お姉ちゃんと私〜緩くてちょっとだらしないけど、頼りになるお姉ちゃん〜

路地裏の本棚

憧れの渚沙お姉ちゃん

「渚沙お姉ちゃ~ん、来たよ~!」

「今行くよぉ~」


 ジリジリとした真夏の太陽の下、けだるげな声がインターホンから聞こえてきた。


(相変わらずだなぁ~)


 そう思いながら待っているとガチャリとドアが開いた。出てきたのは、薄手のノースリーブに長けの短いホットパンツと言うかなりラフな格好をし、ウェーブがかった栗色のロングヘアのお姉さん、久住渚沙くすみなぎさお姉ちゃんだ。


「おはよう、渚沙お姉ちゃん」

「おはよう~美咲ちゃん……」


 寝ぼけ眼をこすりながら緩い感じで話しかける渚沙お姉ちゃん。見た目は確かにだらしがないし、実際ちょっと緩くてだらしのないところがある。今年高校1年生になった私こと天霧美咲あまぎりみさきより3歳年上の大学1年生で、都内の難関女子大に進んだ才媛なんだけどね。


 でも私は渚沙お姉ちゃんが大好きだ。私が幼稚園の時に隣に引っ越してきてからの幼馴染で、憧れの人なんだ。


「暑かったでしょ~? 中に入って~。クーラーがめっちゃ効いてるよ~」

「うん」


 渚沙お姉ちゃんに勧められ、私はサンダルを脱いでお邪魔した。



――――――――――――――――――


 渚沙お姉ちゃんの部屋に入ると、かなりガンガンにクーラーが聞いていた。


「ちょっと寒いね……」

「外は36度で、ここは26度だからねぇ~」

「流石にもうちょっと上げた方がいいなぁ~」

「うう~ん。でもこれくらいじゃないと汗かきそうなんだよねぇ~」

「電気代だって勿体ないと思うよ」

「そう言われるとぉ~反論しにくいなぁ~」


 ちょっと残念そうな声を漏らしつつ、渚沙お姉ちゃんは部屋の中央の丸テーブルの上に置いてあったリモコンを操作して温度を上げた。


「29度まで上げてみたよ~」

「ありがとう」


 そう言いながら、私は丸テーブルの近くに腰を下ろした。


「麦茶とお菓子を持ってくるよぉ~」


 渚沙お姉ちゃんはそう言いながら部屋を出た。渚沙お姉ちゃんっていつもはこんなにだらしがなくて緩い感じだけど、高校時代は女子校で生徒会長を務めて、学業成績も優秀で運動神経も抜群。でも家庭科の実技だけは苦手で料理も裁縫もできない。

 それでも苦手なりに努力してたけど、大学生になったらそこから解放されて完全に私生活ではだらしなさ全開になっちゃってる。


 私は今日、渚沙お姉ちゃんに夏休みの宿題で分からないところを教わりに来たんだけど、同時に渚沙お姉ちゃんが食生活も含めてだらしないことをしてないかを、今夫婦旅行中の渚沙お姉ちゃんのお母さんから頼まれているの。


 私の場合は渚沙お姉ちゃんと違って料理も裁縫も得意だから、万が一にも渚沙お姉ちゃんの生活に問題があったら料理を作ってあげてねって言われてる。


「お待たせ~」


 そうこうしていると、渚沙お姉ちゃんが麦茶とチョコ・ポテトチップス・お煎餅などのお菓子を持ってきてくれた。


「ありがとう、じゃあ早速なんだけど、数学の宿題で分からないところがあるから教えてくれる?」

「……ふふっ、いいわよっ」


 お菓子と麦茶を丸テーブルに置くや否や、渚沙お姉ちゃんは急に伊達メガネをかけてキリッと姿勢を正し、丁寧に私が分からないところを教えてくれた。数学の公式の使い方とか、理科の周期表の暗記の仕方とか、英語の文法表現の使い方とか、本当に分かりやすく教えてくれて助かる。流石は学年1位を取ったこともある秀才だ。


「ありがとうお姉ちゃん。後は自分で何とかできそう」

「ふふっ、それならよかったよぉ~」


 そう言うと渚沙お姉ちゃんは伊達メガネを外してゴロンとその場に寝転がった。


「……もぅ」


 やるべきことが一通り終わるとこうなる。小学校に上がってから勉強を見てもらうたびにこういう姿を見てきたけど、ふふっ。本当に勉強を見てもらってる時のキリリッとした渚沙お姉ちゃんとは違う。でもそのギャップに私はいつもドキドキしてる。


(やっぱり渚沙お姉ちゃんは可愛いなぁ……)


 小さい頃から何となく可愛いとは思ってたけど、ギャップ萌えに目覚めたのっていつ頃からだろう? 思い返してみると、渚沙お姉ちゃんが高校生になった時の学園祭の時には既にそう思い始めてた。


 勉強を見る時以外のだらしのない姿とは大違いで、他のクラスメイト達に的確な指示を出してみんなを纏めてたし、家事を除けば頼りがいのあるクラス委員長ってみんなからも慕われてたっけ。


 ある意味でズルいかもしれない。可愛いし頼りがいもあるし、でも欠点もあってそこが魅力になっていて……。私もそんな渚沙お姉ちゃんの魅力に惹かれてる1人だけどね。


「ところで渚沙お姉ちゃんは夏休みな何か予定とかあるの?」

「そうだねぇ~。特にないなぁ~」

「海とか山とか、行けるところはたくさんあると思うんだけど」

「海に行くのはしんどいしぃ~。かと言って山に行くのも足腰が疲れるしぃ~」

「でもせっかくの夏休み。お姉ちゃんだってずっと家にこもりっきりは勿体ないと思うよ?」

「んんん~。そうなんだよねぇ~」

「……じゃあ、プールはどう?」


 プールならそこまで遠出せずに済む。この近くにもそうだし、渚沙お姉ちゃんの通ってる大学の近くにもプール付きのレジャー施設はたくさんあるもの。これは我ながらいいアイデアだ。


「プールかぁ……いいけど、アテはあるのぉ?」

「国家ら電車2本で行けるとこにエブリデイサマーパークってあるでしょ?」

「ああ~。あそこなら大丈夫だよぉ~」

「じゃあ決まりっ。渚沙お姉ちゃん、一緒に行こうっ」


 ってな訳で今週の土曜日に行くことになった。



――――――――――――――――――


 そして当日、私は渚沙お姉ちゃんと一緒にエブリデイサマーパークにやってきた。時間は午前の9時50分。開園の10分前だ。


 一応私は去年買った白メインの花柄ビキニを持って来てるけど、渚沙お姉ちゃんはどんな水着を持ってるだろう?


「それにしてもぉ、やっぱり今日も暑いねぇ~」

「そうだね。それにしても渚沙お姉ちゃんの今日の服ってやっぱり素敵っ❤」

「ふふっ、ありがとぉ~」


 今日の渚沙お姉ちゃんの私服は、薄紫を基調としたシックなノースリーブワンピースと、同じ色のサンダルと言う格好だ。スタイルの良い渚沙お姉ちゃんの魅力を際立たせる理想的な服装だった。ちなみにこの格好は渚沙お姉ちゃん曰く「大学の友達が講義が終わって帰り際に一緒に寄った服屋さんで選んでもらった」とのことだ。


 そう言えば高校時代のお友達にも同じように洋服を選んでもらったって話をしてたっけ。高校の時もそうだし、大学に行ってもちゃんと渚沙お姉ちゃんの魅力を理解して服を選んでくれる友人と巡り合えて、私としては羨ましいなぁ。


 対して私は白のTシャツにデニムのホットパンツとサンダル。シンプルと言えばシンプルだ。ちなみに髪型はいつも通りのミディアムボブだけど、渚沙お姉ちゃんのウェーブのかかったロングヘアも憧れる。


「渚沙お姉ちゃんって、本当に反則レベルに可愛いよね」

「美咲ちゃんにそう言われると照れるぜぇ~」


 見た目は正に美少女だけど、一度しゃべりだすとほんわかのんびりしたいつも通りの渚沙お姉ちゃんだ。


「う、うんっ」


 という訳で、私達は施設の入り口まで駆け足で向かった。



――――――――――――――――――


 施設の中は2階建てになっていて、1階に巨大なプールやアスレチックがあって、親子連れが結構目立つ。夏休みってのもあるから当然だけど、やっぱり広いし人が多いなぁ。


「凄い混んでるね」

「そうだねぇ~。海水浴場も混んでるみたいだしぃ。やっぱりほとんどの日とは考えることが同じなんだろうねぇ~」


 渚沙お姉ちゃんの言う通りだ。毎年夏になると海もプールも人がごった返す。夏休みシーズンなんて特にそう。


「お姉ちゃんから離れないようにぃ~、手を繋いであげようかぁ~」

「渚沙お姉ちゃん……うんっ。お願いねっ」


 そう言って私は渚沙お姉ちゃんに右手を差し出し、手を繋いで更衣室まで向かった。でもやっぱりと言うか、更衣室の中も人でごった返していた。


「これは……空いてるロッカーを探すのも一苦労かなぁ?」

「う~ん。どっかに2人分あればいいんだけどなぁ~」

「じゃあ一緒に探そう、渚沙お姉ちゃん」

「りょうかぁ~い」


 取り合えず人の少ないスペースを探して更衣室の中を見て回る私達。と言うか個々の更衣室も結構広い。流石にこの時期を想定して多くの人達が使えるようにスペースを取ってるみたいだ。


「あっ、渚沙お姉ちゃん、あったよっ!」

「おお~。ここにしよう~」


 何とか更衣室の隅に2人分のロッカーの空きがあった。私と渚沙お姉ちゃんはそこに荷物を仕舞って着替えた。


(うわぁ~。渚沙お姉ちゃんってやっぱりスタイル良いなぁ~)


 改めて着替えてる渚沙お姉ちゃんの身体を見てそれを実感する私。胸もDカップでそこそこ大きいし、お尻と腰回りもキュッとしてる。白い肌も相まって外に出ればTPOを弁える美少女だ。


 しかも来ている水着は水色メインでフリルのついたビキニで、これまた素敵だ。


「素敵な水着だね、渚沙お姉ちゃん」

「ありがとぉ~。この水着ってぇ、高校の時の友達が選んでくれたのぉ~」

「そうなの?」

「うん。女子だったら可愛い水着の1着ぐらい持ってないとダメだよぉ~って言われたから、一緒に買いに行ったことがあってねぇ~。これはその時買った水着の内の1着。他にも3着くらい買ったよぉ~」


 そう言いながら渚沙お姉ちゃんは私の前で一回転して全身を見せてくれた。


「とっても似合ってるよ」

「サンキュ~。美咲ちゃんの白ビキニも似合ってるよぉ~。花柄も可愛いしぃ~」

「う、うん。ありがとう/////」


 こんな美少女な渚沙お姉ちゃんの可愛いって言われるとやっぱり照れる。でも超嬉しいっ!


「じゃあそろそろプールに行こうよ」

「そうだねぇ~。行こう~」


 準備が整った私達は、ロッカーに鍵をかけて準備運動をしてからプールに向かった。



――――――――――――――――――


 施設のプールに向かうと、家族連れやギャル、更には高校生や大学生くらいの男女でごった返していた。これは確かに渚沙お姉ちゃんと手を繋いでないと離れ離れになっちゃいそうだ。


「あそこのプールはまだ人が少ないから、私達はあそこからにしてみるぅ~」


 そう言いながら渚沙お姉ちゃんが指さしたのは、施設の隅にある丸いプールだった。メインの巨大プールと違って狭いのもあるけど、最初の内はまずあそこから入るのがいいかもしれない。


「そうだね。じゃあまずはあそこから行こっか」

「よぉ~し。じゃあ遊ぼぉ~」


 渚沙お姉ちゃんに手を引かれて、私達は丸いプールへと向かってそこに入った。


「んんん~。気持ちいなぁ!」

「そうだねぇ~。海に行くのはちょっと億劫だけどぉ、プールだったら近場で気軽に行けるからいいねぇ~」


 気持ちよさそうな表情でそう言った渚沙お姉ちゃん。確かに内からプールに行くには電車を乗り継いだりしても2時間以上かかる。でもここの施設は家からの徒歩と電車で30分で行ける距離だから気軽に行ける。


「美咲ちゃん、あのね……」

「あれ? いい感じの姉ちゃんじゃねぇか?」


 渚沙お姉ちゃんの声を遮ってチャラそうな男の声が私達の背後から聞こえてきた。振り返ってみると、3人くらいの日焼けした男の人が、2人のギャルにナンパをしてた。


「アタシらはナンパお断りなんですけどぉ~」

「いいじゃねぇかぁ~。こんないい身体してんだし、女だけで夏を楽しもうなんて勿体ねぇじゃねぇか」

「そうだぜ? 俺達と一緒の方が楽しめるぜぇ~」


 うわぁ~。ああいうチャラ男って夏になると海水浴場にはたくさん来るって言うのはニュースで見たけど、まさか家族連れが多いこの施設にも来てるなんて。ってかあのギャルのお姉さん達、本気で嫌がってる。


 それに結構近寄りがたい光景ってのもあって、周りの人達も見て見ぬふりをしてる。まぁ、よほど勇気がある人じゃないとあそこで介入して止めようなんてことが出来るとは思えないし、気持ちは分からなくはないけど……って。


「あれ?」


 気づいたら渚沙お姉ちゃんが隣にいない。


「あのぉ~。お兄さん達ぃ~」

「あん?」

「なんだぁ……って、おいおいおいっ‼」

「超美人じゃねぇかっ‼」


 あちゃ~。渚沙お姉ちゃんったら止めに入ったんだ。ギャル男達も目をギラギラさせてる。


「この人達嫌がってるよぉ~。ナンパするのは自由だからいいけどぉ~。ちゃ~んと相手が嫌がってるかどうかを考えてからするのがエチケットだと思うなぁ~?」

「へ、へぇ~。見かけによらず言うじゃねぇか」

「なぁ、代わりにこの子を誘ってみねぇか?」

「そうだな。なぁ、そっちのギャルはもうどうでもいいから、お姉さん代わりに俺達と遊ぼ……」


 と、金髪のギャル男が渚沙お姉ちゃんの肩に触ろうとした瞬間、目にも止まらぬスピードで渚沙お姉ちゃんはその手を掴み、鮮やかな一本背負いで仕留めてしまった。


「なっ……‼」

「う、嘘だろぉぉぉぉ……」

「う~ん。勝手に見ず知らずの女の子に触ろうとするのはいけないなぁ~」


 あれだけの早業を決めたのに緩い雰囲気で表情はにっこり。そのギャップにギャル男達は完全に戦意喪失し、見ていた人達もギャルのお姉さん達も唖然としていた。


「今回のあなた達のナンパは失敗だと思うからぁ、別の場所でちゃんと嫌がらせない、迷惑が掛からないナンパをしなきゃだめだよぉ~」

「「「も、申し訳ありませんでしたぁ~‼」」」


 ギャル男達は悲鳴を上げながらその場から足早に立ち去って行った。実は渚沙お姉ちゃんは柔道の道場に通ってて、今は四段の実力の持ち主だ。それにしても、高校時代の部活の試合で見た時よりも技のキレが上がってる。


「大丈夫ぅ~?」

「う、うん。ありがと」

「マジ助かったっ‼ 感謝感謝っ‼」

「ふふっ、ナンパには気を付けてねぇ~」

「「はぁ~い‼」」


 観衆の拍手を受ける中、ギャルのお姉さん達は渚沙お姉ちゃんに謝意を伝えて奥の大型プールに消えていった。ちらっと見えたけど、あのギャルのお姉さん達のほっぺ、結構赤くなってた。


「前よりも技のキレが上がってたね」

「ありがとぉ~。大学でも柔道部に入ってるけどぉ~。もっともっと頑張らなきゃって思ってるんだぁ~」


 やっぱり渚沙お姉ちゃんって素敵。こういうところがあるから私は渚沙お姉ちゃんが大好きだ。だって今みたいにめっちゃかっこいい時もあるんだもんっ❤


「じゃあ、もっともっと楽しもうかぁ~」

「うんっ‼」


 とんだトラブルもあったけど、私達は改めてプールを堪能した。

 


――――――――――――――――――


「はぁ~、楽しかった~‼」

「うんうん。たまにこうやってお外に行くのもいいねぇ~」


 すっかり夕方になって、私達は帰りの電車の中でくたくただった。


「それにしてもぉ、美咲ちゃんが作ったお弁当はすっごい美味しかったよぉ」

「あ、ありがと/////」


 丹精込めて作ったお弁当を褒められて嬉しい私。何を隠そう渚沙お姉ちゃんの為に料理の腕を磨いてきたんだもの。渚沙お姉ちゃんのお母さんからの要望ってのもあったけど、今はそれだけじゃない。


「また来ようねぇ~」

「うんっ。今度はナンパするような男の人がいないとこを選ぼうよ」

「いやいやぁ~。夏の時期にそれは難しいよぉ~」

「そ、そうだね。言われてみれば……」

「大丈夫。美咲ちゃんが嫌がるようなことをする人がいたらぁ、お姉ちゃんが今日みたいに助けてあげるよぉ~」

「な、渚沙お姉ちゃん……❤」


 ずるい。今日のギャルのお姉さん達がそうだったように、かっこいい渚沙お姉ちゃんにあんな風に助けられたら、ますます好きになっちゃう❤


 でも、それでいいかも。だって私の憧れの渚沙お姉ちゃんだもの。これからもずっと一緒になりたい。ううん。ずっと一緒になれるように、私も素敵な女性を目指さなきゃ! 今年の夏はその為にも頑張るぞっ‼

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