第22話 落城02

「なんて無責任なご主君なのでしょう」



 ダンテが吐き捨てるように呟くとレインは目に怒りを滲ませた。



「なんだと……」



 レインが詰めるとダンテも睨み返す。



「今やわたしたちは逆賊。帝国は敵なのです!! ここでもたついている間にも事態が悪化していくというのに……家族と一緒に死ぬ?? 街と一緒に灰になる?? 無責任なことを言わないでください!! あなたはウルド国の次期藩王、『砂漠の狼王ウルデンガルム』の後継者なのですよ!!」



 ダンテは逆にレインへ迫って語気を強める。それは、悲観的になっているレインを鼓舞するような口ぶりだった。



「レインさまがたおれたら誰がウルドの潔白を証明するのですか!! 逆賊の汚名を誰が晴らすというのですか!!」

「……」

「ロイドさまとサリーシャさまの無事が確認できない今、レイン・ウォルフ・キースリングこそがウルドの未来なのです!!」



 両親の名前まで持ち出されるとレインは何も言えない。気づくとダンテの後ろには生き残った若い兵士たちが集まってきている。みんなはダンテの言葉を聞いて奮い立ち、目には再び戦意を宿していた。



──僕は彼らの先頭に立たなければならないんだ……自暴自棄になるな……。



 レインは燃える街並みや崩壊した城郭を見ながらつるぎの柄を強く握りしめた。絶望している時間はない。理不尽な襲撃に対する怒りを飲みこみ、静かにダンテへ尋ねた。



「……ダンテ、僕はどうすればいい」

「ここは一刻もはやくウルディードを落ち延びて再起をはかるべきです。わたしたちが最後までお供いたします」

「……わかった」



 レインが頷くとそれまで黙りこんでいたジョシュが進み出る。ジョシュはちらりと横目でダンテを確認したあと、レインに向かって口を開いた。

 


「レイン、俺をロイドさまとサリーシャさまの所へ向かわせてくれ」



 ジョシュが頼みこむとベルが慌てた顔つきになる。



「だ、だめだよジョシュ!! レインを守って、みんなで脱出する。そう決まったじゃないか!!」



 ベルは必死に引きとめようとするが、ジョシュは静かに首を振る。どこか思いつめた顔つきでレインを見つめた。



「レイン、どうか俺に名誉挽回の機会を与えてくれ……頼む」

「……」



 ジョシュはレインがヴァイスに襲撃されたことを今でも悔やんでいる。『刺客を討ちもらしてレインの名誉を傷つけた』という思いがいつも心に引っかかっていた。そのことはレイン、ダンテ、ベルもそれとなく気づいている。レインの代わりにダンテが答えた。



「仕方ありませんね。あなたは言い出したら聞かない人ですから」



 ダンテは宮殿のある方角を向く。



「いいですか、ロイドさまとサリーシャさまを見つけたら隠し通路を使って脱出してください。お二人が見つからない場合もすぐに逃げるのですよ」

「わかってるよ」

「『ジクードの丘』で夜明けまで待ちます。いいですね?」

「ああ」



 ジョシュは覚悟を決めている。レインも友と両親の無事を願いながら頷いた。



「ジョシュ、父上と母上を頼む」

「心得ました。レインさまもどうかご無事で……」



 ジョシュは威儀いぎを正して頭を下げる。そして、数名を引き連れて駆け去ってゆく。レインたちはジョシュを見送ると中庭をあとにした。

 

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極夜の狼─ウルデンガルム─ 綾野智仁 @tomohito_ayano

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