レア・ドロップ・ファンタジー ~最高級モンスターは死にたくない~

夢泉 創字

PROLOGUE

その魔物、最高級。


「いたぞ! アイツだ!」

「でかした! 絶対逃がすなよ!」


 はいはい。また金に飢えた亡者たちがやって来ましたよ。資本主義のピッグ。醜いったらありゃしない。

 それじゃあ今日も張り切って! ミュージックスタート!


「これで俺たちも億万長者だ!」

「馬鹿、油断すんじゃねぇ!」


 一目散のテーマ

 作詞・作曲:オレ


「なっ!?」

「くそっ、やっぱ速ぇ!」


 ♪宝石背負って身体キラキラ

 ♪伸びて来る手を避けてヒラヒラ


「なら範囲攻撃だ! やっちまえ!」

「分かったわ! 辺り一面燃やし尽くすわよ! ギラ・ゼルフレイム!」

「僕も合わせます! ギラ・ゼルボルト!」


 ♪メラメラ炎、クルクル回避

 ♪ビリビリ雷、ビュンビュン退散


「嘘!? 今のを避けた!?」


 ♪命大事に一目散

 ♪今日も今日とて

 ♪ヘイヘイヘーイ!!(やけくそ)


「諦めんな! ぶっ倒れても良い! 全員でありったけをぶつけろ!」


 あぁ、どうしてこんな事になったんだろう。

 迫りくる何十もの攻撃魔術の雨を避けながら、オレは転生した直後の事を思い返していた。



◇◇◇



種族:レジェンド・ハッピーブリンガー

レベル:1

体力:5/5

魔力:2990/3000

攻撃:1($)

攻撃(魔):1($)

防御:151

防御(魔):151

敏捷:334

特性:転前知/非戦の契り($)/賢者の階/七星獣/魔力回復/異常耐性

魔術:『ステータス・オープン』/『バベル・アウトプット』/『バベル・インプット』

状態:正常


 ステータス画面。それはRPGなんかに良くある、現時点での能力値や状態異常を分かりやすく表にしたモノ。

 異世界転生の物語では、何もない空間へ任意で出現させたりできる仕様となっている事が少なくない。

 病院で検査したりせずとも自身の身体の詳細を知ることが出来るのであり、それだけで十分チートじゃねぇかと思っていた前世が懐かしい。

 そう。今のオレは、そんな力を操れる存在。事故で呆気なく死んで、気付けば剣と魔法のファンタジー世界へと転生を果たしていた。


 ――まぁ、正直言って、滅茶苦茶嬉しかったよ。

 しかも。最初に見たステータス画面が上記のモノであった時の感情と言ったら。

 転生先が人間じゃなくてモンスターだった事など、至極どうでも良くなった。

 だって「レジェンド」だよ? 絶対凄いと思うじゃん。異世界転生勝ち組待ったなしじゃん。

 それを裏付けるように能力値だって凄まじい。

 無論、他のモンスターの能力値や人間の平均値といった比較対象は何も知らなかったけれど、それでも凄まじい能力値であることは一目瞭然。

 まず目につくのが『3000』などという尋常ではない数値を示す『魔力』。さらに『防御』が『151』で『敏捷』が『334』。それらが初期状態『レベル1』のステータスだと言うのだから、これをチートと言わず何とする?

 加えて。『特性』とやらにも何やらイカした言葉が並んでいる。『賢者の階』『七星獣』『非戦の契り』。うん、やっぱり超カッチョ良い。しかも、恐らくはオートで消費した魔力が回復していく『魔力回復』。更には、毒とかを防ぐのであろう『異常耐性』と来た。もはやボスエネミーみたいなステータスである。最高じゃん。

 『魔術』とやらも至れり尽くせり。ステータスを見るための魔術が『ステータス・オープン』。そして、違う世界の言語を理解出来るのは『バベル・アウトプット』と『バベル・インプット』のおかげなのだろう。昨今、転生・転移しても言語が分からず苦労する系の物語も多々あった故、この待遇は素晴らし過ぎる。転生万歳。世界は美しい。

 懸念があるとすれば。

 最大値が『5』の『体力』と……そして何より『1($)』という意味不明な数値を示す『攻撃』。

 5と1という明らかに低い数値。ただ、これはレベルが1だからと考えれば納得も出来よう。そもそも、防御力があれば体力など低くても何とでもなる……はず。

 しかし、一体全体なんだ『$』って。特性の『非戦の契り』にも付いてるけども。……まさかのドルですか? メリケン通貨ですか? てりやきバーガー食べたい。


 ま、うだうだ考えても仕方ない。このステータスを見れば、今後の方針は簡単に決まる。

 とりあえずの基本方針は高い『敏捷』と『防御』を活かしてのヒット&アウェイ。それでレベルを上げて行って、戦闘用の魔術を習得。無尽蔵の『魔力』を活かして遠距離から一方的に魔術の連続発動。強敵を仕留めて更にレベルを上げ、低い『体力』や『攻撃』を伸ばして強くなっていく。

 強くなれば、そうそう簡単には死ななくなる。前世のように早死にすることもなく、悠々自適に異世界ライフを満喫できるだろう。

 ああ、なんという明るい未来設計図! 誰だか知らんが、こんな最高の能力値で転生させてくれてありがとう!

 待ってろ、ハッピーファンタジーライフ! あと可愛い異世界美少女!

 ここからオレのめくるめくチート無双の冒険が始まる――



◇◇◇



 ――とか思っていた時期が、オレにもあったんだけどな。


種族:レジェンド・ハッピーブリンガー

名前:プレアー

レベル:20

体力:5/5

魔力:34360/36000

攻撃:1($)

攻撃(魔):1($)

防御:665

防御(魔):665

敏捷:987+


 はい。こちらが長く苦しい道の果てにレベル20へ到達したステータスです。

 ……お判りいただけただろうか。

 そう。そうなのだ。攻撃と体力が微塵も成長しないのだ。

 レベル10くらいまではさ、遅咲き晩熟のステータスかなって、大器晩成系かなって自分を騙し騙し突き進んだけども。

 流石にレベル20ともなれば理解する。このモンスターは元よりそういう種族なのだと。攻撃によって敵を倒すのではなく、高い防御と敏捷によって逃げ回り生き残ろうとする生態なのだと。

 確かに、魔力はチートそのものだった。最初3000だった魔力値は、今や36000。普通の雑魚モンスターがレベル1で100程度。レベル20で2000くらいと示せば、この数値が如何に異常なモノか分かることだろう。

 それが何を意味するのかと言うと――


「嘘!? あの魔法陣の数、まさか深奥魔術!?」


 ――こんな風に。魔力消費がエグ過ぎて誰も使えないような魔術もバンバン使えちゃう。

 因みに、この魔法はエクラ・ゼルフレイム。漆黒の炎で周囲に存在する全てを焼き尽くす大魔術。さっき人間の魔法使いさんが放った第三深度魔術「ギラ・ゼルフレイム」の四段階格上。第七深度魔術であり、世界を滅ぼそうとする大魔王とかが使用する領域。島とか消し飛ばすヤツだな。

 そんな魔術を俺はバンバン放てちゃうんですよね。えぇ、そうです。超チートです。

 でもですね――

 

「気にすんな! こけおどしだ!」


 ――はい。大正解です。

 どんなダメージ計算式なのか皆目見当が付かないのだけど、どれだけ強力な魔術でもダメージ1になってしまう。多分、$とやらが全ての元凶。『非戦の契り』とは良く言ったもので、そもそも攻撃手段が無いのだ。

 ちなみに、雑魚モンスターでもレベル1の段階で体力200くらいはある。クソったれ。


「この野郎、ちょこまかとぉおおおおおお!!」


 黒炎に怯まず吶喊してきた青年。彼が剣を振り下ろして――。

 あ、ヤバい。これ直撃するやつだ。


「ついに捉えたっ!」


 体力が5から4に減ってしまった。あと4回当てられたら死ぬ。

 これもクソ仕様。どれだけ守備力を有していようが、相手の攻撃値が低かろうが、攻撃を食らえば必ず1ダメージは受けてしまう。つまり、体力が5しかない俺は5回攻撃を受けたら死ぬって事。

 やっぱりハイレベル冒険者×60の相手は流石に無理がある。

 勝ち目なんか最初から無いんだよね。――相手を倒すという意味であれば、だけど。


「な、なんだ!? 急に光り出したぞ!」


 そんなオレに勝ち目があるとすれば。

 それは――


「気にすんな! どうせ張りぼてだ!」


 見せてあげるよ、恐れられる禁忌。第八深度魔術ってヤツを。

 ゼタラ・ミア……


「いや、何か変だ! これまさか…」


 ……ッ!!

 やっぱ、逃げるが勝ちしかありえないよね。



◇◇◇



 ゼタラ・ミアテレポート。

 魔力13000を消費して放つ魔術。レベル20の魔力値でも2回が精々の超魔術。

 第七深度が地形を書き換えるならば、第八深度は世界を書き換える。自らが“そこにいる”という事実を捻じ曲げ、世界のどこかにランダム転移するという術だ。

 そんなわけで、どうしようもない窮地を脱するのに適している……のだけど。

 これ行き先が本当にランダムだから、運が悪いと――


「これは珍しい客人だ。カモがネギを背負って歩いてきたわい」


 ――こういう事になる。


「宝石運び。その宝石を寄越せ」

「あのー、聡明なるドラゴン様なら知ってるとは思いますが、これ渡したらオレって死んじゃうんですよ」


 転移先。目の前に居たのは世界でも頂点の領域に位置する生物、ドラゴン。

 しかも、全くもって取りつく島も無さそうな感じ。ま、いつもの事なんだけれども。


「構うものか。貴様など所詮、賢者の石の材料に過ぎぬ。我が糧となれる事に歓喜せよ」


 人間も。魔物も。龍も。或いは神ですらも。

 みんながみんなオレの背中に1つだけある宝石――オレが成長するに従って巨大化していく宝石を狙っている。

 『賢者の石』とやらを作る為に必要な7つの秘宝。その内の1つを。


「どいつもこいつも、そんなに永遠の命が欲しいか!」

「無論だ。疾く死ね、宝石運び」


 今すぐテレポートを使うと魔力が足りなくなって3回目のテレポートは出来ない訳で。転移先が街中とかだったら詰んでしまう。もう少し魔力が貯まるまで逃げ続けなければならない。

 故に。これより始まるは絶望的な第2ラウンド。

 

「ほんとさぁ! 毎度のことながら、鬼畜過ぎて泣きたくなるよねっ!」


 これがオレの日常。世界中の存在から命を狙われる日々。

 お願いします。誰か助けてください。



◆◆◆



――魔物図鑑――

ハッピーブリンガー

◆種別:精霊

◆大きさ:10㎝~30㎝(1メートル以上の巨大個体の目撃例も有り)

◆特徴

 一般に、『宝石運び』や『幸せ運び』などと呼ばれる魔物。厳密には魔物では無く精霊の一種。

 『スライム』種に似ているが、尖った三角形が2つ頭の上にある。転生者は口々に『ネコの耳に似ている』と語るが、これが実際に聴覚器官に該当するかは不明。スライム種と同様に足は無いが、小さな手を有する点で明確に異なる。

 この種の最大の特徴は背中に背負った宝石。一個体につき一つの宝石を有し、この種類によって『ダイヤモンド・ハッピーブリンガー』や『エメラルド・ハッピーブリンガー』などと分類される。また、宝石は通常の鉱物と区別して『ブロートジュエル運ばれてきた宝石』と呼ばれる。

 ハッピーブリンガーは誕生の瞬間から背中に小さな宝石を有し、この宝石は肉体・レベルに伴って成長していく。そして、この宝石が無くなったり壊れたりすると死んでしまう。長く生きたハッピーブリンガーの宝石は非常に巨大で美しく、古代より装飾品や美術品として重宝されてきた。加えて、通常の鉱物よりも遥かに多くの魔力を蓄えることから魔術触媒として優れ、武器や防具の素材として広く使われている。

 以上の理由から、ハッピーブリンガーの宝石は非常に高値で取引されてきた。

◆ステータス

 この種は背負う宝石によってステータスが大きく変動する事でも知られる。

 基本的には『体力』『攻撃』が低く、『魔力』『防御』『敏捷』が非常に高い。

 この為、せっかく運よく遭遇しても仕留める前に逃げられてしまう事も珍しくない。

◆余談

 需要は高く、ハッピーブリンガーのみを討伐する『宝石狩り』や、その宝石を加工する専門家も存在している。

 ハッピーブリンガーは自然発生的に誕生する精霊であり、交配によって誕生させることが出来ない。その為に養殖が現実的では無く、ブロートジュエルの希少性を高め続けている要因の1つとなっている。

 ※ごく稀に異なる種類の宝石を合わせて背負う個体や、複数の宝石が混じったような宝石を背負う個体が見つかることもある。これらは交配して誕生した個体ではないかと提唱する学者も少なくない。未だ多くの謎に包まれた存在であり、生態の研究は活発に行われている。

◆関連項目

▽エデル・シュタイン:ハッピーブリンガー研究の権威

▽ゲンマリウス6世:ハッピーブリンガーに夢中になった事で知られる歴史上の偉人。

▽逃がした宝石は輝いていた:有名なことわざ。目の前でブロートジュエルに逃げられることに由来。

▽盗賊と宝石運び:ハッピーブリンガーが登場する有名な童話。古今東西、登場する物語は多い。

▽レジェンド・ハッピーブリンガー

 ハッピーブリンガーの希少種。その中でもレジェンド種と呼ばれる滅多に誕生しない存在。

 『七星獣』と呼ばれる特別な7種の魔物の1種。七星獣から得ることが出来る7つの素材が『賢者の石』の材料であり、レジェンド・ハッピーブリンガーの背にある宝石『レジェンドジュエル』はこの1つ。『賢者の石』はあらゆる願いを叶えるとされ、不老不死さえ可能とすると伝えられる。

 レジェンドジュエルは世界で最も魔力蓄積・魔力伝導に優れている。高レベルのレジェンド・ハッピーブリンガーから採取したレジェンドジュエルは想像を絶する魔力を蓄える事が可能。古今東西、これを武器として用いた英雄が歴史を大きく動かしてきた。

 しかし。その存在は伝説と言う言葉すら生ぬるい。元より発生する事が稀である上に、非常に脆弱で発生しても直ぐに死んでしまう。時折見つかるレジェンド・ジュエルは何らかの要因で死亡したレジェンド・ハッピーブリンガーが落としたモノ。ほぼ間違いなく低レベルの段階で死んでしまっており、宝石は全く成長していないことが普通。小さな宝石でも十分触媒として優れるものの、『賢者の石』の材料として使う事は出来ない。

 『賢者の石』の材料として使用する場合は最低でもレベル15の個体が必要と伝わるものの、そこまで成長できる個体が存在するかは大きな疑問が残る。




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