遠い日の思いに

清瀬 六朗

遠い日の思いに

あの日にはずっとテレビを見ていたねガラスの向こうにあじさいの花


君と観たアニメ映画のような空ひろがる夏を疑わなかった


願うこと次つぎかなうという実感そをユーフォリアというんだよと君


不器用にトラック走り巻き上げる白いほこりがただまぶしくて


始まりはこういうものか春浅きカフェーの窓からおどる春の日


ぼくは見ず斜め向かいに居るひとの新聞の字を君は追ってた


人多く進む通りに立つ桜節度があるねと君はたたえた


幸福な錯覚一つまた一つ試練が来るのに目をかがやかせ


ほほめて万人ばんにんの願い語る君ひとりの祈りを覚えているか


偶像に君の願いは届いたか君の願いは何だったのか


らぬにこころの距離が開いてた湿しめ満ちた六畳の部屋


り出て行く君を見送った会えなくなるとは思いもせずに


ガラス映える背高きビルが林立し「造成地」の語は死語となり果つ


ふと口をついて出た「もう若くない」失笑されるよわいとなって


雨ならばいつかはやむよひとときも雲切れぬまま日暮れとなりぬ


ホルストの「土星」の響き心にみどうにもできずによるは更けゆく


夜の街ホワイトノイズが覆いたり強き驟雨しゅううの近づくを知る


ひどい目にったと笑い傘たたみ君帰りまぼろしを見る


別れなど望んでいないこんな夜に君の訪れここで待ってる


遠い日の思いにいまは届けたい未成みせいのままのぼくの祈りを

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遠い日の思いに 清瀬 六朗 @r_kiyose

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