第3話 本の謎を追え!

 お茶を終えたエリーナが、お城の中を案内してあげる。と提案したことにより3人は場内を見学することになった。


「こんなお城に住むの夢だったなぁ」


 廊下を歩いているだけで、マナはうっとりと目を輝かせていた。


 先ほどまでの不安も無くなった今、城のあちこちを見ては感動の溜息を吐いている。


「あまり良いものではないですよ。広いから移動するのも大変なんです」


「そーゆーものかなぁ」


 理想と現実は違うらしい。その後も、案内される部屋を見てはその豪華な装飾品の数々に、マナだけではなく洋太も圧巻されていた。


「ここが図書室です。蔵書の数はこの国一番なんですよ」


 国一番の蔵書量を誇るというに違わず、所せましと本棚が置かれていた。


「俺、本読むと眠くなるんだよな」


 普段から洋太は本は読まずにサッカーばかりな少年だった。大人しくページをめくるより、ボールを追いかけている方が性にあっていた。


「ヨータさん、本は面白いですよ。様々な人の考えや物語が楽しめますから」


「先生も似たようなこと言ってたな」


「それに、ここには私のお気に入りの本もあるんです」


 そう言ってエリーナはどこかに走り去り、戻ってきたときには1冊の本を抱えてい

た。


「これは我が家に伝わる本なんです」


 その本は他の本とは随分と違う形をしていた。


「鍵がついてる」


 本の形をしていながら、誰も読めないようにと鍵を施している本。


「この本の鍵は無いんです。いえ、有るはずなんですけど隠されているんです」


 エリーナは本の表紙を撫でる。


「私のお父様のお父様。つまり、おじい様が書かれた本らしいのですが、内容は誰も知らないんです。噂では存在しないはずの魔法について書かれているとも言われているんです」


「へぇー」


 そんな本があるのかと感心していた洋太だったが、1つ気になる言葉を聞いた気がした。


「今、魔法って言った?」


 たった今エリーナは存在しない魔法と言った気がする。


「え? あ、はい。魔法です」


 魔法という言葉自体は理解できる。問題は魔法が存在するという事実。ゲームでも漫画でも定番であるが、地球では有り得ないファンタジー。それに憧れるのは当然だった。


「エリーナ。魔法って見れない?」


 洋太が聞くと、彼女は申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「ごめんなさい。魔法は法律で使用を禁止されているので使えないんです」


「魔法って自由に使えないんだ?」


「はい。様々な事情で、許可がなければ魔法は使えません」


 それを聞いてガックリと肩を落す洋太だった。


 一方その頃、中庭にはアイリスとミレアの姿があった。


「ミレア、どうでしたか?」


「はい。アイリス様のおっしゃる通り、鏡から微量の魔力が検出されました。あの鏡が原因で間違いありません」


「やはりそうでしたか。誰の仕業かは?」


「そこまでは。しかし、世界を移動させる魔法というのは聞いたことがありません」


「ですが解決法は解りました。再び鏡に同じ魔法を使えば、あの子たちを元の世界に返してあげられる。なるべく早く解析してちょうだい」


「わかりました」


 ミレアは一礼すると去っていった。


 アイリスは椅子の背もたれに身体を預けると、大きく息を吐いて青空を見上げた。

 




 エリーナ、洋太、マナの3人は図書館で鍵のかかった本の話しをしていた。


「これの鍵ってどこかに隠されてるのかな」


「隠さなきゃいけない理由なんてあるか?」


「あるから隠した、という風にも取れますね」


 3人が鍵の理由を考えていると、エリーナが突然なにかに気付いて手を叩く。


「この本の鍵と内容がわかれば、クラス新聞に載せてもらえませんか!?」


 マナたちからすればネタの提供ほど嬉しいものはない。願ってもないエリーナの提案に2人は喜んだ。


「大歓迎だ。この謎が解ければ絶対にクラス新聞に載せるよ」


「異世界の本の謎。これは良い記事になるわ」


「じゃあ、決まりですね。一刻も早く鍵を探しに行きましょう!!」


 決意を固めるエリーナに対し、洋太が疑問を口にする。


「探しに行くって言っても、ヒントもない状況で鍵の場所なんてわからないんじゃないか?」


 ところが、エリーナはニヤリと口元を歪め、本の裏表紙を見せる。


「実は、私最近になって気付いたんです。この裏表紙に擦れていますが文字が書かれているんですよ」


 言われてみれば、確かに薄っすらではあるが文字が書かれていた。


「その全文も解読できたんです。【私を見つけるには、昼と夜を駆け巡る必要がある。追いつくことを6の月に1度、3の月に4度。知らせを受けた私は、扉を開けて出迎えるだろう】と書いてあります」


「確かにヒントっぽいな。でも暗号みたいになってる」


「昼と夜を駆け巡る。って何だろう? 太陽と月、とか」


「あ、太陽と月が描かれている絵は広間にあります。行ってみましょう」


 3人は図書館を出て広間へと向かう。


「エリーナ。ちょ、ちょっと待って」


「早く行きましょうマナさん。謎が私たちを呼んでます」


 図書館から広間まではだいぶ遠く、それを速足で向かっている事で、マナの足が悲

鳴を上げていた。


「早く来ないと置いてくぞー」


 体力に自信のある洋太は問題ないらしい。


「2人とも、なんでそんなに元気なの?」


 目が回りそうなマナに比べ、エリーナはとても元気だった。


「私、普段は学校に行っていないんです。姫という立場なので学ぶことも特殊で、いつもはミレアに勉強を教えて貰っているんです。だから、同じくらいの年齢の友達もいなくて。お二人と話ができて、ついはしゃいじゃいました」


 照れ臭そうに笑う彼女の顔を見たマナは、深呼吸を2、3度すると再び歩き始める。


「ほら行くよ。遅れんな!」


 気合の入った表情を見た洋太とエリーナは笑顔で後に続いた。


 入り組んだ城の中を歩き続け、やっと広間までたどり着くことが出来た。


「あそこに飾ってある絵がそうです」


 広間の片隅に飾ってある絵画。左には太陽が描かれ、右には月が描かれている。大きさにして1メートルもない大きさのこじんまりとした地味な絵。


「絵の裏が定番だよな」


「かもね。これ壁から取り外したら怒られるかな」


「大丈夫です。壊さなければ怒られません」


 エリーナの許可という事で、ゆっくりと絵を壁から外し、様々な角度から眺める。


「なにもおかしなところは無いな」


 絵の裏側も額縁も、目ぼしいところは探したが何も発見は出来なかった。


「この絵じゃないみたいですね」


 絵を元の位置に戻し、もう一度暗号の内容を考える。


「昼と夜、6の月と3の月。ダメだ、全然わからない」


 マナが天を仰ぐ。


 その時、広間に音が響いた。


「キャッ」


「おわ!」


 突然の音に驚きの声を上げる2人。


 ボーン、ボーン。と鳴り響く音の正体は時計だった。


 大人の背丈ほどの大きさで、上部には短針と長針が時間を刻み、その下ではガラス扉の奥で振り子が左右に揺れており、3時を知らせるために鳴いていた。


「私も小さい頃、あの時計が鳴るのが怖くて仕方がありませんでした」


 慣れているエリーナだけが、何事もなく時計を見つめている。


 その様子を眺めていたマナは、何か頭に引っかかりを覚えた。自分でもわからないような小さな引っかかり。


 それの正体を考えて、たどり着いた。


「時計だ」


 マナはそう小さく呟いて柱時計に駆け寄った。


「どうした?」


「時計がどうかしましたか?」


 そう問うと、彼女は興奮気味に語り出す。


「時計だったんだ。暗号の場所はコレよ。昼と夜を駆け巡るって言うのは午前と午後。6の月と3の月って針の事を言ってるんだとしたら」


「6時に1回、3時に4回針を合わせる」


 洋太も時計だと確信したらしい。


「合わせてみましょう!」


 柱時計はそれなりの大きさなので、3人の中で唯一針に手の届く洋太が、代表して針を回すことになった。


 人差し指を長針にかけ、グルグルと回し始める。3時から4時になり5時を通り過ぎる。そして6時で止める。


「この後は3時を4回か」


 続けて人差し指で長針を回し続け、3時に4回針を合わせる。


 長針が12に合わさった瞬間に時計が鳴った。ボーン、ボーンと2回響かせた後にコトン。と何か固いものが落ちた音がした。


「何か落ちた音がしましたね」


「だね。でも見当はついてるんだ。知らせを受けた私は、扉を開けて出迎えるだろう。ってね」


 マナが柱時計の振り子に注目する。ガラス扉を開けると振り子の下に鍵が落ちていた。


「これで本の鍵が開く」


「やりましたね! 早く開けましょう」


 3人はドキドキしながら鍵穴に鍵を差し込む。ガチャリと錠が外れる音と共に、本が読めるようになった。


 そのまま本を覗き込むと――――。

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