第4話 【触ってはいけない鏡にせまる!!】

「鏡に魔力を込めるにしても、呪文がわからなければ時間がかかる。それなら新たに呪文を構築すれば良いのか?」


 ぶつぶつと呟きながらミレアは廊下を歩いていた。


 解決法を考えているが、これといった解決法が見えてこない。どうしたものかと頭を抱えていると、廊下の角から勢いのある足音が聞こえてきた。


 その足音の正体を確認したミレアは声を荒げる。


「お嬢様! 廊下を走ってはいけないと言っているでしょう!」


「ごめんなさいミレア! でもわかったんです」


「? 何がわかったんです?」


「2人を二ホンに帰す方法が」


 その言葉を聞いて驚愕するミレア。


「ミレア、お母様がどこにいるか知らない? 探してるの」


「アイリス様なら自室にいらっしゃると思いま――」


 言い終わる前に子供たち3人は、ミレアの横を通り抜けてく。


「ですから、走ってはいけないとッ」


 反射的に怒るミレアにたいして、エリーナはごめんなさい。とだけ言って走るのを止めなかった。


 元気よく笑いながら走り去るエリーナの背中は、ミレアにとって虚を突かれた思いだった。


「久しぶりにお嬢様の心からの笑顔を見た気がするわ」


 今日くらいは仕方ないですね。とミレアは笑って彼らの後を追いかけた。


 蔵書の中に参考になるようなものは無いかと、自室の本棚を漁っていたアイリスの元に、子供たちが飛び込んできたときは驚いたが、本の内容を聞いた時はそれ以上に驚いた。


「確かにこの方法なら、問題は無さそうですね」


「呪文についても全て理解できます」


「許可については大丈夫なのですか?」


「問題ありません。私が責任を取ります」 


 大人たちが大勢集まり、本の中身を話し合っている。


 そして1時間が経つ頃には全てが決定した。


「あなたたちを二ホンに送り返す事が出来そうです。早速ですが準備しましょう」





 場所は柱時計のある広間。そこにエリーナの鏡を中心に置いた。


「お二人と出会えて楽しかったです」


「最初はどうなるかと思ったけど、アタシも楽しかった」


 エリーナとマナが握手をして別れを惜しむ。


「俺も楽しかったよ。異世界に来るなんてもう二度と経験できないだろうし」


「そんな事ありませんよ。またいつでも来てください」


 冗談を言いながら、洋太とも握手を交わす。


 鏡の周りでは、複数の人が呪文を唱えることで鏡に魔力を注いでいた。それにより、鏡面は段々と波打ち始める。


「さぁ、準備は整いました。エリーナと仲良くしてくれてありがとう」


「「お世話になりました」」


 2人は一礼して鏡に手をつくと、ズブリと腕が飲み込まれていった。


 エリーナは何かを言いかけたが言葉が続くことはなかった。その背中を母は優しく撫でる。


 段々と鏡に飲み込まれていく洋太とマナ。その後ろ姿を見送り、完全に2人の姿は無くなった。


 一時の客人であったが、その思い出は永遠にエリーナの心に刻まれた。






「戻ってこれた」


「学校だ」


 2人は互いに喜び合いながらも廊下にへたり込んだ。正確な時間はわからないが窓の外は完全に夜であることは間違いない。


 職員室に向かうと担任の新井先生がおり、突然学校から居なくなったうえに家にも帰っていない事をこっぴどく怒られた。


 もちろん異世界にいたなどという言い訳ができるはずもなく、学校外の怪談を集めていたという言い訳に落ち着いたのだった。


 そして、その月のクラス新聞はなかなかに評判がよかった。




【一条小学校七不思議の1つ、触ってはいけない鏡にせまる!!】

 触ってはいけない鏡に触ると異世界に連れていかれる。これは数十年前に起こった実際の事件だ。

 A君は鏡に触ってしまい異世界に飛ばされた。その原因は異世界の魔法使いが別の世界の人と話してみたいという好奇心から生まれた魔法だった。

 鏡を通して異世界に来たA君は魔法使いと仲良くなり、数日後に無事に帰ってきた。

 というのが調査でわかった事だ。くれぐれも鏡に触れる際はご注意を。




 その新聞が張り出されると、2人はクラスメイトから質問攻めにされたが答えをはぐらかし続けた。


「驚いたよな。エリーナのおじいさんが、数十年前に鏡に魔法をかけた張本人だったなんて」


「しかも、別の世界の友達の事を日記に書いたけど、読まれないように鍵をかけて隠してたんだから」


「そのせいでもあり、そのおかげでもあるよな」


「だね」




 異世界の友達に事を思いながら、今日も彼らはネタを探している。

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クラス新聞係は異世界に行く 笹野谷 天太 @wd-l27

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