第22話 落城01

 敵はすべての弩砲をウルディードの街へ向けたらしい。中庭への爆撃はやんだが、街中ではさらにいくつもの火柱が上がっている。だが不思議なことに、街中から城門に通じる大通りには攻撃が加えられていない。きれいに道の両側へ着弾していた。



──炎が城内への道しるべになっている。これは敵がウルディードの正確な測量を終えているあかし。これは昨日、今日に計画された襲撃じゃない……。



 レインは燃え盛る街並みを見下ろして奥歯をギリッと噛んだ。すると、隣に立つジョシュが大剣の柄を強く握りしめながら呟く。



「俺たちが何をしたっていうんだ……?」

「「「……」」」



 レインだけでなく、誰も答えることができなかった。再び爆撃が始まるかもしれないのに、みんなは呆然としてその場を動けずにいる。街が焼き尽くされる光景は、『ウルドを守るために戦う!!』と意気込んでいた兵士たちの戦意を挫いた。何とも言えない徒労感や虚無感がみんなを支配していた。



「レインさま!! レインさまはおられますか!!」



 ほどなくして一人の兵士が中庭へ駆けこんできた。顔は黒くすすけ、鎧には返り血を浴びている。苦心してやってきたのが一目でわかった。兵士はレインの前までくると息を荒げたまま片膝をつく。



「レインさま、わたしは正門を守備する部隊の伝令です。敵は弩砲どほうによる攻撃を行うために一度引きましたが、間もなく再び押しよせてくるでしょう」

「敵とは誰だ!? いったい何が起きている??」

「敵はアレン皇太子殿下の麾下きか、ヘリオス将軍が率いる皇軍およそ1万5千!!」



──アレン皇太子殿下の皇軍が!?


 驚いたレインはしゃがみこんで兵士の肩をつかんだ。


「どうしてだ!? なぜ、アレン殿下の兵士が僕たちを襲うんだ!?」

「それは……」


 兵士は答えずらそうにしていたが、転がる帝国軍の兵士を見たあとおもむろに顔を上げた。



「リリー殿下が挙兵なさったからです」

──リリーが挙兵だって!?



 レインが驚いて言葉を失うと、兵士はレインの目を真っすぐに見つめて続ける。


敵方てきかたの口上によれば、リリー殿下が皇位簒奪こういさんだつ目論もくろんで挙兵、ガイウス大帝を襲撃したそうです。ロイドさまとサリーシャさまも反逆に加担しているとか……ヘリオス将軍は逆賊を討伐する朝廷軍。我らウルドは逆賊となりました」

「……」


──そんなバカげた話があるか!! 父上と母上が帝国を裏切るわけがない!! リリーだって僕との結婚式を控えていたんだぞ!!


 簡単には信じられない話だった。どう考えてみても、言いがかりにしか思えない。レインは両親や婚約者を想って心が散々に乱れた。


──とにかく父上と母上、そしてリリー殿下を救いに行くんだ。でも、どうやって父上や母上を探し、リリー殿下と合流すればいい?


 レインが思案していると黙って見守っていたダンテが進み出る。


「レインさま、ことの真相は不明です。ここは一刻も早くウルディードを落ちびましょう」


 ダンテは落ち着きはらった口調で進言する。レインはそんなダンテを睨みつけた。


「ダンテ、は僕に『両親や婚約者を置いて逃げろ』というのか?」

「さようです。レインさまに何かあれ……」

「だめだ」


 ダンテが言い終わらないうちにレインは言葉をさえぎった。


「僕は家族を置いて逃げたりはしない。婚約者を見捨てたりしない。もし、ウルディードが焼け落ちるなら、家族と一緒に灰になる」


 レインの決意は固い。しかし、感情的になるレインを見たダンテは口元に冷笑を浮かべた。

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