第3話 何でも溶かす液体
『これは何でも溶かす液体です。そう言って、その怪しげな男はガラス瓶内の液体を振ってみせた』
頭空っぽの人は、これでも騙されます。というか私も、人から初めてこの話を聞いたときは一瞬「それから?」と思いました。
まぁでも、ちょっと考えれば分かりますよね。『何でも溶かす液体』なら、ガラス瓶は溶かさないのか?と。なのにガラス瓶に入っているのはおかしいんじゃね?ってね。
まぁ、今回のテーマはこういうお話です。オチはつきました、おしまい......ってな訳じゃないんですよね、ひねくれてる僕は。
まぁ僕これでも理系なんで? この話を聞いた後で少しして、ちょっと思ったんですよね。
所謂、飽和溶液の問題を。
飽和溶液。とりあえず説明すると、
『溶液において、溶解度まで溶質が溶けている状態を飽和状態、その溶液を飽和溶液と呼ぶ。水溶液の場合は飽和水溶液と呼ぶ。』by.wikipedia先生
飽和した溶液、それが飽和溶液。それならば『何でも溶かす液体』であっても、ガラス瓶に入れられます。その溶液は、既にガラス瓶の内壁を溶かし切っているわけですから。
なんか妙な話だって? 例えばホラ、めちゃんこ分かりやすい例を挙げましょうか。
まずは食塩を固めて、めちゃくちゃ内壁の厚い容器を作ります。そしてそこに少量の水を注ぎます。するとどうなるか?
注いだ水は食塩コップの内壁を溶かすものの、すぐに飽和水溶液となりそれ以上は食塩を溶かせなくなります(めちゃくちゃ濃い食塩水になって、これ以上は濃くなれなくなる)。まぁ正確に言うと溶解平衡の状態になっているわけですが。
つまりですね、塩で作ったコップにも水は注げるのです。まぁ極端な話、やろうと思えば。
さーて、ここらで終わらせると僕のバカが透けて見えるので、まだまだ話を続けます。実はこれ、嘘なんですよね。まぁ読んでくださっている方の9割方が気付いていらっしゃると思いますが。
ズバリ、飽和溶液なら『何でも溶かす液体』じゃなくね?問題。
確かに、既に溶かし切っているなら、これ以上溶かすことはないから、その時点でその液体は『何でも溶かす』訳では無い。おいコラ、結局嘘つきじゃないか、と。
でも、ですがねぇ。溶解平衡って実は『これ以上溶けない』とはちょっと違うんです。
そもそも平衡とは、互いに反対向きな2つの化学反応の速度が釣り合った結果、巨視的には反応が停止したように見える状態のこと。先程の例で言うならば、実はミクロなレベルでは食塩の内壁も溶け続けています。ただし、食塩水に溶けていた食塩が固体の結晶に戻る(析出する)変化も同時に起こっていて、この対となる、相反した反応の速度が釣り合った結果、反応がまるで止まっているかのように見える。食塩があたかも『溶け切った』ように見えるのです。
つまり、飽和溶液でも、その実ちゃんと『溶かし続けてはいる』んですよ、これが。少なくとも『何でも溶かす』という言葉に嘘はない。ただ、溶かす速度が『ちょっと遅い』だけなんです。
まぁ平衡の話なんて持ってこなくても、ただ単に、まだまだ溶かしている最中の溶液を見せれば良いだけなんですけどね。現在進行形で溶かしているのなら、ミクロ視点での詭弁の発動なんて不要ですし。
という訳で、詭弁を詭弁で負かそうとした結果、段々書いてる僕も訳が分からなくなってきたので、今回はこれにて。
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