彼は歌を歌う~再会の約束~(孔雀王と親友の物語)

星乃秋穂(ほしのあきほ)

第1話 彼は歌を歌う

彼は歌を歌う。【ランとカナンの物語】



とても不思議な伝説がある浜辺がある。それは異国の地もつながり、天に砂時計が時を告げ龍、虎、孔雀の神がいる三国がある。そんな国に日本からその浜辺で異国に流されて生活をしている南和也の物語。その青年は異国の地で「カナン」という名を孔雀王からもらった親友としてこの孔雀の国で暮らさないかと言われて8年がたつ。自分が日本の地からこの国に来たのは8歳だった。本当は戻るつもりだった船に揺られて元の世界に戻るためにこの孔雀の国から出ていこうとした時、孔雀に引き留められたのだ。親友として「カナン」として生きてくれとこの地で過ごしてくれと泣いて引き留められた。

しかしもう一度チャンスがあった日本に帰る2日間の物語。


孔雀のランはとても音楽が大好きで良く弦楽器を使い歌詞を作り人々に歌うのである。趣味を超えてファンがいるほどだ。彼は孔雀の王だが国民を喜ばせることが上手い。自分で絵を描き展覧会みたいなこともする。自分の絵を売り貧しい人々に寄付をする。当たり前に何でもしてしまう。とくに言葉には力がある。日本で生活していればアーティストになれるのではないか。時々寝ずにひたすら絵や歌詞作りに専念する。毎日紙が散らばるのだ。

そんな姿を毎日見るのが「カナン」であり南和也だった。彼はこのどうしょうもない王の親友である。もう二人とも16歳だった。


「孔雀王様・・・。この山積みの紙は何ですか。いつもごみに囲まれて腐らないのですか?」


呆れた言葉で紙を拾う。またいい言葉を作っているのがわかり泣いてしまう。孔雀王の名言集など作ったらそれはベストセラーになるだろう。それくらい文章が上手い。思わず泣く、慌てて孔雀王は取り上げる。まだ作りかけなのだ。


「国民に聴かせたいのだ。これは愛だ」


「歌手になればいいのに」


「歌手?」


「私の国では歌を歌う者がいてそれで生活でき沢山のお金がもらえる職業があるのです。もっとも、才能がなければ食べていけませんし、意味のない歌詞など忘れてしまうのです。」


孔雀王は目をキラキラ輝かせる。まるでなりたいようだ。


「お前の国にはそんな素敵なことができるのか。俺も一度お前の世界を見てみたい。そして俺の歌が通用できるか。やってみたい」


「私がこの地で過ごしているのは元の世界に戻れないからです。南和也という名を捨てて「カナン」になったのです。あんな手紙や大声で帰るなといって引き留めたのはあなたでしょう」


「それはすまぬ」


カナンはにこにこ笑う。こういう素直に謝る純粋さが好きなのである。そしてこの孔雀の国民が好きだ。すべての国民が愛に満ちている。


「お前はもう一度。日本に帰りたいか?」


言葉を失う。父親と母親と妹には2度と会えないのだ。さよならさえ言えなかった。今頃どうしているのだろう。


「できればお前を家族に会わせてあげたい。自分には親がいる」


「はい、はい。もう終わったことです。諦めています」


「俺が帰る方法を調べる。でも必ずこの国に帰る約束をしろ。俺はお前がいないと寂しい」


そんなことができるわけがないが、とりあえずごみを拾う。どうしょうもない王なのだ。

それから1か月ひたすら本を読む姿の孔雀王がいる。今度は本だらけで足の踏み場もない。この貪欲は何だろう。異国の言葉も勉強する。とにかくいちずなのです。「カナン」は大きなため息をつき紐で次々本を片付ける。そんなことも気にせず読書をする。

オイオイである。この馬鹿たれである。


「わかったぞ。やっとだ」


「は?何が」


「お前が2日間だけ帰れる。方法だ」


「えっ!」


これは何かの偶然なのか「カナン」の心は高鳴る。


急いでその本を「カナン」も読む。日本に戻れる。でも2日間だけの約束。自分は「南和也」になれるである。


「俺も行くぞ。カナンしっかりお前の家族を見る。そしてお前の国をみる。言ってみれば冒険だ。」


こいつは王様だと言うのにその自覚さえない高校一年生である。でももう一度帰りたい。


「いいのですか?」


「そりゃあ、行くに決まっている」


「あんた王様でしょうが・・・」


「王様だから行くのである。部下がどんな国にいたのか興味がある」


と、言うが本当は歌手に興味があるのだろう。バレバレである。二人で計画をすることになる王様が突然2日間いなくなるなんて国民が知ったら大変だ。とにかくお金が必要だ。

こちらのお金が金と銀でできているこれなら使える。質屋や貴金属で取り扱えるしなんとかなる。服装にも困るこれでは移民である。でも王は日本語が喋れる。頭がいいそれならば服を変えることも可能だし靴を買うこともできる。よしよし、この本じたいがこの異世界繋がるページがあるらしい。すべて用意して、日本という国に二人は本の呪文を唱え異世界から日本へ旅立った。強い光が部屋を照らした。

ここからが本当の物語だった。


目を開けると公園にいた。あれ?自分の家の近くの公園である。てっきり海に行くと思った。不思議な感覚である。


「ここがお前の国か。」


「そうだけど。なんで?」


「ここはどういうとこだ?」


「公園」


「公園とはなんだ?」


「子供の遊び場」


「ほーう。」


慌てて本をしまう。するとボールを持った男の子がこちらを見て不思議そうな顔をする。何しろ目のまえに出てきたのである。


「お兄ちゃんたち。お坊さん?」


「えっ!」


そういう感じに見えるのか。ならば不自然ではない。ただありがとうと言った。


「よかったですね。とりあえず成功です。これからお金を買えるところに行きましょう。近くにあるんです。金属店」


和也はわくわくした。あの懐かしい場所に行くでもなぜみんなマスクをして過ごしているのだろう。彼はコロナを知らなかった。こういう病気がはやり大変な時代が来るなんて思わない。そしてロシアが戦争していることも、志村けんがコロナでなくなったことも、多くの店が潰れてしまった事も知らない。

街が大きく変わっていた。8年で何が起こったのだろう。思わず、電化製品店に行く、するとわかった。早くマスクをつけた方がいいですよと言われた。

何故?みんながマスクをして顔を隠すのだろう。病気になるらしい。


「お坊さん。知らないのかい?コロナだよ。マスクしないと死んじゃうよ」


「これは花粉症ではないのですか?」


「今の時代当然つけるのです」


慌てて周りを見る。すべての人間が表情を隠す。奇妙な光景だ。恐ろしいことになっている。自分の大好きだった志村けんが亡くなっていた。もう志村動物園も見れない。


「これをつけるのか」


「そうらしいです」


マスクをもらい。二人とも歩く。


「お前の国は大変だな。」


「そうですね」


「まさか、疫病が流行っている時に来たのか」


「何とも言えません」


8年という歳月は長かった。ここまで時代は変わっていた。都合よくお坊さんに見えたおかげなのか。みんなが不思議がらない。この方がよさそうだと感じた。すると一人の青年がどうかこの疫病をなくすように頼まれた。するとランは丁寧に私の国のお経でお良いですか?とても短いのです。と2分くらい。唱えた。「平和の意味」である。

いつの間にかランの周りには自然と人が集まる。次々寄付をしてくれる。みんながありがたいという。どういう事だろう。この不思議な感覚。


「お前の国にはちゃんと心があるな。私のようなものが来ても感謝される」


「孔雀王様」


「ランとよべ、ここでは王じゃない」


「うん」


沢山の寄付を頂きこれで何とかなりそうだ。と思ったら今度はホテルや宿泊所がない。  慌てていると今度はお婆さんが孔雀のもとに来た。お坊さん良ければ家へどうぞ。

謎なのだか。別に怖くはない。家にお邪魔する。するとお茶とお菓子を出してくれた。


「ありがとうございます。」


「いえいえ、これも少し神様の恩恵が欲しくてね。自分にできるのはこれくらいです」


「そんなことありませんよ」


お婆さんはどこか寂しそうに見えた。でも、自分たちに手料理をご馳走してくれて楽しそうに見えた。


「久しぶりに家族と食事しているような気分だと」


すると孔雀はとても優しい声で「家族のしあわせ」を歌う。まるで懐かしむように見る歌で嬉しいと言った。彼は歌だけでしあわせにできた。お婆さんは多くは語らずその晩を過ごせた。そして朝ごはんとお弁当をくれたのである。遠慮なく頂いた。


「ありがとうございます」


こう、ふか深く頭を下げるのである。


「色々な人がいるな。私も勉強させられる」


ランの方がある意味凄いと思った。王様なのにきちんと感謝しているのである。

公園でお昼をたべた。


「ガッカリしただろう。」


「いいや。なに国民を守る義務があるからな。いろんな人の事も考えるようになる」


「偉いな?」


「そうか?」


「普通ではない」


「もっとも歌いたかったがなあ・・・」


すると。隣でギターを持ち歌う少女がいた。とてもいい声をしている。なのに、マスクが声を邪魔した。

一生懸命歌うが周りの大人たちは無視する。今度はランが彼女に近づく。


「とてもいい声をしているなあ。」


「そんなこと言われたのは初めてです」


「そうか。歌詞もあなたが?」


「ええ下手です。」


「そんなことはない。ただいい言葉を使う方がいい」


「え!」


「寂しい、悲しいではなく、人の心を書いた方がいい」


「え!」


「そんな曲の方がいいだろう」


はじめてである。こういうことを平気で言う人は今までいなかった。


「よし、見本を見せてあげよう」


するとランは彼女からギターを借りマスクを外し。一曲の歌を歌った。「人と人の出会い」周りの大人たちが集まり拍手をする丁寧な曲で日本の言葉である。


「あんた凄いよ。プロの歌手?」


「できれば録音させてください」


皆がランに讃頌する。和也はただの馬鹿だと思っていた。泣き虫でわがままで自分勝手で誰かに助けてもらわないと生きていけないと思ったがさすが自分を引き留めた才能はあった。


「ラン」


「ん?」


「前から馬鹿にしてた」


「知ってる。俺は馬鹿だ。」


「でもお前にしか出せないわ。」


「はあ?」


「お前は王様だ」


「そりゃそうだ」


うん、うん頷く。こいつはいつか、いい王様になるだろう。


「今度はお前の家族に会いたい」


「え!」


「きっといい人だろう」


それが目的である。だから怖いのである。自分の家に行くのである。昔のままだったちゃんと「南」と書いてある。自分の住んでいる家だ。まだ、あのブランコさえもある。

母親が出てきた。不思議と涙が出る。慌てて母はハンカチを取り出した。


「お坊さんどうしたの?」


「いえ、ただ懐かしくて」


「ああ、あのブランコ」


母親の声が聞こえただけで嬉しかったのだ。母親はできれば何かしたいと言った。息子がいなくなり探しても見つからない。どんなに神様に願っても叶わない。ランは大切な息子を奪ったのである。「親友」になって欲しいと引き留めた。複雑である。


「ひとつ私の国を歌わせていただきたい。いいですか?」


「え!」


「再会の約束」


夕方に染まる空のようで静かでそれでいて懐かしい歌だった。もうすぐ帰る時間である。

とにかく色々あったでも母に会えたことが一番嬉しかった。2日間黙ったまま帰ったのでお仕置きがあり、また部屋の中、本だらけの生活が始まりではじめの頃は仏だったが「カナン」の心はブチ切れてついに本をすべて古本屋へもっていった。


「なんてことする。カナン」


「もう1週間も注意した!」


「そりゃないよ!!」


いつも通り孔雀王を怒るカナンだが、でも親友のおかげで故郷に帰れて良かったと思った。


どうしてカナンってつけたの?


約束の地という意味がある。


ほーう。


カナンは笑った。


いい言葉である。



                              おわり

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