第14話 護衛団の戦い
リーネは一人、祈りを捧げていた。ただ、いまだに感情を抱く事は難しく、いつものシスター達を真似をしているだけ。
「随分と様になってきましたね」
不意に後ろから声がかかった。シュレイロードだ。
「ここに来るだけでも良いのです。その姿は必ず、フロディア様が見ているはずですよ」
穏やかな声が礼拝堂の中を
「シュレイロード様は、なぜ祈りを捧げるんですか?」
純粋で透き通った眼差しがシュレイロードに向けられる。それは子供であるが故の問いであるのか、感情を失い何かに
「私はね、私でなくなることが怖いんだ。」
リーネはそれを聞いても分からなかった。もし、感情が残っていれば、予想外の返しに目を丸くして驚いてただろう。この街の為に、愛を伝える為に、愛を広める為に。リーネはそう言った答えを想像していた。
「祈らないとシュレイロード様ではなくなってしまうのですか?」
そう言う事になりますね。と、冗談めかした笑みが溢れる。
「昔、この街は魔物の襲来が酷く、とても荒んでいたのです。そんな中でも私には力がなく、毎日祈るしかありませんでした。無力である私は、フロディア様に縋る以外になかったのです。けれど、護衛団が結成され、魔法使いが現れ、次第に魔物から自分たちを護れるようになった。人々は護衛団に、領主の私に感謝をしてくださいましたが私はただ、祈り続けただけ。決して私が救った訳ではないのです」
だから、無力な私が祈る事を辞めてしまうと、私ではなくなってしまう気がするのです。リーネ君にはまだ難しいですかね。
そう笑うシュレイロードの奥に、決して無力ではない程の力強さが見えた気がした。
……カンカンカン
遠くで魔物を知らせる鐘の音が響く。
魔物達が来たみたいですね。今回は護衛団とと共にソラ君も出ているでしょう。私達は彼らの為にも、祈りを続けましょうか──
──ここはサンティオーネの山側。街に続く門を抜けた先で、数十人の護衛団が魔物を待ち構えている。各自、剣や革鎧の最終的な手入れを行っている。
「エルビス様! 先程、デシウルフの群れが山を下ってくるのを確認しました!」
報告を受けたエルビスはすぐさま指示を出す。
「門を中心にして扇型に展開しろ! フィリアは中心で回復を、俺は後方から魔法を打ち込む! いいか! 森から抜け出た所で迎え撃つぞ!」
「「「おおー!!」」」
エルビスの闘志に周りが呼応してゆく。彼らは何度も撃退してきたのだろう。表情には余裕が見える。一方ソラは、フィリアのすぐ後ろで剣を構えているが、体が強張っているのが伝わってくる。
「あれだけ体力もつけた! 剣だって打ち込んでたんだから大丈夫! 私達も側にいるよ!」
革鎧を着たフィリアが優しく微笑む。それを見たソラは気持ちが和らいだのか、体の強張りが少しだけ取れていった。だが、それもすぐに元に戻る。
木々が慌ただしくなってきた。鳥は飛び立ち、風が強まる。次第にデシウルフの鳴き声が近づいてくる……
「来るぞ……」
木々を揺らしていた風が止まった。ソラの額を汗が伝い、手には力が籠る……来る。
一瞬の静寂が流れたその時、草むらから先頭のデジウルフが飛び出してきた!! その後に続いて何十匹もの魔物が流れ込んでくる!!
「十分に引き付けて陣形を崩すな! 迎え撃て!!」
「「「うおおおおおー!!」」」
先頭では人と魔物がぶつかり出す!! 飛びかかる魔物を避けては斬りつけ、剣を振るう。その間を抜けてきた魔物は内側に構える団員が斬りつける。
しかし、一体では脅威にならないデジウルフも数が多いと脅威になる。一度に何体からも狙われる先頭では、とても
「く、数が多すぎる……!! うわっ、く、うおおー!!」
一体を
「希望の魔法……
団員の間を針の穴を通すが如く一筋の光が駆け抜ける!! 後方のエルビスから放たれた魔法の矢は、今まさに食い込もうとしていた牙を吹き飛ばした。
「はぁ、はぁ、流石エルビス様! うおおおお!」
先頭の団員も、エルビスの援護射があるからこそ剣を振り続けられるのだろう。その後も次々と矢を打ち込み、間を抜けてきたデジウルフを射止めていく。
かく言うフィリアも守られている訳ではない。負傷者の回復が終わり次第、すり抜けてきた魔物と相対して行く。
「親愛の魔法……
全身に光を纏うフィリア。中でも一際大きい光が拳に集まって行く……
「ほらほら! どんどん行くよ! 皆んな飛んでけー!」
フィリアに飛び掛かり牙を剥き出しにしたデジウルフ。その牙を体を
未だに魔物と対峙していないソラは、護衛団の戦いとその迫力に見惚れ、動けずにいた。
「すごい……これが皆んなの戦いか……」
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