてきたからでしょうか。
孤児院での立場はどうあれリナリアが普通の女の子であることに変わりないでしょう。
事実ロイクはリナリアを甘やかすことはあっても外で働くことを許してくれたのですから。
自分は今も怖いものは怖いです。炎は触れたら火傷するし、フィーは本気で怒るとターゲス大将も頭が上がらなくなります。
この前フィーが作ったお菓子をつまんでいると、後ろには本物の竜だと勘違いしそうな怒りを見せたフィーがいました。
ウォルファング・ヴィスコ
―――
女神歴2074年 1月某日
ウォルファング・ヴィスコ
雪が多く積もる季節になりました。しばらくは手紙が届きにくい時期が続きそうです。
診療所は冬になっても大工の工房のように休むことはありません。雪の中歩くのは大変ですが通い続けています。
冬は雪かきで怪我をする人が増えますし、風邪を引く人もいます。たまに餓死した浮浪者の検死依頼も来ます。
私の魔法についても先生たちによる研究がなされています。
年が明けたらルーク兄さんが出て行きます。春までは師匠の家で冬の手仕事として工芸品を作るそうです。
まだ修行の身でしょうが、彼は細かい作業が得意ではないので出来るのか不安です。
先月の手紙ですが、私宛てにやたら丁寧に手紙を書いてくれましたが、どうせ父に見られたくなかったからでしょう。
でもありがとう。
リナリア
追想の短編集 伊藤 猫 @1216nyanko
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