第37話 予想外のバタフライ・エフェクト ①
実験体0721──通称”
公式からも『作中屈指の強キャラ』と明言された存在であり人外。
主人公の三春と仲良くなり、終盤で命を落とす悲しき踏み台キャラだ。
カップリングの相手がいないばかりに、既存カップルの仲を深める要因として使われてしまった不遇なキャラ──そして俺の推しキャラでもある。
深紅の長い髪の毛が特徴的で、全身ピッチリの黒タイツを着てデカい銃のギアを使用するため、その姿を見れば一発で人物を特定できる。
だからこそ、俺は目と鼻の先に現れた彼女を見て『千夏だ』と気づき、判断が一瞬鈍ってしまったのだと思う。
◆
「──きて」
何だ?
「おきて──」
よく分からんがまだ眠い。
どうか揺らさないでくださいませ。
「──起きてってば! 柏木くん!」
「うおぉっ!?」
叫びと同時に思い切り肩を叩かれた俺は、思わず二度寝態勢を解除して飛び上がってしまった。
いったい誰だ起こしたのはこの野郎と寝ぼけ眼をこすりながら目を開けると、そこには愛しのルームメイトこと安代田冬香さんの姿があったのだった。
「もう、やっと起きた」
「……何してたんだっけ、俺たち」
そんな言葉がすぐ出る程には、自分たちが理解できない状態になっている。
「あの……どうして二人とも裸なんですかね」
「本当に覚えてないの? ……まぁ、戦闘中に頭を打ったししょうがないわね」
冬香は体育座りのまま、どうやってつけたのか分からない焚火のそばで暖を取っている。
よく見ればこの場所は海岸付近の洞窟のようで、入り口近くには俺たちの制服が干されていた。
え、何なんだこの状況。
頭を打って記憶が飛ぶのコレで二回目なんですが。
もしかして俺って脳へのダメージにめちゃくちゃ弱い? 洗脳への耐性とかすげぇ弱そう。あひぃ。
というか冬香と裸で二人きりとか何か壮大な間違いを犯したとかありそうで怖い。
「……っ? ぁ、あれ?」
少しだけ冷静になり、自分の身の回りを見渡してようやく気がつくこともある。
「ネックレスがない……ロボもいない」
憎たらしい相棒の姿がどこにも無い。
「わたしも気が付いたらここにいたの。ロボの姿も見ていないわ」
「たっ、たいへんだ、すぐ探さないと──」
「落ち着きなさいって。記憶が飛んでるみたいだから、とりあえずわたしの知っていることを話すわ。一旦冷静にね」
「あ……はい」
取り乱す様子のない冬香を目の当たりにして、俺も少しだけ平静を取り戻し始めた。
「……」
「っ? なに柏木くん、どうかしたの?」
「なんでもないです」
……いや違う。
ちがうちがう。マジで違うって。
別に一糸纏わぬ姿の冬香を前にして、そのセンシティブとしか言いようがない肢体に視線が釘付けになってしまい、思わず口数が減ったとかそういうんじゃないから。ホント。
足と腕でうまいこと秘所を隠してる姿が逆に扇情的で、隠しきれず腕からこぼれてる大きな二つのメロンとか、妙に湿っている場所なせいかオイルを塗ったかの如く艶やかに見える太ももとか、そんな直球的なエロに心を揺さぶられてるわけじゃないです。これはガチ。俺は紳士なので。
「……柏木くんも男の子ね」
「…………少し寒いな」
「ねぇ。その視線、本気で気づかれないとでも思っているの?」
「ヒッ」
彼女が何を言っているのか分からない。
俺は安易に性的な方向には進ませないことで有名な男なんだ。
「……あなたが見たいって言うなら、少しくらい──」
「待て待てそれはおかしい。早まるな。ふざけるなよオイ」
「な、なんでわたしが逆ギレされてるの……?」
危ないところだった。この状況では理不尽に逆ギレするくらいしないと、危うく彼女の甘美な言葉に乗せられてしまう恐れがある。
いやホント是非ともそういうエロゲみたいな”急に性に関して寛容になる発言”は控えてほしい。
俺は安易に手を出さないという意思表示と引き換えに彼女の信頼を勝ち取ったんだ。ここで特殊スチルを回収したら俺への好感度とか、この後の展開でいろいろと支障が出てしまう。急ぎ過ぎは禁物だろう。
ロボにこの場面を見られてたら、翌日のシミュレーションで俺と冬香が禁断のほにゃららをしている様子を事細かに説明されてしまうところだったな。危ねぇ。
それにもし良い感じにエロいことが出来ても、ロボが居ない今の状態じゃ、体から出てきた寄生型を倒せないんだ。
まずはロボを探さないと。
◆
あれから一時間ほど経過し、俺が起きる前から干していたらしい衣服が渇いたため、俺たちはそそくさと身だしなみを整えて洞窟を出ていった。ちなみにスケベな事はしていない。
その間、これまでに起きた事はすべて冬香から聞いた。
「まず学園にチナツが現れて」
「唐突に校舎を襲ってきた、あの大きい銃のギアを使用していた赤い髪の少女のことね。あの子そんな名前だったんだ」
それから。
「学園付近の海から超大型のビーストが出現して」
「えぇ。チナツって子は一旦三春に任せて、わたしたちは超大型の討伐に向かったわ」
最後に。
「ボロクソに敗北して、この海岸に流れ着いた、と……」
「そう。あなたの言うチナツが三春の隙を突いてこっちの戦場に来て、変なちょっかいをかけてきたから、あなたとわたしはビーストの不意打ちを喰らってしまったの」
「……情報量が多すぎる」
砂浜を歩きながら、俺は辟易したように呟いた。
まず第一に、新キャラのチナツは当初敵キャラクターとして登場してくる。
先ほども言ったように、人類滅亡の危機だってのに小競り合いをしているバカな組織があり、彼女はそれの洗脳を受けているのだ。
強い生徒を攫うために学園へ強襲を仕掛けるも、冬香によって鎮圧されて洗脳が解け、学園で保護したあとは三春がお世話係になる──というのが原作での流れのはず。
少なくとも超大型の敵なんてのは出てこないんだ。
アイツが登場するのはかなりの終盤で、チナツがしっかり味方になり、さらに強いキャラクターに成長したあと。
なにより超大型は、チナツを殺害する張本人だ。
核を破壊された後の悪あがきで彼女の命を奪う。
端的に言うと作中最強キャラが相打ちでようやく倒せる敵なので、現状の戦力では勝ち目があまりにも薄い。カルピスの原液を1とするなら、水を99くらいの量で薄めてるぐらい薄いのだ。
「……つまりラスボスが中盤に現れてしまった、ってことで合ってるのかしら?」
「まぁそんな感じだな」
本当はアレの後にもう一体ラスボスがいるし、本格的に頭が痛くなってきた。どうすんだよコレ……。
美少女しか登場しない百合アニメに男が入るとエロゲになるかもしれない バリ茶 @kamenraida
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