エピローグ

 美緒は現代の服装に着替えて、背中には赤いランドセルを背負って、社の前に戻る。

「天史郎さん、ゆーちゃん。短い間だったけど、お世話になりました」

 美緒はペコリと二人に頭を下げる。

「美緒。元の世界に戻っても、無理するなよ? んで、いつでも俺たちのところに来ていいからな」

「頑張りすぎちゃだめよ。あんたはまだ子どもなんだからね」

「うん! じゃあ、行ってきます!」

「「行ってらっしゃい」」

 美緒は1人で暗い森の中に入っていった。


 やがて、赤い塗装が剥げた鳥居を抜けた。

「……帰って、来たの、かな?」

 その時、横から強い光が目に入り、思わず手で目元を覆った。

「美緒? そこにいるのは美緒か⁉」

「お父さん?」

「美緒!」

 父親は走り寄り、美緒を力強く抱きしめた。

「無事でよかった。本当に、よかった。さあ帰ろう。お母さんが待ってる」

「う、うん」

 父親に手を引かれて帰ると、母が飛んできた。

「美緒!」

 父の時と同じように、力強く抱きしめられる。母はそのまま泣き出した。

「ごめんね、美緒! 私、わがままを言わないからって美緒に全部任せっきりで、挙句の果てに手を上げるなんて、母親失格だわ。本当にごめんなさい! 無事に帰ってきてくれてよかった!」

 美緒は母の体に腕を回した。

「お母さんは、何も悪くないよ。でも、これからはちゃんとほめてほしいな」

「えぇ勿論! いっぱい褒めてあげる!」

「美緒、これからはお父さんも一緒に、家事を手伝うからな」

「うん!」

 美緒は満面の笑みで頷いた。その時、美緒の体を放した母親が、胸元の勾玉に気づいた。

「あら? 美緒、それは?」

「これ? 大切な人たちからもらったの。これがあれば、また向こうの世界に行ける」

「「向こうの世界?」」

 両親はそろって首を傾げるが、美緒は笑うだけで、詳しくは話そうとせず、大事そうに、胸元の勾玉を両手で包んだ。

(天史郎さん、ゆーちゃん。ありがとう。また、会いに行くからね)

 その思いに答えるように、勾玉がきらりと光った。

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大江戸妖怪町 岡本梨紅 @3958west

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