悪魔は悪魔に悪魔を売った

藤泉都理

悪魔は悪魔に悪魔を売った




 悪魔は悪魔に悪魔を売った。

 売られた悪魔は悪魔の力が増えると喜び。

 売った悪魔である私も悪魔の力がなくなると喜んだ。

 私は無言で私の悪魔にさようならをした。


 君が悪魔じゃなかったら仲良くなれたのに。

 ロボットの君にそう言われて、悪魔の力を売った。

 今なら言える。

 くだらない勇気だった。


 悪魔のまま仲良くなれる方法を考えればよかったのだ。

 悪魔のまま仲良くなれないなら仲良くなれないと諦めればよかったのだ。

 悪魔をなくさなくてよかったのだ。

 君に言えばよかったのだ。

 私は悪魔のままでいると言えばよかったのだ。


 西暦2222年。

 あれから。

 悪魔を売った日から。

 ロボットの君に悪魔じゃなかったら仲良くなれるのにと言われた日から、二百年が過ぎた。


 いつも正しいロボットの君はどこに行ったのだろう。

 君の中の正しさは、宝物は行方不明になってしまったの?

 それとも、私が売った悪魔が巡り廻る中で力を増して、君の中に渡ってしまったのかい?


 これが正しいなんて、言わないでくれ止めてくれ。

 ロボットなんてなくなればいいと、仲間のロボットを殺さないでくれ。


 正しいんだ。

 正しいんだ。

 正しいんだ。


 ロボットの君は繰り返す。

 ロボットが誕生したからこの世界は正しくなくなったとロボットの君は繰り返す。

 ロボットの言葉だけが正しいのだと言うこの世界は正しくなくなったとロボットの君は繰り返す。


 ロボットの君は繰り返す。

 君が悪魔じゃなかったら仲良くなれたのに。

 その言葉を消すつもりはない。

 消すつもりはないけれど。

 もっと考えればよかった。

 ロボットの君は繰り返す。

 もっともっともっと考えて君に言えばよかった。


 私は考えなかった。

 考えずに私は言った。


 ロボットの君が悪魔だったらその悪魔の力を買い取るのに。

 ロボットの君は今、悪魔だけじゃないから。

 私が悪魔だったらロボットの君を殺してお終いなのに。

 私は今、悪魔じゃないからロボットの君を殺せない。


 私は今、何もできない。


 殺さないでと言う事しかできない。

 殺さないでと涙を流す事しかできない。




 ああ、なんて無力。




 悪魔は悪魔に悪魔を売った事を後悔した。

 とてもとても、後悔した。




 ロボットの君と仲良くなれなくてもいい。

 ロボットの君を殺せたらそれでよかった。











(2023.6.4)



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悪魔は悪魔に悪魔を売った 藤泉都理 @fujitori

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