ウォルファングの手紙 - 1
ウォルファングとリナリア、時々ロイク
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///六月某日
孤児院のみんなへ
お久しぶりです。そちらはいかがお過ごしでしょうか。
フィーは今どうしてるでしょうか。元気にしていますか。
二ヶ月のブートキャンプが終わりました。そこから同期達は地方へ行くことになりましたが、自分は少年兵としてしばらく訓練をするようです。自分は読み書きも計算もできるのに一から勉強しないといけないなんて聞いていた話と違います。
ですがエリカに会いました。エリカは孤児院を卒業してからも背が全く伸びてませんでした。でも髪は伸びてました。孤児院では散々おれを打ち負かしていたエリカでも、軍で出来ることは限られているそうです。でも文字や計算が出来たので書類仕事を任されているそうです。
エリカは仕事があるだけでも十分だと強がっていましたが、その顔を見た時なんだか自分までやるせなさを感じました。
そんなエリカでも恋人がいるそうです。なんやかんやでちゃっかりしています。
とりあえずおれは元気です。
フィーは今どうしていますか。手紙を書いて欲しいと伝えておいてください。
ウォルファングより
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///六月某日
ロイクへ
そちらはいかがお過ごしでしょうか。
フィーは今どうしてるでしょうか。元気にしていますか。
もう聞いているかもしれませんがターゲスさんの養子に入りました。
養子が決まったのと同時に異動先も決まりました。
読み書きも計算も国の歴史や地理もロイクの授業で聞いていたことをターゲスさんが教官に話せば異動はあっさりと了承してくれました。
前からそう言っていたのに手のひら返しをされた気分です。
ターゲス大将は父というより師匠のイメージが強いです。自分は小さいので大将の弟子たちと組手などの鍛錬を積まされますが気に入られているのか、やたら肉を食わされます。
ちなみに稽古の日は戦場下の食事を想定して自分たちで調理をしないといけないのですが、手伝いながら隣で見ていて不味い料理が出来る気がしたので、全部自分でやったらいつの間にか自分が兄弟子の先輩たちに料理を教えを請われるようになりました。
どうやらターゲス大将の弟子は純血主義の貴族の子弟ばかりだったようで、剣を持ったことはあっても包丁を持ったことがなかったようです。
あと異動先の上官にも会いました。
名前は忘れましたが白うさぎの騎士でした。剣で試合をしました。最初は受け流されるだけでしたが、すぐに負かされました。
女みたいな顔をしているのに強いなんて酷すぎませんか。
ウォルファングより
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///七月某日
ロイクへ
少年兵の隊から異動しました。上官の名前はアリックスです。あだ名はアリスでした。
最近貴族の偉い人を護衛している想定での訓練を行いました。
俺の知っている良い貴族はロイクとターゲスさんしか知りません。良い貴族なら守りますが、悪い貴族なら見捨てるかもしれません。先輩たちも文句を言ってましたが、アリスが「嫌いなのは分かるけど表立って悪口言ったら罰を受けるのはこっちだよ」と言いました。先輩たちからすれば年下なのになんだかアリスが子供を叱る親に見えました。
アリスは一応良いヤツですが良い貴族かは分かりません。アリスは奥さんがいるにもかかわらず色んな女を口説いています。人たらしなのでフィーだけではなく、孤児院の女子たちにも近づかせたくないと思いました。
魔族ばかりで編成された小隊ですが、どうやら新しく作られた軍なようで、内乱の時に戦場で戦ったことのある人ばかりです。顔に傷の付いた人が多かったです。
異動してからも勉強しないといけません。貴族に対するマナーだそうです。文句を垂れそうな先輩たちも真面目に練習していました。すごいなと思いましたが、アリスが「その喋り方の方が女の子たちにモテるよ」と言ったからだそうです。
でも傷だらけの顔で綺麗な喋り方をするとなんだか怖いので女の子は寄ってこないと思います。
訓練以外では、警備の仕事に回りました。最近は王城の門の前で立っていますが、長時間立つのもかなり疲れます。たまに道を聞かれますがそれくらいしかすることがありません。
他の仕事はないかと聞きましたが、先輩に一度も勝てないのでダメだと言われました。本当のことなので悔しいです。
フィーは元気でしょうか。全く手紙が来てませんがどうしてますか。フィーの様子を教えてください。
ウォルファングより
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女神歴2072年 7月某日
ウォルファング・ヴィスコ
夏の暑さが厳しくなる時期ですがいかがお過ごしでしょうか。
父が私に課題としてあなたへの手紙を書くことを頼まれたので代筆といたします。
前回の手紙に記載している内容からあなたが聞きたい内容はフィーのことでしたね。
最近のフィーですが、学院進学の許可を貰うための課題を受けている最中です。内容は父を魔法や魔術なしで負かすことです。
父を負かすためにルーク兄さんが魔法でフィーの身体に重石を乗せて走らせていました。
応援しているのでしょうがフィーが可哀そうです。なので父にその特訓を見てもらうようにお願いしました。
~中略~
睡眠については寝不足というわけでもないけど、うなされている日がたまにあります。
ネネが眠りの魔法をコントロールできるようになってきたので、夜寝る前にこっそり魔法をかけてくれますが、フィーの夢の中を変えることはできないようです。
魔法で眠らせても気休め程度にしかなりません。
~中略~
ウォルもまだ子供なのでどうせ出世できないだろうと私は思いました。
ですがどうしてあなたがターゲス卿の養子になれたのかますますわかりません。どんな約束をしたのでしょう。わいろでも渡したのでしょうか。
そんなあなたに頼むのも癪ですが一つだけ頼みがあります。あなたの上官であるロータス卿にハンカチを返してくれませんか。
以前、私がアイーシュで転んでしまった際に頂いたものです。父から聞いた話、かの方は迎春祭の準備で視察に来ていたようです。
私ではその方に直接お返しする事が出来そうにありません。絶対とは言いません。もしあなたも返すのが無理だったなら私に返してください。
リナリア
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追伸
忙しない日々を送っているようですが、あなたの手紙の内容はひどすぎます。
本当に父の授業を受けていたのでしょうか。あまりにも頭の悪そうな文章でめまいがいたしました。
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女神歴2072年 8月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
夏の暑さが厳しい季節ですが、ロイクはいかがお過ごしでしょうか。
私は自分の故郷やカレンデュラ領がいかに涼しい土地か思い知らされております。
手紙の内容にさぞ違和感を持たれていることでしょう。
この手紙を書く三日前、自分が孤児院に送る予定の手紙をロータス少尉に見つかってしまい、書き直されました。
かしこまった手紙を書くスキルは騎士には必要だと言われたら文句も言えません。
ちなみにこの手紙も他の先輩方に確認されます。どうせ検閲で確認されるのだと言われると文句が言えません。
リナリアから手紙が届きました。
フィラデルフィアのことがたくさん書かれており、様子が知れてよかったのですが、彼女のことだけで手紙が四ページを超えていました。
手紙には貴方が出した課題だと書いてありましたが彼女の書いた手紙は読んだのでしょうか。事細かくフィラデルフィアのことが書いてあったので逆に怖くなりましたし、最後に「本当に父の授業を受けていたのでしょうか。あまりにも頭の悪そうな文章でめまいがいたしました。」と書かれていました。
追伸だったので後で付け足したのでしょう。リナリアの性格は一応知っているつもりでしたがここまで毒を吐く女だとは思いませんでした。
父親としてリナリアにはきつく言い付けておいてください。
ここ最近筋肉痛とは違う痛みがします。成長痛だと先輩たちは言いますが確かに背も入隊した頃より大分伸びました。
ですが隊服の裾や袖を伸ばすだけでは間に合わず、先輩たちのお下がりを着ています。
久しぶりにターゲス大将にお会いした時も身長について真っ先に言及されました。彼の側近たちも自分の姿を見て同じような反応をしてました。せっかく成長したのにこれでは素直に喜べません。
フィラデルフィアのことですが、試験勉強だけではなく試練を与えていたようですね。
自分も未熟な身であるため、彼女が強くなることには否定しません。養父になるターゲス大将も多忙なため、守り切れないことも多いでしょう。
ですがロイクは手加減というものを知らないのではないでしょうか。本当にフィラデルフィアを魔術学院に行かせる気はあるのでしょうか。
今まであなたから手紙が来ていないため、返事は期待していませんが、彼女の意志を砕けさせることはしないでくださいよ。
ウォルファング・ヴィスコ
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リナリアへ
手紙を送ってくれたから返事を書く。
リナリアからの手紙をアリスに見られたせいで隊長や他の貴族の先輩たちから手紙の書き方を教えられるハメになった。もうそれは散々だ。
字の練習や書類の書き方は軍に上がってからもやっていたけど、まさか手紙の書き方を覚えさせられるなんて思ってもいなかった。
リナリアの字がきれいなのは認めるが、リナリアは他のみんなの字を見たことがあるのか?
みんなの手紙や字を見ていないのに自分の手紙にケチ付けるのはどうかと思う。
さてはあの手紙全部リィが書いただろ。
ハンカチはちゃんとアリスに渡した。彼も覚えてた。本人はあげるつもりで渡したらしいから返されると思ってもなかったそうだ。
リナリアもよく相手の名前を覚えてたな。あの時アリスに口説かれたんじゃないか?大丈夫だったのか?
ターゲス大将のことだけど、わいろを出す金はないし貰うような相手でもない。
フィーのついでだったとしてもどうして養子にしてくれたのか自分でも分からない。
騎士の間でも後継者を立てるために弟子を養子にすることはあるらしいんだけど、大将は弟子を取っても養子をとることは一度もなかったらしい。
そういえばリナリアがターゲス大将を恩人だと言っていたとフィーから聞いたけど、リナリアはどこの村の出身なんだ?リィなら覚えているんじゃないか?
フィーが頑張っているのは分かった。
だけどリナリアはフィーが出ていくのを反対しているのだと思ってた。
ウォルファング
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女神歴2072年 9月某日
ウォルファング・ヴィスコ
秋の味覚が増えた時期となりました。あなたもきっと忙しくしながら元気でいるのでしょう。
私の書いた手紙が他の人に見られるなんて思いませんでした。私が知っているフィーを手紙に残さなければよかったと後悔しています。
父とターゲス卿の手紙はすべて読み終わったら燃やすようにしているそうです。
もう遅いですが私が書いた手紙はすべて燃やしてください。
それでも伝えておかないといけないことはあるので伝えておきます。
フィーが父を負かしました。
おそらく父も手心を加えたのかもしれません。だけど勝ったのは事実なので今はあの子も学院の編入試験のための勉強に専念しています。
並行で勉強はしていたみたいですが、足りないところがあるのでしょう。
試験は魔術水晶で監視されながら行うようです。
父を倒してからのフィーは大人になったような気がします。
一度だけ中々父に敵わなくて拗ねたことがありましたが、その時に彼女が父と何を話していたのか分かりません。
けれどその頃からフィーは何か決意したような目で父を見るようになりました。あなたが目標ではないことは確かです。
質問の返事ですが、ハンカチを返してくれてありがとう。
でも書いた手紙を上官に確認させるはずなのによくもまあ「口説かれた」なんて書きましたね。
ロータス卿は男の人の匂いがしたのに女の人のようだったので驚きました。
でも医者のフレイ先生のこともあるので、あの時はそういう人なのかもしれないと思っていました。
ターゲス卿とあなたの関係についての事情は分かりました。
手紙の内容からして、あなたは貴族と近い仕事をしているのでしょう。
父にも子供達に教えられない秘密があるように、貴族の行動一つ一つが弱みにつながりかねないのなら仕方ありません。
ということは私の手紙の情報はフィーの弱みになりかねないということでしょう。今後は書かない方がいいかもしれません。
ターゲス卿は私の命の恩人でした。
ろくなご飯もくれず、私のことを金づるだと思っていた男から私を引き離してくれた人です。
でも私は高熱を出してしまい、記憶もおぼろげだから引き取られた経緯もほどんど覚えていません。
生まれた場所も南方地域のどこかだったことは覚えています。水も緑もないひどく荒れた土地だから町の名前もないかもしれません。
フィーが学院に行くことになり、(ここから一行黒く塗りつぶされている)
あなたがフィーと一緒にいられるのがうらやましくてたまりません。
リナリア
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女神歴2072年 9月某日
ウォルファング・ヴィスコ
実りが増え秋の気配を感じる時期になった。
こちらは冬支度の計画をしている最中だ。家でも皆病に臥せることなく元気にやっている。
君がカレンデュラ家を出てから半年近く経とうとしているが、今まで手紙を送れず申し訳ない。送られてきた手紙はガーベラ共々すべて読んでいる。
フィラデルフィアについてリナリアとやり取りをしているが、リナリアに課題と言ったのは方便だ。
フィアに詳しいのはリナリアだから書かせることにしたがやり取りが続いているようで何よりだ。
リナリアは手紙を燃やせと書いているが燃やさなくていい。
君もリナリアもフィアのことを大切に思っていることは理解できるが、リナリアのアレは自分がフィアをつきまといよろしく観察していたことが見ず知らずの他人にバレた羞恥によるものだ。
なのでせめて読むなら周囲に人がいないことを確認してからにして欲しい。
ちなみに私がこれを君に伝えたことはリナリアに言わないでくれ。頼む。
君も上官に教えられながら書いているようだが、手紙の書き方を教えなかったのは申し訳なかった。大分かしこまっているが、私に対しても身分を気にせず家族や友に送る気持ちで書いて構わない。
とはいえ手紙はよく書けているのは私も誇らしく思う。この一、二年で字を学んだとは思えないくらいには字もきれいに書けている。
成長痛については家でも時々そういったことを訴える子供はいた。睡眠をしっかり取るなり筋肉をほぐしてやるくらいしか思いつかない。
あとは精神面だが君も夢見が良い方ではなかったな。あまり自分を追い詰めるようなことはしないように。
ターゲスが君を気に入る理由はおおよそ理解できる。君は純血だ。筋肉が育つ見込みがあると判断したのだろう。背の伸びが早いのもそれが要因かもしれない。
思う存分しごかれるといい。たくましくなった君を見るのを楽しみにしている。
ロイク・フォン・カレンデュラ
追伸
11月にフィアが王都に入る。彼女をよろしく頼む。
―――
女神歴2072年 10月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
秋の季節となりました。カレンデュラではそろそろ冬支度の頃かと思います。
ロイク殿におかれましては、ご壮健であらせられるかと存じますがいかがお過ごしでしょうか。
手紙の書き方ですが、本当なら十三になる前に授業のどこかで学ぶものだったのでしょうが、自分は必要最小限しか学んでいませんでしたから仕方ありません。
リナリアについては善処します。
フィーがシャトーバニラに来てから、自分は上官の指令で彼女の護衛をするようになりました。
彼女は本人が思っているよりも、貴族の子女に嫌われているようでした。
再会した時には既に左頬が鱗に覆われており、教師に話を聞けば授業で火傷を負ったようです。
会話の雰囲気から他の学生から火を炙ったことがうかがえました。守れなくてごめんなさい。
呪詛返しのお守りを持っているのと、護衛がいるので直接的な嫌がらせは受けていないようですが、どうしても陰口は消えません。
フィーは最近菓子作りをすることが楽しみだそうです。
故郷でも果物を使った菓子があったので作った記憶があります。フィーが作ったのもそれが基本となっているようで、食べた時少しだけ懐かしく感じました。
でも作りすぎたから自分を護衛してくれた人全員に配ると言い出したときは正気かと思いました。本気だったようで自分も手伝わされました。
でも配ってみると案外好評でした。特にターゲス大将が好感を持ってたように思います。
ウォルファング・ヴィスコ
///次のページ
リナリアへ
最初にリナリアに謝らないといけないことがある。
フィーの左頬が火傷した。約束したのに守れなかった。ごめん。
あと今更、手紙を見られたことに対して言い訳になるけど、軍の寮は孤児院のような自分の持ち物を入れる棚がない。階級によってはあるかもしれないけど今自分がいる寮はそうだ。
それに女お互いの部屋の出入りも基本的に自由だ。
だから自分の上官が暗殺者のように気配を消して自分が手紙を書いている最中に背後から手紙を覗き込まれた。ついでにおどかしてくるので心臓に悪い。
今はターゲス大将の家に居候することになったから自分の部屋もあるし、容易に手紙を見られることはないから安心して欲しい。自分も見せないようにするから。
ロイクから手紙が来た。
自分の手紙を読んでいないと思っていたので読んでいたことに安心した。リナリアから手紙が来るまで届いてないんじゃないかと思ってたから。
だからフィーのことは自分が出来る限りのことは伝える。
ロイク宛ての手紙にも書いているけど、フィーは最近菓子作りにはまっているらしい。
きっかけは食糧庫で砂糖を見つけたかららしい。砂糖がターゲス大将の家にあるなんて思わなかったけど大将も好評だった。
自分が住んでいた村でも果物を育ててたからその菓子を女達が作ることがよくあったから食べた時驚いた。北方の砂糖ならもっと近い味になったかもしれない。
最近知ったけれど上級の貴族には人から貰った食事は毒見をさせる習慣があるらしい。
貴族出身の先輩達が他のみんなが食べる反応を見るまで食べなかったから不思議に思ってたけど、アリスからその話を聞いた時はお貴族様も大変なんだなと思った。
ちなみにフィーに友達が出来た。
黒髪の平民を反逆者の象徴だと言って非難していたらしい。本人は南方地方出身じゃないし、軍人にも南方地域出身の奴はいくらでもいるのに酷いものだ。
烏族の女子だ。同じクラスで実家が商人みたいで宝石に詳しかった。ちなみに長い黒髪だったけど髪質はルークと似てた。
リィはフィーが好きなんだな。
ウォルファング
―――
女神歴2072年 11月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
この手紙が届く頃にはそろそろ雪が降り始める頃でしょうか。
こちらはカレンデュラと比べればまだ暖かいです。
ようやく自分の成長痛が治まりました。ロイク殿にはご心配をおかけしました。
けれどまだ成長が止まらないので先輩の隊服のお古を着回す生活は続きそうです。
学院はとても広く、フィラデルフィアがその学生であることが未だに信じられません。広大な敷地故、以前は馬車が使えたらしいですが今は使っている人をほとんど見かけません。
時々魔術道具を使っている教授を見かけますが、魔力が多い者でないと使えないのか魔力が少ないらしい人達は恨めしそうに彼らを見ていました。
フィラデルフィア現在授業の合間に図書館で呪いに関する本を調べています。
専門の教授に伺うことができたらよかったのですが、教授も貴族なら彼女にいい顔をするとは思えず、彼女も同じ考えのようであるため、自力で調べているようですが手詰まりのように見えます。
手伝えたらよかったのですが自分は護衛であるため側から離れることはできません。
フィラデルフィアは自分の先輩方から「お嬢」と呼ばれるようになりました。
ターゲス大将の養女だからということもあるのでしょうが、第一に彼女が貴族じゃないと知ったからでしょう。本来なら「お嬢様」とお呼びするのが正しいのですが、隊長のロータス少尉もこれには黙許している状態です。
自分が所属している隊は身分関係なく内乱時に激戦地で直接戦ったことがある者が多く、堅苦しいのが苦手であるようで気さくに話せる彼女を気に入ったのでしょう。
信頼できる人が増えるのは喜ばしいですが、ロータス少尉が彼らに仕込んだ口説き文句を彼女に使うので困ります。
口説かれた本人は理解できなかったようで頬に手を当てて首を傾げるという困った素振りをしていたので自分は安心しました。
ですがそれをターゲス大将担当の家政婦に愚痴こぼし程度に話すと、家政婦はフィラデルフィアと話をすると言って彼女の部屋に入り一時間ほど二人で話をしていました。
フィーは詳細に説明を受けたようで翌朝顔を合わせた時、気まずそうな顔でこちらを見てきました。正直知らないままでいて欲しかったですが身を守るためだと家政婦は言いました。
家政婦は貴族ではないのですが仕事柄騎士とも関わることがあるため、彼らからの誘いから躱すための術を学ぶのだそうです。
ウォルファング・ヴィスコ
///次のページ
リナリアへ
最近のフィーのことだけど、髪が少しだけ伸びて上半分だけ結べるようになった。
前は白いリボンを頭に付けてたけど最近は髪飾りを付け替えるようになった。黄色や青い髪飾りはリナリアが作ったんだな。
ロイクがあげた魔術の付いたリボンは火傷した時に燃えたんだそうだ。学院に来た時は種族を隠してたから。
自分も魔術道具をあげたけどロイクのが燃えたのを気にして使わなくなった。
最近知ったけど、兄妹でも血のつながりがなければ結婚できるらしい。
自分は内心うれしかったけれど、フィーは青ざめてた。そんな話をした相手のことを怖がっていたっていうのは理解できるけど正直ショックだった。
街中で手を繋いで歩いたのを同じクラスの女子に指摘されても、フィーは「弟だから」と言うだけで照れることもなかったくらいだ。
照れていた自分が恥ずかしいくらいだ。
リナリアはもしルークがリナリアをそういう目で見たら怖くなるのかって考えた。
年の近い知り合いがリナリアしか思い浮かばなかったからだけど、リナリアは男が怖いから孤児院の兄弟も関係ないんだって思い出した。
多分リナリアは今の自分を見たら怖いんじゃないかと思う。自分はもうとっくにフィーの背を越しているから。
今まで恥ずかしくて言えなかったけど、自分はフィーが怖い。
アイツが暴走した次の日くらいに、泣きながら自分が暴走した時のことを話して、久しぶりにアイツの本心を聞いて、フィラデルフィアは本当に女になったんだって思った。
フィーは元から女だしどう説明したらいいのか分からないけど、子供じゃないみたいだった。
なぁリィは(文字が黒く塗り潰されている。)寒くなるから、フィーみたいに薄着で風邪引くなよ。
ウォルファング
―――
女神歴2072年 12月某日
ウォルファング・ヴィスコ
雪の降る日が増え、庭で遊べる日も減り、家のみんなと談話室で過ごす日が増えました。
先月は手紙を出さずごめんなさい。初雪が例年よりも早くて手紙を出せなかったの。
それでもフィーのことを教えてくれてありがとう。
髪飾りは商会に売るために内職で作ったものだけど、ガーベラ姐さんがフィーの荷物に入れたのでしょう。
使ってくれているのなら良かった。
折角作ったのにフィーが髪を切ったからってリィったら直接渡さなかったの。髪なんてすぐに伸びるのに。
兄弟でも結婚出来るっていう話だけど、私はルーク兄さんとは考えられない。他の兄や弟も同じ。
でもそれは男の人が怖いからじゃない。
母さんが言ってたけど、結婚ってずっと一緒にいたい相手とするものだそうです。わたしはルーク兄さんをそういう風に見てません。
フィーの過去はわたしも分かりません。
でもウォルは大馬鹿者です。
そんな事でめそめそしてるウォルは身体が大きくなっても弱虫ですね。
あなたの身体が大きくなるようにフィーの心が変わるのも当たり前のことです。
リィじゃないけど、どんなに姿が変わってもわたしはフィーのことが大好きです。
父さんへの手紙も読みましたが己を守るために強くなることは許すのに、心は無垢でいて欲しいなんて傲慢です。
私もリィの、孤児院に入る前の記憶があります。何も知らない女が行きつく先は貴方が想像できないような場所です。私も孤児院に行かなければ数年後にはそんな場所に行くところでした。
だからこそわたしはウォルみたいな人にフィーを渡したくありません。
今のウォルは今のフィラデルフィアを否定しているんだもの。
たとえウォルがリナとリィを分けて接してくれた人だととしても、今のフィーを否定するウォルは嫌いです。
それならリィがフィーをもらったほうがまだマシです。
だってリィはまだ怖がりで意地っ張りだけど本当はもっと強いのです。本当はわたしが要らなくなるくらいには強いのですから。
リナリア
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