第15話 vsデシウルフ
フィリアに迫るデシウルフ達は次々に吹き飛んでいき、エルビスの魔法が辺りを駆け巡る。気迫の声と唸り声が互いに響き合い、そこはまさしく戦場だった。そんな護衛団優勢の雰囲気が続き、次第にソラの緊張もほぐれていく。
「よし……ぼくだって……!!」
ソラは気合を入れ直し再び剣を握りしめる。この日の為にひたすら海を泳いだ。強くなる為に無心で剣を振った。リーネとマザーを取り戻す為に感情と向き合い、一人で旅立つ日を目指して研鑽を
「自分の感情と向き合え」
エルビスの言葉が蘇ってくる。今のこの感情は信頼だ……あれだけの事をしてきたぼくをぼくは信じている。だから後は、一歩踏み出す勇気を出すだけ……ぼくならやれる……!!
ソラの足が動き出す。周りを見渡し魔物が抜け出してきそうな方へ進むと……来た。デシウルフが団員の間を突破し、こちらへ突っ込んでくる!
剣を構え重心を落とし、まずは相手の初手を
ソラは落とした重心を滑らせる様に横へ移動させ牙を躱すと、魔物の背後に回り込み剣を振るう!
背後からの一撃でデシウルフは怯むが……浅い。背中に一太刀浴びた魔物は、更に気性を荒くさせた。喉を鳴らし、牙の間からは唾液が垂れ出す。明らかに目つきが変わったその魔物は、身を
その動きを目で追うが横に回避しても避けきれない。ソラは瞬時に判断すると迫る牙を剣で迎え撃つ。直後、牙と剣がぶつかり鈍い音を立てた。
「く、くそ、、」
魔物の一撃にソラは体勢を崩される。しかし牙は防いだ。ここらから反撃の一太刀を繰り出そうとしたその時、牙に遅れてデシウルフの鉤爪がソラの横腹を襲う!! 衝撃に耐えきれずに飛ばされたソラは、そのまま地面を転がり距離を取った。革鎧を着ていなければ危なかった。それでも衝撃は腹部に響き、ソラの表情は歪む。
しかし魔物はその好機を逃さない。間髪をいれずにソラに襲い掛かる!! 崩れた瞬間を逃すまいと最短距離で迫るデシウルフ。ただ、ソラもそれを見逃さなかった。直線的に飛び掛かってくる攻撃を横に転がり避けては、すぐさま背後を取ると、渾身の一撃を叩き込む!! その一撃は初撃より更に奥へと刃を食い込ませ、手には魔物を切る感触が直に伝わってくる。短い唸りを上げたデシウルフは、振り返ることもなくその場に倒れ込むと、再び襲い掛かってくることはなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……よし」
腹部に鈍い痛みが残っている。それでも、目も前の勝利に小さく拳を握り締めた。
その様子を、後方から視界に収めていたエルビスの表情も僅かに緩む。気が付けば、フィリアも直ぐに駆けつけられる位置で戦っていた。 二人の魔法使いに見守られたソラの初戦は一撃をくらったものの、何とか勝利を掴む事ができた。
「ソラ! やるじゃない! 流石、私が鍛えただけはあるね!」
フィリアのその言葉に、ソラは自信に満ち溢れた表情を浮かべた。
「フィリア、エルビス! ぼくはまだまだ強くなる! 二人に負けないくらい強くなってみせるよ!」
ソラは振り返り二人の方へと視線を向ける。今までの努力が結果となって表れたのだ。ソラは全身に喜びを浮かべ、二人には真っ先にこの事実を伝えたかった。しかし、相手は魔物。そんな感情に浸る隙は見逃さない。背後から二体のデシウルフが駆け出してきた。接近に気が付かないソラ。その好機に更に速度を上げる魔物達。戦いの音で地面を蹴る音は掻き消され、二体は鋭い牙を剥き出すとソラに飛びかかっ──
「
「
──って来た魔物達は、強い衝撃波と瞬間的に襲う光の矢に吹き飛ばされる!!
ソラは背後からの衝撃に姿勢を低くし振り返ると、二体のデシウルフが倒れていた。
「あちゃー褒めるの早すぎたかぁ」
「感情に向き合えと……帰ったら瞑想だな」
頼もしい笑みを浮かべる魔法使い達。ソラは二人に信頼の眼差しを向けると、再び剣を握り気持ちを切り替えた。
「いつかあの二人を超える魔法使いに……」
そう呟き、再び戦場に身を投じるソラ。その後も迫る魔物を斬っては避け、避けては斬るを繰り返していると、ようやく諦めたデシウルフの群れは山へ引き返して行った。
「はぁはぁはぁ、勝った……ぼくもこれで……」
ソラはとっては激しい戦いだった。その場で倒れ込み晴天の空を見上げる。そこには、さっきまでの喧騒が嘘のように穏やかな景色が流れていた。
「さぁ! 負傷した人は私のところにきて! 後の人は倒した魔物を街に運び込もう! 今日も騒ぐぞー!」
あれだけ動き回っていたのに、一人元気にはしゃぎ回っているフィリア。エルビスも団員達に指示を出し、この後に開く
今回も無事に勝利を収め、団員達が門の中へ魔物を運ぶと次々に歓声が上がっていた。
門の外では指示を出し終えたエルビスがフィリアを呼んだ。街中は既にお祭り騒ぎであったが、二人の表情はどこか険しい。
「フィリア、気が付いたか? 今回は明らかに魔物の量が多い。いくらデシウルフの群れとはいえ、これだけの数が来ることなど今までになかった」
団員達の前では明るく振る舞っていた彼女だったが、この時だけはいつもの明るさが見えない。
「確かにそうね。何かいつもと違う様な……嫌な予感がするかも」
険しい表情で話し込む二人。その後ろでは団員達が次々に魔物を街へ運び、その度に歓声が上がっていた。
そんな団員の一人が、寝転がり感情に浸るソラを抱き上げ肩車をすると、そのまま門を潜って行く。すると、街の中は今日一番の歓声が上がり、住民からは祝福の声が飛び交う。ソラは全身に祝福を浴び、どこか照れくさそうな表情をしている。
魔物達が運び込まれ、夜にはデシウルフの肉が街中で振る舞われた。陽が落ちても煌々と明るいサンティオーネの街は、辺りに広がる薄暗い自然を照らしてゆく。
そんな頃。街とは対照的な程に静かなその山には薄暗い雲が広がり、強い風が森を騒つかせていた──
感情のソーサラー よるのとびうお @yorunotobiuo
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