それは青空のように
──強い光は空を作る
「・・・なんで・・ここに・・? 鞠・・・」
ブランコから手を放し、ゆっくりと立ち上がる部長。よろめいた瞬間とっさに駆け寄り、鞠が体を支える。 「部長!大丈夫ですか?」
「だ・・・大丈夫・・・もなにも・・・なんで・・・」
あの時、初めて自ら部長の唇を奪った時。それから部長から猛烈な拒絶を受けていた。
それから数日ずっと避けられていたため、それを自分の責任だと鞠は思っていた。
─自分から求めたから?─
・・・いや違う・・・自分が悪いわけではない。なにか部長を縛るなにかがあると察したから。
部長の母親との会話がいやに頭に刺さった。
─・・・あの頃からふさぎこんで・・・─
『あの頃』とは何だろうか。
鞠が高校に入学し、そして知り合った部長。それまではずっと赤の他人。部長の過去など知るわけがない。
・・・しかし部長と話をし、一緒に絵を描き、そして・・・触れられて・・・。
・・・体の中から触られて、心を触られて・・・感じた違和感。一方的な暴力的な愛情表現。そして母親の言葉・・・。あの頃・・・あの頃が部長の心を不安にさせている原因なのだろう。
その不安を聞き出して拭えるだろうか・・・いや・・・絶対に無理・・・鞠は母親でもなく、親族でもない。あくまで他人なのだ。
でもここまで心を乱した先輩を見て放置など絶対にできやしない。
─なぜ、他人にここまで必死になる?なぜ一緒に悩むことができる?─
─・・・私は・・・部長が・・・好き・・なんだと思う・・・─
***
鞠やゆっくりと部長をベンチに座らせ、途中の自販機で買っていたスポーツドリンクをとりだし、部長に渡す。
しかし、先輩は手を取らず、ぼーっとしていた。
鞠は顔をむっとさせて冷えた缶を部長の頬に押し付ける。
「冷た!!こら!鞠!!なにを!!」
「あは!いつもの部長にもどった!」
「!!・・・あ・・・ごめん・・・鞠・・・」
はっとした部長は顔を赤くして顔を伏せる。
「私こそごめんなさい。あまりにも我、心あらず!みたいな感じでしたから思わず冷たいジュースおしつけちゃいました・・・」
「いや・・・いいわ・・・あたしもどうかしてた・・・」
部長は不安そうに鞠を見る。そして鞠と目があった瞬間さっと顔を伏せる。
「・・・あ・・・あたしの事・・・嫌いになった・・・?」
鞠はそっと部長の手に触れる。
「・・・あ・・・」
ビクリと体を震わせる部長。
鞠は肩に寄り添う。微かに漂う花の香り・・・部長のシャンプーの香り・・・。
その香りは鞠の心を安らかに・・・そして強くさせるのだ。
「嫌いになんてなりません・・・嫌いになってたら、今、私はここにはいませんよ?」
部長は生つばを飲み込み、ゆっくり鞠に顔を向ける。しかし視線は合わせようとしない。
鞠のお腹を・・・胸を・・・恐る恐る顔に・・・鞠の目を・・・。
そしてその鞠の表情を見て・・・その笑顔を見て、一気に部長の瞳に涙がたまる。
・・・そして、強く鞠を抱きしめた。
***
「本当にごめんなさい!急に突き放してしまって」
「いえ・・・いいんです。部長が元気になったから」
部長は鞠からもらったスポーツドリンクの缶をぎゅっと握りしめながら微かに震えていた。
何におびえている・・・鞠に冷たくあたりまた突き放される・・・その恐怖からなのだろうか。
一度冷たく当たった身である。鞠がその態度に怯えてまた近くに寄ってくれる・・・ってことは相当なお人よしか馬鹿だ。
部長も十分に承知している。鞠がまた自分についてきてもらえいると思えない。
ゆっくりとそっと・・・不安な顔で横に並んで座る鞠の体を再び恐る恐る見る・・・。
「部長、そんなに怖がらないでください。私は全然おこってません。むしろ今まで部長の気持ちを分かってあげられなくて申し訳ないと思ってます」
「・・・気持ち・・・?なんで・・?」
一瞬はっとする鞠。母親からのあの言葉はあくまで自身の憶測。実際に部長の身になにがあったかわからない。しかしこの部長の返しを聞くからには鞠が部長のなにかについて知っているかのような素振りにも聴こえるわけだ。
もし知られたくない秘密だとしたら・・・鞠が知ったとしたら・・・さらに傷がつき、二人の間にもっと深い深い溝ができてしまうかもしれない。
鞠は焦って今いった言葉訂正する。
「あ!いや・・・部長自身から他人に触れられるのが怖いってのが分かったので・・・。一方的に私に寄り添ってきたから答えてあげないと・・・ってふと、思ったんです。そうしたらあの態度をとられたんですから・・・私もかなりのショックでしたよ?」
「・・・ん・・・うん・・・だよね・・・あたしも本当にどうかしてた・・・鞠・・・ごめんなさい・・・。もうあんなことは絶対にしない。約束する・・・だから・・・ね・・・一緒に頑張って・・・絵を描き上げてほしい・・・。あたしの身勝手で部がなくなって・・・榊木さんもコンクールに出展する機会を失ったりしたらあたしの責任さし・・・」
「大丈夫です。私は部長を絶対に嫌いになったり裏切ったりしません!」
「・・・鞠・・・ほ・・・ほんとうに・・・?」
部長は涙をためながら、鞠の制服を掴みすがる。
いままでにない弱弱しい部長の態度に鞠は動揺を見せる。
しかしこのままでは部長の言う通り部が崩壊してしまう。これを今止められるは自分自身だと思った。
鞠は慎重に言葉を選ぶ。
「はい!部長がいなければ今の私が絵を描くことを選ぶことはなかったし、そのまま帰宅部でしたから。私に大事な青春をくれたのは部長です。この高校生活で進学以外に自分に成果をだすという目標をもつきっかけをくれた・・・私の高校生活に色をつけてくれたのが・・・部長・・・。だから・・・」
「鞠・・・」
鞠は部長の両手を持て持ち上げる。
突然の鞠の行動に一瞬動揺を見せる部長・・・だが・・・
──目の前に・・・夕日を影にして見せる鞠の顔は・・・満面の笑顔──
「だから・・!部長が大好きです!!!」
その声を聞いた瞬間に部長の目から一気に涙が溢れる。
・・・そして、鞠に抱きつき頬を寄せて大声を上げる部長だった。
「鞠ぃぃ!!ごめん・・ごめなさい!!!
それにそっと手を回し、部長の黒髪に添えてその気持ちに答える鞠だった。
蒼い道を二人で歩み続けながら(全年齢版) 笹原 篝火 @kagarisasahara
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