16

 湖の縁に、わたしは吸ってないピースを一本だけ挿しておいた。代わりにその場に落ちていたフェンダー・ジャズマスターをもらうことにした。これでトレードオフ。だってこのギター、麻樹にあげるためにわたしが買ったんだもの。わたしの勝手にさせてもらうよ。

 陽が完全に昇ったころ、やっと遠くからクルマの音が聞こえてきた。もちろんそれは木下だった。彼はわたしがすっころばしたスーパーシェルパの隣に停めると、倒木をよじ登って湖畔までやってきた。

「大丈夫ですか? ひどい怪我だ!」

 木下は大慌て。だけど、わたしはわりと冷静だった。

「いいの。むしろ心スッキリなのよ」

「……そのギター、麻樹君のですね。彼はいたんですか?」

「うん、いたよ。もう逝っちゃったけどさ。ねえ、ゴールデンバットちょうだい。ピース終わっちゃったの」

「構いませんが」

 彼はそのタバコを寄越す。

 マッチじゃなくて、彼のジッポで火を点けてみたんだけど。どうして廃盤になったこれを未だに吸えているのか、やっとわかった。これ、廃盤になる前に買い溜めしといたやつなんだ。おかげでなんか妙に湿気っぽいわ。マズい。こんなん思い出の味にはならないよ。

「ねえ、一つ訂正したいんだけどさ」

「なんですか?」

 彼も同じタバコを銜え、火を点ける。よく見たら彼も美味しそうには吸ってなかった。マズそうに吸ってた。

「これ、正確には麻樹のギターじゃないの。わたしが買ったギターなの。麻樹のやつに似せて」

「そうなんですか?」

「そう。だから、このギターの生殺与奪の権はわたしが握ってるのよ」

「えっと、それで?」

「つまりよ」

 わたしはストラップを外す。ロック式じゃなくて、エンドピンに取りつけるタイプ。だからすぐに取れた。

「つまり、そういうことなの」

 そういうことなの。


「えい、やっと」

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今日は墓場までドライブしよう('Cemetery Drivers') 機乃遙 @jehuty1120

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